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第二十三話:流行病(4)
私とした事が、帰り道を間違うどころかモンスターハウスに突っ込んでしまうとは失態である。これも、後続を歩く蟻達が気になって仕方がなかったからだ。
植木鉢を持った蟻達を後方に下がらせて、21層のモンスター達を蹂躙していく。周囲を警戒していた私の蟲達も参戦して、モンスターハウスが更地になるまで数分と掛からなかった。
「さて、みんな出ておいで。……あれ?5匹、足りない」
隠れる前と後で確かに数が異なっている…死んだ気配は、感じない。まだ、隠れているのだろうか。他の子に聞いてみると、植木鉢を落としたので拾いに行っていると教えてくれた。
なるほど、責任感のある子達だ。護衛に付けていた蟲達もモンスターハウスでの戦闘で私側に着いたから、離れた蟻達が心配だ。不幸中の幸いだが、20層のモンスター相手なら植木鉢を持っていても逃げ切れるだろうし、ここ周辺のモンスターも私によって、相当数が掃除されている。
そこまで心配する事は………、うん?
ば、馬鹿な!! 蟲の気配が消えた。この階層で死ぬような子達じゃないぞ。
可能性は、冒険者に殺された。もしくは、複数のモンスターによってリンチされたなどが考えられる。だが、今は現場に駆けつけて犯人を見つけなければいけない。
「近くににいたはずだ。全員、探し出せ」
影より、わらわらと蟻や蜂、百足などが夥しいほど現れる。各方面に散って行く。
仲間を心配する蟻達を影の中へ収納した。本来なら、ギルド本部まで行軍させてあげる予定だったが、安全第一である。初仕事をこんな形で終わらせてしまう事に申し訳なく思う。
蟲以外の異物を収納するのは、体調が優れなくなる。だが、初仕事の成果をここで手離せとも言えまい。お父さんは、我慢する。
そして、程なくして蟻達の亡骸が発見された。無残にもバラバラにされており間違いなく冒険者の仕業だと分かる。切り傷や火傷…手足には糸が絡みついており、恐らく植木鉢を必死に守っていたのだろう。
そんな花よりお前らの命の方が大事だというのに…。
「足跡は…入口に向かっているな。帰りの冒険者達か」
微かに、蟻が放つ特殊なフェロモンの匂いがする。死に際に付着させたのだろう。いい仕事するじゃないか。お前等。
一匹の蟻が影から顔を出す。植木鉢を運ばせていた蟻の仲間だ。
ギギ(お父様。犯人を見つけても直ぐに殺しちゃダメだよ。僕達の事を知らない人かもしれないから)
………
……
…
「新参者が多いらしいから、有り得るな。ところで君らの教育役は、幻想蝶達かな?」
冒険者を気にかける言動…知能指数が低い蟻だというのに随分と教養が身についているのが気になる。下手な人間より、誠実で賢く力強い………あれ? 立場逆転してないか。
ギギィ(うん!! 幻想蝶のお姉さん達が色々教えてくれるの)
「そうかそうか。よく学び、よく遊び強くなるんだぞ」
さて、可愛い子供に悟らせされるとは思ってもみなかった。
確かに、何も知らない冒険者が植木鉢を持っているモンスターを見たら喜んで襲いかかるだろう。なんせ、金のなる花が歩いているのだ。
しかし、常識的に考えれば…蟻が植木鉢に入った白水花を運んでいるなど有り得ない。故に、パーティーの戦利品を持ち逃げしていると考え、善意で拾ってくれた可能性が濃厚だと思う。
違いない!!
可愛い子供を殺されたのは許せないが、こちらに落ち度が無かったかといえば違う。だから、素直に植木鉢を返してくれて蟲達に一言謝れば水に流そう。
紳士たる者、このくらいの器量は当然だよね。
………
……
…
そして、目標の冒険者達をトランスポート前で発見した。サポーターらしき人物が大事そうに私の植木鉢を抱えている。
一刻も早く、話を聞く為に少し足に力をいれて跳躍する。
「あぁ、その事。実は、21層で草むらから突然この植木鉢に入った白水花が転がってきてさ。白い蟻がそれを持ち逃げしようとしたから、バラしてやったんだよ。いや~、ギィギィー鳴くわ、しぶといわで大変だったわ」
まさに、声をかけようとした時、実に…実に面白い事を口にしてくれる。
転がってきたのを持ち逃げ? それでは、まるでお前等の私物を私の可愛い蟲達が奪い去ろうとしたかのように聞こえる。実に怪しいニュアンスだ。
万が一、聞き間違いでないとしても誰しも過ちはある。それを悔い改められればいいのだ。
それを今から確認するのだ。
「ギィギィー鳴くわ。しぶとくて殺すのが大変だったか。その蟻というのは、この子達の事かね?」
足元から植木鉢を持った、蟻達を呼び出した。流石に、ここまで見せれば分かってくれるだろう。
この冒険者達が殺した蟻が誰の蟲なのか。白水花の本当の持ち主は誰なのかという事を。
「そうそう、こいつらから…って、あんた誰?」
おかしい…一言目に、その言葉が出てくるとは何故なのだろうか。
私の予想ならば「この蟻、あんたの蟲だったのか。すまない、てっきりモンスターだと思って殺しちゃった。これ、あんたの白水花だろう?返すぜ」となる予定だったのだが。
あれ?よく見れば、こいつら冒険者の目の前に見覚えのある亜人のサポーターがいるではありませんか。
「あれ?君は、確かタルト君じゃないか。そっか、彼らと同じパーティーなんだね。君は、物覚えがいい方だと思ったんだけど残念だ」
私の蟲だと知りつつ、殺して白水花を強奪した可能性が出てきましたね。間違いなく有罪ですよ。
よほど、早死にしたいらしいね タルト君は。蟲の苗床にするだけじゃ済ましませんよ。死ねない辛さというのを教えてあげる必要がありそうだ。
「違います違います。私は、こいつらのメンバーじゃありません。あそこにいる人達のサポーターなんです!! マーガレット嬢に問い合わせてもらっても構いません。こんな冒険者達とは、一切!! 全く関係ありません」
なんだ、勘違いか。
「あぁ、そうなの。それは失礼したね。じゃあ、パーティーメンバーをあまり待たせると悪いでしょうから、迷宮に行ってきなさい。私は、彼らと少しお話があるから」
タルトが脱兎の如く走り去っていく…よほど、お手洗いに行きたかったのだろう。若干漏らしたのに気がついたが、気づかないふりをしてあげるのが紳士である。
「わりーが、俺ら急ぐんで。じゃぁな」
ぼ、冒険者は知能指数が低いのが多いというが、これは酷い。この期に及んで、まだ理解できないとは。これが、義務教育がない世界なのか。
「白い植木鉢の持ち主は私で、君らが殺した蟻も私の可愛い子達だったのだが…言うことはそれだけかね?」
そう、怒ってはいけない。新参者の冒険者に加えて馬鹿なのだ…知らない事だってある。それを丁寧に説明してあげるのが先輩である。
「はぁ? おいおい、モンスターを倒した戦利品は、冒険者の物だろう? これどこの迷宮でも常識、わかる?」
…ブチ
「あまり、しつこいとギルドに報告して厳重注意してもらいますよ」
「そうだそうだ!! これは娘の為に神がくれた花なんだ!! 」
周りからどんどん人の気配が無くなっていく。トランスポートの管理人すら、後ろを向いて耳を塞いでいる。
「なるほど、なるほど。要するに、白水花は返さないし。蟲達にも謝る気もないと」
「虫けら如きに頭を下げるようになったら冒険者引退だろう」
ブチブチ
「じゃあ、今すぐ引退させてやるよ」
私の可愛い子達を蟲ケラ呼ばわりとはいい度胸だ。大甘判定で許してあげようと思ったが、これは完全に有罪だ。
こちらの殺気を感じ取り、咄嗟に戦闘態勢に入るが遅すぎる。本気を出せば、こいつらが戦闘態勢を取る前に5回は殺せている。
ズブリ ズブリ ズブリ ズブリ ズブリ
クズ野郎パーティーメンバーは全部で5人、全員の脇腹に人差し指で穴を開けてやった。勿論、無為に穴を開けたわけではない。
「くそ…はぇーな。だが、これでテメーは、お尋ね者だぜ。こんな人が多い場………」
リーダーらしき人物が、周囲の異変にようやく気がついた。そう、目撃者など誰もいない。遠目で見ている者は、居る。しかし、そいつらは私が誰かを知っている優秀な冒険者達だ。
さて、ゴミ掃除も終わったし帰るとしよう。
もし、万が一生き残ったとしてギルドに報告が出来たとしても金と権力で握りつぶしてくれるわ!! 成りたてだが、身分は侯爵…嫁は他国の王族でランクAのゴリフターズ。喧嘩が売れるなら売ってみるといい。
「すぐに、ギルドに報告してやるからな!! 」
それは、不可能だ。
なぜなら
「お前は、もう死んでいる」
体内に植え付けた蟲の卵が孵化して栄養を求めて人間の血肉と魔力を食い荒らす。そして、急成長を遂げて蟲は人間の体を突き破り誕生する。
「「「「「ヒデブゥ!!??」」」」」
蜘蛛、百足、蟻、蜂、蠅などの可愛い子達が仲間に加わった。
肉塊と化した冒険者5人の亡骸をみて思った。ゴミでも蟲の役に立つんだな。
◇
ゴミ掃除が終わり、迷宮の養分になるようにトランスポート前に文字通り沈めてきた。これで、数日すれば死体を沈めた場所だけ草が生えるだろう。
迷宮は皆の物だ。そして、緑化活動にも力を入れる私は紛う事なき紳士であろう。並の冒険者には、出来ない心配りだ。
そして、今はギルド本部で精算待ちだ。
「精算は終わっただろう。約束の金と受け取ろう」
「白水花が62本…一体、何パーティー分を稼いでくるんですか。ギルドの金庫を空にする気ですか?」
よく言うわ。3割も中間マージンを搾取しているくせに。この程度で金庫が空になるはずないだろう。
「約束は約束だ。耳を揃えていただこう。後、新参者が多すぎるだろう。おかげで、私の可愛い蟲が殺されたぞ」
「ぼ、冒険者にですよね。…………生きていますか?」
マーガレット嬢は耳でも悪くしたのだろうか。それとも、記憶障害か。蟲が殺されたと伝えたはずだが、生きていますかとはオカシイ。
「いや、だから可愛い蟲は殺されたと言っただろう」
「聞くまでもありませんでしたね。では、白水花の精算額と薬の件の3億、しっかりお渡ししましたよ」
周りから注目の視線が集まる。
羨ましそうに見る者や自らの得物の状態を確認する者などもいる。マーガレット嬢め…また、素行の悪い冒険者の始末を無償で私にやらせる気でいるらしい。
さりげなく、頑張ってくださいねと笑顔で手を振ってくる。
自主的に街の掃除をする分には、構わない。だが、第三者の思惑で掃除をさせられるのは若干気に食わん。
「いいだろう。今回は、この金に免じて大目に見てやろう」
「ありがとうございます。今度、ギルド内のバーで一食サービスさせて頂きます」
一番高いメニューでも1500セルしかしない。それを一食とか、どれだけケチなんだよ。
◆
兄は、何者かに殺され…ギルドに依頼を出してもらったが受注をしてくれる者が現れない。父は、帰ってくる予定日から三日が過ぎたが未だに帰ってこない。
冒険者が予定通り帰ってこないという事は、大体の場合は死亡している事が多い。
更に、ギルドで飲んだ薬の効果が切れて再び『黒紋病』が進行を始めた。全身に黒い斑点ができ、ついに末期症状だ。踏んだり蹴ったりだ。
住んでいた場所も病である事と父親が帰ってこない事から身一つで追い出された。
ギルド本部の人が来てくれていた時は、そんな事は無かったのだが「経過観察は終わりました。明日以降は来ません」と冷たい一言で終わった。
故に、街の隅にあるゴミ溜めのような場所で死んだように死を待っていた。近くを通る者達は、まるで私が存在しないかのように見向きもしない。
「お父さん…お兄ちゃん」
残った力を振り絞り、壁に手を当てて立ち上がる。最後に…最後にせめて、ギルドに行って依頼の状況を受けてくれる人が現れたか確認したかった。
足を引き摺り、フラフラと道を歩いた。
街の人たちが面白いように道を開けてくれる。これなら、ギルドまで歩けるかも知れない。
ドン
人にぶつかって思わず倒れそうになる。だが、目の前の男性が支えてくれた。アルビノの美青年…かっこいい人だ。
「末期症状の患者か。全く、こんな子供を放置して親は何をしているんだろうね。家はどこかね? 送ろう」
「親は…め、迷宮から帰ってきません」
『黒紋病』の末期症状の私の手を握るだけでなく普通に話しかけて来てくれる。驚きもあるが嬉しさで涙が出てくる。
「なるほど。家族もいないし、金もないから薬も買えないのか。着ている物が汚れているね。住んでいる場所も追い出されたのか」
男性があまりも優しく、紳士的だったので…故に、言ってしまったのだ。この人なら、私を助けてくれるかも知れないという思いが生じてしまった。
「た、助けてください」
「…いいだろう。安心して眠るがいい」
ズドン
胸を何かが貫通する音が聞こえた。とても、温かい………段々と、眠くなってきた。
そして、死体が一つ完成した。
父親、息子、娘…みんなレイアの手に掛かって天に召されたお。
手を煩わせてくれる一家でした。
次話は、まだ未執筆なので投稿までお時間をください><
『貴方の子』⇒『冒険者育成学校の特別講師』⇒『ゴリフ爆誕』
の流れで頑張りたいと思っております。

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