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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第二十七話:特別講師(2)

 講義を行う扉の入口にトラップもなく、少しつまらないと感じてしまった。という事で、クソ真面目に講義を行っております。万が一、トラップなんて仕掛けていたら私から教育的指導を受けられたというのに。

 そして、講義の最初に自己紹介なんて始めだしたので面倒だから止めた。何のために番号札を配って効率化を図ったのかを丁寧に説明してあげたよ。

 冒険者になれば新人の半数は、一年で死ぬのだ。覚える必要もない。故に、名前を覚えて欲しければ有能な事を示せとも伝えた。

「依頼を受注するにしても発注するにしても、必ずギルドを通す必要があります。これは、ギルドが中間マージンを搾取する為です。更に、搾取したお金の一部を国家に献上する事で、ギルドはこのような暴挙が許されているのです」

 一人の学生が手をあげる。番号札25番の女生徒を指名した。

 このクラス…何故か女性比率が高い。40人居て9割が女性とは、凄まじい割合である。冒険者は、比較的に男性の多いはずなのだが、育成機関では逆のようだな。

 ここの女性出荷率を考えるに世の中で男性冒険者が多いのは、女性が稼ぎのいい冒険者を狙い撃ちして寿引退するのが原因なのだろうか。そう考えれば、冒険者にむさい男しか残らないのも頷ける。

「先生!! 万が一、ギルドを介さず依頼を直接受注した場合には、どうなるのでしょうか?」

「いい質問です。基本的に、バレなければ問題ありません。但し、事が明るみに出た場合のリスクを考えるとお勧めは出来ません。運が良ければ依頼を二度と受注出来なくなる程度で済みます。運が悪ければ、粛清されて迷宮の肥やしにされるでしょう。刺客を返り討ちに出来る自信が付くまでは、そういった不正はお勧めしません」

 粛清する側として雇われた時は、結構良い額を貰える。だから、こういう手合いが減るのは困るが…生き残るコツを教えるのがお仕事だからね。

「ギルドって思っていたところより、随分と汚いんですね」

「当然、人を勝手にランク付けしている辺りにゲスな雰囲気が漂っています。なんせ、先日大流行した『黒紋病』ですら、過去にギルドが行なっていた人体実験が原因ですからね。あ、これオフレコですよ」

 あの大流行から、領地でも少なからず被害が発生した。それから、気になって蟲達を使ってギルドを監視及び盗聴してみれな予想通りの結果だった。黒すぎて笑える。

 何やら、生徒達の顔が若干引きつっている。だが、真実なのだから仕方がない。

 外で漏らさなければ問題ない。酔った勢いで喋られなければ問題ない。

「では、次に迷宮で宝箱を発見した際に正しい対応について教えましょう。皆さんは、迷宮で宝箱を発見した際の対応は、どのように習っていますか?15番の人」

 タルトと同じ猫耳をした亜人の少女を指名した。私の講義内容をしっかりとメモしているあたり、なかなか有望そうだ。他の生徒もメモを取っている人もいるが、割合的に言えば全体の4割といったところだろう。

 私を高額で雇ったというのに、講義すら真面目に聞かない生徒を集めて何がしたいのだろうね。私も前世では、講義を真面目に受けていた方じゃないから文句は言わないけどね。

 但し、お喋りなどをして他の生徒に迷惑をかけないというのが大前提だ。

「え、えーっと、周囲を警戒しつつメンバー全員が立ち会いの下で開けます。宝箱の中身は、街に戻り売却してから均等の分配を行います」

 あぁ、こんな事を教えているのか。だから、以前のような悲劇が起こったのね。

「それは、止めておきなさい。宝箱の正しい開け方は、パーティーリーダーがメンバーで一番使えない者を指名して一人で開けさせます。そうする事で被害を最小限に抑えられます。当然、開ける者は嫌がるでしょうが、宝箱の中身の売却取り分を少々上乗せさせる事で納得させるのです」

「え!! それじゃ、モンスターハウスに移動させられた場合には、どうなるんですか?」

「一人の犠牲で済んだのです。安いものでしょう。後、売却取り分の上乗せでも嫌がるようなら『金をもらって開けるか』『半殺しにされて開けるか』と言うと効果的でしょう」

 迷宮での宝箱の正しい開け方だというのに、何故か私に思いが伝わっていないようだ。迷宮は、仲良しで行く遠足の場ではないのだぞ。命懸けで挑む物なのだ。

 事実、この手の方法は迷宮でもよく使われている。元高ランク冒険者がそれを知らないわけではないはずだ。よって、冒険者の汚い部分をかなり省いて教えていると見える。

「それだと、仲間が」

「死んだなら、補充すればいい。冒険者は、死ぬのもお仕事だ。仲間の為に尊い犠牲になるのだ。生き残ったメンバーが無事に帰還できれば死んだ者も浮かばれるだろう。さて、そろそろ初日の講義が終わるが、何か知りたい事はあるかね?」

 見渡してみると、クラスで数少ない男性生徒の35番が手を挙げたので指名した。

「安全且つ確実に、楽して強くなる方法ってあるのでしょうか?」

 周りから、そんなのあるわけ無いでしょうとヤジが飛ぶ。

 まぁ、当然だ。楽して強くなろうなど無理…ではないが、教えていいのだろうか。まぁ、知る人ぞ知る裏ワザだし教えてもいいかな。

 隠匿しろとも言われないし、生徒に要望には可能な限り答えてあげるのがお仕事だからね。

「いいでしょう。教えてあげましょう。但し、肉体的及び精神的に強くなるだけで本当に強くなった訳でないので気をつけてください」

「どういう事でしょうか?」

「技術面が身に付かないという事ですよ。それで、方法は実に簡単です。モンスターを養殖するんです。育った頃を見て拘束し殺すだけの簡単なレベリングです。種として使うモンスターは、高位のオークやオーガがお勧めです。繁殖能力も強く、妊娠すれば二週間程度で産まれます。更に、産まれてくる子供もそれなりに強い上に、オークやオーガは成長が早く、質の高いモンスターソウルが手に入るでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってください!! オークやオーガの繁殖方法って確か、他種族のメスと…」

 その通りだ。なんだ、知っているじゃないか。迷宮の外だとそれが普通。迷宮内部だと不思議な事に何処からか湧いてくるんだよな。まぁ、宝箱もそうだから…あまり深く考えたことないけどね。

「えぇ、その通りです。どこの国とは言いませんが、身寄りのない子供や年頃の女性をモンスターに与えて養殖を行って、力を得た者がおりました。普通、こんな無茶苦茶な事が成功するかと思うでしょう。言葉は通じませんが、高位のオーガやオークって賢いんですよ。お互いwin-winな関係で効率的だったみたいですよ」

 そんな外道は、今現在この世に居ないけどね。あの時は、まだランクCで扱える蟲達も今とは比べ物にならない程弱かったから、殺すのに苦労したよ。

 冒険者の私は、戦時以外に他国に行った事はない。故に、何処の国かは察してくれ。

「そ、そんな事を出来るわけありません!!そんな悪事に染めたら首が飛ぶじゃありませんか」

「もちろん、同じ事をすればそうなるでしょう。だから、少し手法を変えるのですよ。別にモンスターの飼育は、違法ではありません。女性の人権を無視した事が問題なのです。よって、公募して人材を広く集めればいいんですよ。給料制にして同意の上でなら何ら問題はありません。情婦の客がモンスターになっただけと思えば、別に大した事じゃないでしょう」

………
……


 おかしい…白い視線が集まってくる。

 あれか、給料制がまずかったか。やはり、歩合制にして一回の出産ごとに値段を規定すべきだったね。

「お金は掛かるでしょうが、安全で確実に強くなれる方法でしょう。満足頂けたかね35番の生徒君」

「い、いえ…あ、はい」

 まぁ、今現在この方法使うと…もれなく、『闇』グリンドールが潰しに来るけどね。以前の一件以来、『聖クライム教団』の教祖様が大変お心を痛めて禁忌指定にされている。故に、教祖様のお心を痛める要因を排除する為に速やかに処理が執行されるのだ。

 他国だろうと関係なくね!!

 まぁ、目的がはっきりしているし自国の害虫を排除してくれるのでどの国でも見て見ぬふりを決め込む。一番の理由は、グリンドールを止める術を持っていない。

「では、時間になりましたね。では、明日も同じ時間にお会い致しましょう」

 本日から講義を行ったという事は、お手付き解禁と理解して問題なかろう。よって、今から解放される時を今か今かと待っている蟲達を迷宮に解き放つのだ。

「あの先生!! よろしければ、私達とお昼を一緒にどうでしょうか?」

 俗に言う綺麗どころの女性集団がお食事に誘ってくる。

「申し訳ないが、先約があるので。これで失礼する」

 候爵で高ランク冒険者である私に気を使っているのだろう。

 だけど、年頃の女性達と食事をしてあらぬ噂が立ってもお互いの為にならない。きっと、食事に誘ってくれた女性達の容姿から考えるに、恋人の一人や二人程度居てもおかしくない。故に、彼氏達にも悪いでしょうからね。

 それに、単身赴任中に女性関係であらぬ噂が立つとゴリフターズが可哀想だろう。私を信じて家を守ってくれているのだ。そんな立場の女性が、旦那が外で女をなんて聞いたらどう思う? 泣いてしまうだろう。

 私はね、女性を鳴かす事はあっても泣かす事はしない主義なのだよ。

「で、でしたら夜に先生の歓迎会を私達の寮で…」

 しつこい。差し障りがないように、断ってやったというのに一向に引かない。

 紳士な私でも、一度断った事を何度も迫られると殺したくなる!!

 そう、殺したくない。

………
……


 はっ!! そういう事か。お手付き自由とは、そういう意図もあったのか。

 マーガレット嬢、いやギルドとは本当に恐ろしい組織だな。私の性格を考慮して、こんな依頼をしてくるとは。

「強くなるコツ」や「生き残るコツ」を掴めた者達だけを出荷すれば、冒険者育成機関としても有望な冒険者を多数出荷しておりますと評判が高くなる。

 更に、冒険者育成機関に子供を預けた連中にとっても、不出来な冒険者になって実家に迷惑を及ぼすような可能性がある子供達を合法的に処理したいという思惑が絡んでいるのだろう。

 よって、お手付きの本当の意味は…出荷前に間引けとの事なのだ。蟲達のお手付きにして始末しろと。いい具合に、迷宮もあるしたとえ死んだとしても迷宮での事故として片付く。

 そりゃ、大きな声で言えない筈だわ。

 だが、当然、迷宮も美味しくいただくがね。

「悪いが、夜の予定も埋まっていてね。急ぐのでこれで失礼する」

 強引に話を切りあげた。

 振り切った女性陣からは、何やら不服といった雰囲気が出ている。貴族だから礼儀作法にはそれなりに知識があると思ったが…やはり、高ランク冒険者への正しい対応も教えておく必要がありそうだな。

 まぁ、今日は見逃してあげよう。明日の講義で礼儀作法を教えても同じ過ちを繰り返すなら、依頼の通り蟲達のお手付きとなってもらおう。

「全く、高額な依頼には裏があるとは言うが…相変わらず酷いわ。万が一、私が意図に気が付かなかったら、どうするつもりだったんだよ。迷宮だけ美味しく頂いて、本来のお仕事を何もしていないという…ランクB冒険者として恥ずかしい成果を持ち帰る事になっていた」

 依頼を終えて帰ったらギルドに文句を言おうと思う。



 『試される大地』…そこは、『モロド樹海』と比べると地上の楽園といっても過言ではないだろう。過ごしやすい気温、清潔感漂う空気、緑が溢れており食べ物も沢山、水も澄んでおり綺麗で飲料水としても利用できる。

 本当にここが迷宮かよ。どこかの観光施設と言われた方が納得する環境である。

「さて、昨日のうちに下見もしたが危険要素は無い。唯一の懸念は、ここの生徒達だが…まぁ、弱い子達には50層後半の蟲達を護衛に就けよう」

 ゾロゾロゾロ

ギィギィ(初めての旅行。いっぱい食べていいんだよね。お父様)

モキュモキュ(私は、水辺で汗を流しに。あ、覗いちゃダメですよ)

ピピ(いいですね。私達もお供していいですか。後、皆さん覗いちゃダメですよ)

 蟲達が、水辺の警護は俺達に任せろ。とてつもないやる気を見せる。さすがは、女子力が高い蟲達に弱い子達だ。見事に手玉に取られている。

 そして、護衛の蟲達は間違いなく覗くだろうね。だが、覗いたからといって何が違うのかさっぱり理解出来ない。元々、何も着ていないのだ。まぁ、雰囲気を楽しんでいるのだろうね。無駄なところで人間味が出てきている気がする。

「レディー達のエスコートと水辺の警護もいいけど、他の子の面倒もちゃんと見るように。それから、まだ仲間にしていない子が居たら私の下まで連れてくるように」

 『試される大地』では、『モロド樹海』には生息していない蟲がいる可能性もあるからね。発見した場合には速やかに勧誘する。私の影になかに放り込んで魔力漬けにすれば、直ぐにお仲間入りだ。

ピッピ(あら、お父様。迷宮の中に数名の冒険者の気配があります。如何いたしましょうか)

「迷宮は、皆の物だからね。冒険者が居ても不思議じゃないよ。まぁ、手出しをしてこない限り無視する方向で行こう」

 幻想蝶には、そう言ったが…万が一の事もあるので、他の蟲には簀巻きにして外に放り出しておくように指示をだした。更に、迷宮入口見張らせて侵入者を問答無用で簀巻きにして放り出させる指示を出す。

 『試される大地』がナウ○カに出てくる様な樹海に変わるまで数日と要さなかった。蟲達にとって、まさに住みやすい環境が完成した。
次回は、礼儀作法と迷宮での人助けについてで教えようかしら。

さて、次あたりから生徒がどんどん行方不明に(´・ω・`)
いったい誰が犯人なのだろうか。事件は、迷宮入りに(笑)
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