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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第二十五話:貴方の子よ(2)

◆一個目:子供を捨てた冒険者
◆二個目:マーガレット嬢
◆三個目:子供を捨てた冒険者

という感じです。


 子供の世話は、大変だと聞いていたが妻と二人でならやっていけると信じていた。俺がランクC、妻がランクDの冒険者で貯金もそれなりにしていた。子供が産まれたら、冒険者を引退する事も考えていた。

 元手となる資金もあったので、田舎で農業と簡単な討伐依頼をこなしつつ生計を立てる計画もしていた。

 だが、その全ては水の泡となったのだ。

 産まれてきた子供は、アルビノと呼ばれる色素が欠落した子供だったのだ。そんな事は関係ない。当然、喜んださ。俺達の子供には変わりないのだ。だが、出産の時に立ち会った『水』の魔法の使い手がこう言ったんだ…「言いにくい事ですが、アルビノの子供が成人するまで生きた例は、殆どありません」と。

 理由は、簡単だ…体が弱いのだ。普通の子供に比べて圧倒的に。陽の光に当たれば、皮膚がただれてしまう。病気に対する免疫力も殆どなく、幼い時に病にかかれば、まず助からない。

 だが、俺達夫婦は頑張った。人の少なく、環境が良い田舎に家を建て、子供部屋には陽の光が入らぬように気を遣った。更に、何かあってはいけないと妻は、子供に張り付いていた。

 もちろん、生活する為にはお金がいる。お金を稼ぐには、働かないといけない。必死で働いた…元冒険者でランクCの冒険者だけあって、体力にはそれなりに自信があった。だが、それでも妻と手間の掛かる子供を養う程には至らなかった。

 免疫力の低い赤ん坊は、常に清潔な衣服を着せる必要がある。更に、毎日赤ん坊がいる場所を消毒したのだ。故に、収入より出費の方が多く、長年貯めた貯金があっという間に底をついた。

 そんな時だ。『水』の魔法の使い手が言っていた言葉を思い出したのだ。「殆どありません」という事は、実例は存在する又は存在したという事だ。一体、どうやってアルビノの子供を育てたのか生きていれば直接話を聞きたいという思いで調べた。

 その答えは、思いの外、簡単に見つかった。

 同僚だった冒険者から、「『ネームレス』にいる冒険者の事だろう?知ってるぜ」と回答が返ってきたのだ。更に言えば、ランクBの冒険者で信じられない程に強いと聞いた。なんでも、ソロで迷宮に潜るキチガイだと。

 さらに調べてみると、様々な情報が見つかった。まさに時の人というべき人物だった。

 侯爵で…孤児達を率先的に引き取って治療をするだけでなく、衣食住を与えている。現在は、『ウルオール』の姫君二人と御成婚。巷では、当人に関する本が出版されており、当然読んだ。

「聖人君子か何かなのか。脚色されているだろうが、盛りすぎにも程があるぞ」

「だけど、これが本当ならギュオの事だって悪くは扱わないはず。やりましょう、あなた」

「そうだな」

 我が子を育てる為のアドバイスを貰うだけの予定が、相手が貴族で相当稼いでいる。民に優しい、紳士であるという情報から、いつしか思いが変わっていた。

 ギュオに、もっといい生活をさせてやりたい。俺等と一緒にいては、この子は大人になれる前に死んでしまう恐れもある。ならば、いっそう、貴族の子として育てさせてやればいい。

 高ランクや貴族などの要素から女性関係はそれなりにあると思う。故に、一人くらい子を孕んでいてもおかしくない。ただの赤ん坊なら、見向きもしないだろうがアルビノの子供ならばどうだ…自分の子じゃないかと疑い、無碍には出来ないはずだ。

 突き詰めた話、カッコウの雛と同じ事をしようとしているのだ。

………
……


 『ヘイルダム』から『神聖エルモア帝国』の東部にある『ネームレス』まで赤ん坊を連れて大移動をした。アルビノの赤ん坊を抱えての長距離移動など正気の沙汰とは思えないが…我が子の明るい未来の為に、細心の注意を払った。

 『ネームレス』についてから拠点にしている宿は、すぐに見つかった。『あの高ランク冒険者もご利用している宿です』という宣伝をしていたからな。更に言えば、サインを貰いたいのだけど部屋はどこかなと聞くと簡単に教えてもらえて実にスムーズに事が運んだ。

「パパとママは、お前の事は決して忘れないぞ。ちゃんと、元気にしているか確認しにくるからな」

「そうね。直接会う事は、叶わないでしょうが…貴族の子供になれれば、遠目で見る事はできるでしょう」

 置き手紙と可愛い我が子を置いて立ち去った。




 ギルドの職権乱用…別に問題などない。おかげで、簡単に足が掴めたわ。

「なるほどね。レイア様が宿泊中に一泊だけ宿泊した客が居て、部屋まで教えたと」

「はい。レイア様からは日頃より、訪ねてくる客がいたら通して構わないと言われていたもので…」

 どうやら、そいつらが騒動の首謀者ね。

 更に宿の台帳に載っている名前の者達で私が知らない名前でもある。偽名の可能性もあるだろうが…こいつらで間違いないだろう。いい宿に泊まったのが仇となったわね。この宿クラスに泊まれる冒険者の名前は、ほぼ網羅している。

更に、念には念を入れて、職員達に台帳に載っている人物達の家族にアルビノが居るかを洗わせている。

「顔は、覚えているわよね? 似顔絵を描きなさい。できるだけ正確にね。上手ければ上手い程、謝礼をあげるわ」

 ギルドの経費で落とせない場合には、依頼の報酬から払えばいい。別に、ギルド嬢であるこの私が、犯人探しのレースに参加しても問題あるまい。禁止条件の設定はなされていなかったのだ。

………
……


「これは酷い」

「これでも頑張って描いたのですが…」

 宿の従業員が描いた似顔絵は、決して褒められるレベルじゃない。こんなので犯人を捜せという方が無理難題だ。

 これでは、探し出せない。

 首謀者を捕まえられる可能性は、時間が経つほど減っていく。本名か分からない台帳の名前。下手くそな似顔絵。既に街にはいない可能性が濃厚。

 大きな街に移動されて、そこから『ヘイルダム』に戻られては探し出すのは、困難を極める。

「マーガレットさん、二つ前の帝都行きの定期便に乗った男女二人を見た者がおりました。現時点で可能性が一番高い組かと思われます」

「可能性が一番高いね…できれば、確証が欲しかったわ」

 後輩からの報告は確かに役に立った。だが、それが外れてしまった場合には、首謀者を取り逃がす可能性がある。

 いや…その心配は、なさそうね。



 マーガレット嬢が宿の従業員に聞き込みをしているうちに、必要な物は手に入れた。首謀者が泊まっていたと思われる部屋から髪の毛の採取に成功した。蛆蛞蝓のDNA鑑定で黒と出た。時間がかかるかと思ったが、一度やった事なので二回目は簡単だそうだ。

「可能性が一番高いね…できれば、確証が欲しかったわ」

 マーガレット嬢が何やら、お悩み中だ。だが、そんなの必要あるまい。

 共同戦線を張っているのはこの私ですよ。似顔絵の出来が悪いなら、記憶を覗くまでだ。

更に、この街にどれだけの蟲がいると思っているのかね。馬車の停留所近くに居る蟲の記憶を漁れば見つける事など造作もない。

「その割には、余裕のある顔をしていますよ マーガレット嬢」

「それはレイア様にご期待しているからですよ。後は、お任せしてもよろしいですか?」

 いいでしょう。応えてみせましょう。

「無論だ。だが、従業員の面倒は見てくれよ」

「畏まりました」

 従業員は、何が起こるのかさっぱり理解できていないようだ。無駄に騒がれないから、好都合だけどね。なーに、頭の半分を淫夢蟲の口の中に突っ込むだけの簡単なお仕事さ。痛くない痛くない。

 淫夢蟲<<いんむちゅう>>…迷宮下層に生息する記憶を覗く蟲やお肌にいい体液を流す蟲などを配合させて生み出した蟲だ。望んだ夢が見られて起きればお肌のハリも抜群と素晴らしい蟲なのだ。最も、本来の使い道は…その名の通りだ!! 若気の至りで作ってしまったが、後悔はしていない。夢の中くらい、いい思いしたいよねという事は、紳士として当然でしょう。ちなみに、この子がきっかけで皇帝陛下とお近づきになれたのだけどね。

記憶を覗くついでにいい夢を見せてやろう。

「では、遠慮なく」

 従業員の意識を刈り取ってから、淫夢蟲を呼び出した。淫夢蟲は人を丸呑みにできるくらいのヒルのような口をしている。その様子は、まるで淫夢蟲に頭から食われているように見える。大丈夫だ…この子のヨダレは、お肌だけでなく、髪の毛だって補修する!! いわば、リンスのような物だ。体に害はない。

………
……


「なるほどなるほど…顔は、覚えた。…いいタイミングで戻ってきたな」

 淫夢蟲から記憶を受け取ったタイミングで、他の蟲達が馬車停留所の蟲を連れて帰ってきた。従業員と同じ手順で蟲から記憶を盗み見る。

 どれどれ………。

 従業員の記憶と一致する面構えの二人組が、帝都行きの馬車に乗るのが確認できた。子供を捨てたというのに、随分とすっきりした顔をしていやがる。

「…レイア様って、何でもありですよね。正直、特別な属性の人って皆こんな感じなのでしょうか?」

「何でも出来るわけじゃないさ。『蟲』の魔法は、他の特別な属性に比べれば戦闘力はかなり低い。まぁ、代わりに色々できる器用貧乏みたいなものさ」

「そのレベルで器用貧乏ですか…恐ろしいですね。だいぶ時間が経っておりますが、間に合いますか?」

 間に合いますか? 何を言っているのだ。間に合わすに決まっているだろう。戦争になりかねない火種を残した首謀者を生きて国外に出すほど愚かじゃないぞ。

「私を誰だと持っている。二つ前だと、昨日中に出た馬車だろう? 帝都に着く前にギリギリといったところだ」

 間に合いそうにない場合は、最悪第三形態になる事も考えよう。消費も激しいが、力も速度も一番だ。

 追いかけるならば当然空からだ!!

 ビキビキビキ

蟲達を収納して、第二形態に変身した。その様子を見ていたマーガレット嬢とギルド職員の顔が若干青い。別にとって食ったりはしないさ…敵対しない限りは。

「これが、剣魔武道会で使われたという『蟲』の魔法ですか…」

「その通りだ。では、取り押さえに行くとしよう。棺桶の準備をしておけ」

 宿の外に出て、全力で馬車の後を追った。



 これで良かったのだ。『神聖エルモア帝国』の首都につけば、別の馬車に乗り換えて『ヘイルダム』まで戻るだけだ。

「これでいいんだ。ギュオも幸せになれる」

「そうよね。あなた」

 ガクン

 首都まで間もなくという場所で、馬車が急停止した。一瞬、賊かと思ったが帝都が近いこの場所を狩場にする者など居ない。直ぐに、警備隊によってお縄にされるのが関の山だ。

 定期便を守る護衛の冒険者が、外に出た。

 馬車の小窓から覗いてみると、一人の男性と何やら護衛の者と話している。どうやら、顔見知りらしい。護衛の冒険者が男を素通りさせた。

 やけに肌が白いな…まるで、俺たちの子供と同じ。まさか、レイアという名の冒険者以外にもアルビノの成人がいたのか!?

 目…目があった。

『み~つ~け~たぁ。あはぁ』

 恐怖のあまり、背筋が凍った。過去に何度も迷宮に潜ったが、これほどまで絶望的な恐怖を味わった事は無い。

「逃げるぞ!! お…」

 妻の手を掴んだが、想像以上に軽い…まるで手だけしかないかのように。

 振り返ってみるとそこには、蟲達に全身を食われている妻の姿があった。かろうじで首から上だけ残っておりそれ以外は、何も…。

 他の馬車の乗客は、蟲達より全員が夢の中だ。故に、悟られる事なく事が運んだのだ。

 馬車の扉を蹴破り直ぐに外に出た。

 目の前にいるのは、間違いなく…ランクB冒険者レイア・アーネスト・ヴォルドーだ。直接会った事はないが、この蟲を見る限り間違いない。同僚に聞いていた通りなのだから。

 だけど、分からない。どうやって、俺達が赤ん坊の親だとわかった。どうやって、追い抜かした。

「ひ、人違いじゃないかな」

「いいや、間違いないね。ランクC冒険者ロイドとランクD冒険者オルハ。遠い地の『ヘイルダム』から、わざわざアルビノの子供を捨てる為にご苦労な事だ」

 宿の台帳だって偽名を使ったのに、なぜその名前を知っている。しかも、どこから来たかなんて、調べても早々わかる情報じゃないぞ。ランクAやアンタのように時の人でもない、並の冒険者だった俺達の情報をなぜそこまで知っている!!

「田舎に家を建てて、清潔な衣服を着せて、毎日部屋を消毒までしていたのか。涙ぐましい努力じゃないか」

「な、なんで知っているんだよ」

 身内…それも、俺達夫婦しか知らないような事まで何で知ってんだよ。今の今まで全く面識はなかったはず。それなのに、知り過ぎだ。

「『アルビノの子供が成人するまで生きた例は、殆どありません』ね。そうだろうね…私も自分自身と可愛い蟲達以外でアルビノを見たのは今回が初めてだよ」

 なんだ、こいつ…頭の中でも覗けるっていうのかよ。

 恐ろしい。まるで、自分以上に俺達のことを知っていそうなレイアに恐怖する。逃げるすべはないだろう。実力差は、計り知れない程の差…。

「さ、最後の一言いいか」

「妻を殺されたというのに、逆上して襲ってこないか。良い心がけだ。聞いてやる」

「ギュオを頼む」

 都合のいい事は、百の承知。すでに、逃げ切れる状況ではないだろう。どのみち殺されるなら最後に子供が幸せになるための礎となろう。

………
……




 この期に及んで子供を頼むとか、私を笑い殺すつもりだとすれば、たいそう優秀な冒険者だ。

 子供より自分たちの生活を優先したお前らが口にして良いセリフではない。更に、手間のかかる他人の子供を無償で面倒をみると…脳が膿んでいるとしか思えない。

「この屑どもが」

 私自身が手を下すまでも無い。生きたまま蟲達に食われて死ぬがいい。

「あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁ」

 クズ野郎は、頭だけ残して綺麗に蟲達の胃袋に収まった。男女の首だけを持ち帰る予定だ。マーガレット嬢も死体を確認しないと眠れないだろうからね。

 当然の心遣いだ。

「あぁ、それとご苦労だったね。これは、馬車の修理代と少しばかりお駄賃だ。乗客にも時間を無為にさせてしまったんだ、しっかりと配っておいてくれ」

 『ネームレス』を拠点にしている冒険者らしく、私の顔をみたら素直に通してくれたよ。

「任せてください。馬車の客は8人だから…」

「何を言っているんだね?馬車の客は、最初から6人だっただろう?間違わないでくれよ」

 たった今、二名は降車したのだ。

「失礼しました。最初から6人でした」

「乗客も5分もすれば目が覚めるだろう。後の事は、任せたぞ」

 アルビノの赤ん坊は、ギルドで預かる事となっているし。期限を設けていないので後はどうなろうが知った事ではない。どうせ、近くの孤児院にでも預けられるだろうが…『水』の魔法使いが言ったように長生きはできないだろう。

 こうして、『ネームレス』の土が人間の頭にして2個分程緑を広げた。更に、一ヶ月もしないうちにその近くに小さい墓が建てられた。ギュオと記名されており、そこを訪れる者は誰もいなかった。
さて、綺麗に片付いた(´・ω・`)

次は、冒険者育成機関の特別講師がんばります。

迷宮で生き残るための術などを教えてあげようと思っています。後、クソ生意気な生徒は文字通り爆砕ですΣ(゜д゜lll)まぁ、居ればですが。
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