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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第十九話:剣魔武道会(6)

 どういう事だ!?

 会場の…いや、世界の流れが圧倒的に私の不利な状況へ流れている気がする。だが、大丈夫だ。相手は、ランクAの冒険者。正面から当たって勝てる可能性は極めて少ない。

 要するに普通に戦っていれば、私が敗北する。そして、ゴリフを娶るという話はお流れになる。

「待て!! 妹を相手に勝利を収めねば報酬が無いというのは問題であろう。そうだな、もし負けた場合は私が嫁いでやろう。それで問題なかろう?レイアとやら」

 とてもいい笑顔で私を見てくる。

 なにが「それで問題なかろう?」なのかがさっぱり理解できない。王家の人間がそんなに簡単に嫁ぎ先を決めていいのか。横で、ガッツポーズをしている至宝の二人を殴り倒して~。

 前門のゴリフ後門のゴリフ。この世界の歪を感じるぞ!!

『おぉ!! コレはどういう事だ。勝てば、ゴリフリーナ様。負ければ、ゴリフリーテ様。今まで誰ともご婚約されなかった双子姫が、前代未聞の出来事だぞ。レイア選手、おめでとうございます』

 ご、ゴリフ…オカシイ。おかしいだろう!! なんで女性の名前にゴリフなんて付いてんだよ!! 今までの人生で一番の驚きだよ。冗談でゴリラとエルフをかけ合わせて作った名前が本名だったとは。

 レイアは知らないが…ゴリとは、『ウルオール』を象徴する花の事で一生に一度、満月の夜しか咲かない花として有名である。ゴリの花が開花した様子を見た者は幸せになれるという逸話がある。

 ゴリの花とエルフと掛け合わせて名付けられたのが双子姫である。名前に恥じぬ美しさを持っていた。今でも心は十分美しい。

 大事な事だが…この世界にゴリラなんて生物は存在しない。ゴリラなんて生物は存在しない。大事な事なので二回言いました。ここ、テストに出ます。

「無論だ。だが、残念だな。私としては、二人共娶ってしまっても構わぬのだがな」

 その一言で大歓声が起こった。場の雰囲気を盛り上げる為と紳士として女性に恥をかかせない為の口から言葉が滑ってしまった。

 日ごろの紳士的な行動が仇となった。

 いつの間にか、勝っても負けてもゴリフを娶る方向で話が進んでいく。私の意見など聞かずに!! だが、『本当はミルア様とイヤレス様のどちらかを娶りたかったんです。でも、男性だとは、知らなかったので今の話は無しにしてください』と声を張り上げて言えたら最高だ。

 だが、実行すると…今まで積み上げてきた紳士のイメージがガタ落ちする。それどころか、人類最低の男として名を馳せそうだ。更に、ホモーなんて不名誉な称号まで付けられそうだ。万が一、そんな事態になったら、二度と表を歩けない。

 あれか…ここは、試合中の事故でゴリフリーナを亡き者にして、有耶無耶にするしかあるまい。

 私が勝利した際の報酬であるゴリフリーナが死んだとなれば、今回の件はお流れだ。姉のゴリフリーテが報酬と嫁いでくる可能性もあるが、妹のゴリフリーナを殺した私の所には来ないだろう。

『では、観客の皆様も前代未聞の『聖』の使い手と『蟲』の使い手のバトルを待ちわびておりますので、そろそろ開始したいと思います!!』

「こちらはランクAだ。だから、その…ハンデをくれてやっても構わぬぞ」

 ハンデ…いや、これは罠だ。

 ハンデをやると言って油断を誘い、私の行動パターンを読みやすくする巧妙の罠だ。そして、「かかったな!! バカめ」といって全身全霊の一撃を当ててくるつもりだ。

 ゴリフリーナは、私が亡き者にしようとしている計画に気がついたのか。

 はっ!!

 そうか…相手は、私を亡き者にするつもりだ。そもそも、今まで求婚を受けなかった姫がなぜこのタイミングでと思ったがそういう事か。他国の戦力を事故に見せかけて削ぐつもりという事か。

 恐ろしい作戦だ。

「か弱い女性相手にハンデを貰ったとなっては、紳士は名乗れん。私も漢です。力で屈服させてみせましょう」

「か、か弱いだと!! 」

「あぁ、その通りだ」

 何やら顔を真っ赤にしてお怒りのご様子だ。

 これから戦うゴリフリーナをよく観察してみると、不思議な事にいつくか気がついた。一見、がさつに思えるが…服は清潔、歯も綺麗、爪も綺麗、髪や肌の手入れも万全、装備も磨かれていて新品同様、香ってくる匂いもとても上品。

 王族であるからと言われれば納得いくが、嫁入り前の淑女並みのお手入れがされている。いくら、剣魔武道会で人前にでるからといってゴリフがここまで手入れをする意味が分からない。

 まぁ、どうでもよい。とりあえず、全力で殺しにかかろう。殺せない場合には、相討ちを狙ってドローゲームだ。そうすれば、お流れにできるはず……だよね?

『流石にリング上で司会をすると死ぬ予感がするので、リングの外から実況したいと思います。試合開始前にお互い一言どうぞ!!』

「私がこの状態で操れる『蟲』の数を知っているか?」

「これから倒される相手の情報など興味がないな」

 興味がない…だが、その興味がない相手によってこれから殺されるのだよ!!

「53万。ですが、もちろんフルパワーで貴方と戦う気はありませんからご心配なく…」

「手加減などできる立場か? 蟲など何万匹居ても浄化してくれるわ」

 浄化してくれるわとか言って、超重量級トゲ棍棒を軽々と振り回すあたり…物理的に浄化する気なのか。以前にジュラルドに聞いた話だと確かに『浄化能力』に優れていると聞いていたけどさ、まさか物理的浄化じゃないよな!!

 本当に、変身しない状態で操れる虫の数は53万匹程度なんだけどね。そして、何より言ってみたかったセリフなので言ってみたという意味合いが大きいがな。

『おぉぉぉぉ!! レイア選手の影から蟲が溢れ出てきたぞ。凄い数だ。これが『蟲』の魔法なのか。知らない蟲もおりますが、どれも迷宮下層に生息する凶悪な蟲達だ。一人で一個師団すら葬れると言われるだけの事はあります』

「更に、こんな具合に変身も可能なのだよ」

 『闇』『聖』『雷』って主人公みたいな能力だよね。『蟲』だけが仲間外れな気がするが大きな間違いだ。『蟲』の魔法を使った変身能力!! 仮○ライダー、ウルトラ○ンなどが持っている正義の味方の必須な能力だ。

「ほほぅ、蟲の特性を取り込めるのか。厄介な能力だな」

 体に現れた蟲達の特徴から、察したのか…流石だ。だが、分かっていても対応できるかは別問題だ。

『では、お待ちかね。エキシビジョンマッチの開始だ。ゴリフリーナ VS レイア…試合開始です!!』

 開始の合図がされたと同時に、蟲達が一斉にゴリフに向かって襲い掛かる。各々の自慢の牙や毒、糸など多種多様な攻撃だ。『モロド樹海』50層台にいる大型モンスターでもこれだけの攻撃を受けたら骨すら残らぬ程の過剰攻撃だ。

 だが、ゴリフは回避する様子すら見せない。それどころか、トゲ棍棒をフルスイングする構えを取っている。ゴリフの全身からオーラのような物が湧き上がっている。

 ゾクリ

 生命の危機を感じて咄嗟に外皮の硬い蟲達を自分の前に集結させた。どこに逃げたらいいか分からない攻撃がくるのだ。全力で防がねば死ぬ!!

「とくと見るがいい!! 『聖』の浄化の力を」

 フルスイングと同時にトゲ棍棒から爆風と謎の輝きが放たれる。

 謎の光に触れると、可愛い蟲達が文字通り消し飛んでいった。その光景を目の辺りにして笑えない冗談である。

 『闇』のグリンドールも似たような攻撃で蟲達を消し飛ばしてくれたが…もっと、魔法っぽい攻撃だった。『聖』は、まさに正反対だ。こんな物理攻撃の延長線の攻撃で私の蟲達が消し飛ぶとは恐ろしい。

ピギュー(俺達、役に立てたかな)

 断末魔の悲鳴と共に私の壁となった蟲達が滅んでいった。「よくやった」と賞賛を贈った。

パラパラパラ

 蟲達の残骸がリング上に落ちてくる。

 壁になってくれた蟲達のおかげで無傷だが、小型が多かったとはいえ一瞬にして10万近い蟲達を消滅させられるとは驚きは隠せない。

『し、信じられません。ゴリフリーナ様の浄化の力でレイア選手の蟲達の大半が消滅しました。レイア選手は、蟲達を壁にして無傷のようですが、焦りを隠せておりません』

「言っただろう?何万匹居ようと浄化してやると」

 まるで何事もなかったかのように立っているあたり、ランクAの化け物だけの事はある。だが、魔力の消費が全くないわけではあるまい。

 相手の魔力が切れるのが先か、私の蟲が尽きるのが先かなど馬鹿げた勝負はする気はない。これ以上、無駄に消費するのは愚策。

「失礼した。ランクAの貴方を下層のモンスターと同じ戦法で倒せると思ったのが間違いだった」

 生き残った蟲達を影に収納した。

「男だろう? 小細工なしで掛かってきな」

 ゴリフが人差し指をクイクイして私を挑発してくる。

「喜んで」

 いい度胸だ。変身した私の圧倒的なパワーとスピードでぶっ潰してくれるわ。地面を蹴り、ゴリフに飛び込む。近づいてみて分かる。体格差もあるが圧倒的な威圧感。何より恐怖なのが恐ろしい速さで振り回されているトゲ棍棒だ。

 上段から迫る攻撃に続き、横薙ぎの攻撃とこちらの回避する方向に合わせて攻撃を可変させてくる。しかも、トゲの分だけ間合いが長いため非常に避けにくい。

 複眼のお陰でギリギリ見切れるが、掠っただけで鋼鉄をも凌ぐ強度を持つ私の体に傷を付けてくる。懐に飛び込むどころか、相手にとって理想的な距離で二刀流のトゲ棍棒を命懸けで回避させられている。

『すごいです。レイア選手、ゴリフリーナ様の華麗な棍棒捌きを避ける。亜人である私の目を以っても既に追いきれていない速度なのに、どうなっているんだ 高ランク冒険者!!』

 ゴリフから見えないように、手の影から小型の団子虫を取り出す。道具のように使い潰すやり方は好まないのだが、言っていられる状況ではない。回避と同時に、指弾の要領で弾く。

 パンパンパン

 顔に着弾する直前で、ゴリフは棍棒を用いて見事に防いだ。銃弾並みの速度だというのに恐ろしい反射神経だ。だが、十分だ。防がれた事により、蟲が爆発した。爆発の威力としては、爆竹程度の物だ。しかし、スキを作るには十分だ。

「ただの脳筋かと思ったが、素晴らしい反射神経だ」

「それはこちらのセリフだ。まさか、ここまで接近を許したのは姉以外では初めてだぞ」

 そして、ゴリフの懐に潜り込む事に成功した。

 この距離では、ゴリフが棍棒を振るうより先に私の拳が届く。だが、問題は依然として衰えることのないゴリフの全身から溢れている謎のオーラだ。

 恐らく、これが『聖』の魔法なのだろう。だが、本当にこれを『聖』と呼んでいいか謎だ。どちらかといえば、『闘』の魔法と言った方がしっくりくる。名づけたもん勝ちではあるが…王女だから『聖』にしたかったんだろうね。

「そのオーラ…特性は分からぬが、普通に触れればやばい代物だろう?」

「わざわざ、教えるとでも?」

 攻守共に優れた『聖』魔法だろうが…だが、こちらとて負けない。

 全身を猛毒の液体で覆うだけでなく、吐く息にすら毒素を混ぜる。いかに、攻守共に優れたオーラだとは言え、必ず魔力は消費する。相手が防御に消費する魔力以上に毒素を出せば、必然的にダメージは通せる。

「女性を殴るのは気が引けるが、悪く思わんでくれよ ゴリフリーナ」

「その拳が届くかやってみるがいい」

 リングに足がめり込む程に力を込めて、ゴリフの腹筋目掛けて全身全霊の拳を叩き込む。ゴリフのオーラを突破する際に右手の骨が砕け散ったが、その拳はゴリフの体にめりこんだ。

「ぐっ!! では、こちらも歯を食いしばれ!!」

ゴリフは、棍棒を投げ捨てて右手に輝く程のオーラを纏わせて素晴らしい右フックを放ってきた。

 一瞬、決して避らけれない事は無かったが男として甘んじて受ける事にした。ゴリフリーナだってこちらの攻撃を回避しなかったのだ。男であるこの私が避ける訳にはいかない。顔面で拳を受けた瞬間、猛毒の膜と鋼鉄の外皮が蒸発して肉を抉った。更に骨まで粉砕された。

 痛覚を遮断していなければ悶絶するほどの痛みだっただろう。一撃で本当に顔面を粉砕されるとは予想外のパワーだ。直ぐに、蟲を使った癒と体内で蝗を呼び出して回復する。

『会場に響き渡る程の強打を打ち合う二人。凄まじいです。ですが、レイア選手の方が圧倒的に不利に見えますが…凄まじい回復力だ。重傷とも思えるダメージを瞬く間に治癒していく』

 一手、二手と打ち合う程、私のダメージが蓄積されていく。間違いなく、不利な状況である。ゴリフの肉体にもある程度の毒とダメージは蓄積されているが、この状況が続けばこちらが先に倒されるのは明白。

 ちっ!!

 打ち合いを止めてゴリフから距離をとる。

「なんだ、逃げるのかレイア」

「確かに、逃げに徹して毒が回りきるのを待てば勝利できるかもしれない。だが、それではお互い不完全燃焼だろう?」

 会場の全員が、もっと打ち合えと言っているが…だったら、お前が殴られてみろと言い返してやりたい。『聖』の魔法なしでも迷宮下層モンスターをワンパンで沈められる威力だ。一般人なら痛みすら感じる前に死ねるぞ。

 それに、治癒と毒を振りまく事でどれだけ魔力を消費していると思っている。更に、この形態だって魔力消費はバカにならんのだよ。

「このレイアは変身をするたびにパワーがはるかに増す…その変身をあと2回も私は残している…その意味がわかるな?」

 第一形態では、40層の蟲の能力を付与している。第二形態では50層の蟲達を。本当なら第二形態以降は、対『闇』に向けて備えていた物なのだがね。

 だから、純粋にゴリフに賞賛する。女だからといって、少なからず舐めていた。

「更に、パワーが上がるだと!! なぜ、出し渋っていた!? 貴様、私を倒すんだろう!! 早くしろ、間に合わなくなっても知らないぞ」

 …えっ!? 驚く事より何故か怒られた。



 す、素晴らしい男性だ。

 私が本気で攻撃しても倒れない男性なんて、今まで居なかった。しかも、戦う最中でも私への口説き文句が胸に突き刺さる。

 この人と一緒になった暁には、今まで人目を気にして着る事すらできなかったドレスや女性らしい服が着られるのだ。更に、体格的重量的に不可能とまで言われたお姫様抱っこと言う物まで、実現可能であろう。

「このレイアは変身をするたびにパワーがはるかに増す…その変身をあと2回も私は残している…その意味がわかるな?」

 このまま戦い続ければ、勝利を手にしてしまっていただろう。だが、レイア様はまだ力を隠していたのだ。

「更に、パワーが上がるだと!! なぜ、出し渋っていた!? 貴様、私を倒すんだろう!! 早くしろ、間に合わなくなっても知らないぞ」

 素晴らしい!!

 思わず、姉にドヤ顔をしてみせた。すると、「一生弟達を見守っていくという誓いはどこにいった!!」と訴えられる。「どこかに行ってしまった!! 大丈夫、レイア様とのお子様はお姉様にも抱っこさせてあげます」と送り返す。

 すると、姉のゴリフリーテが「いい事を教えてやろう。忘れられがちだけど…場外からの支援攻撃は反則負けになるのよ」と目で言われた瞬間。私のオーラを貫通する謎の攻撃がされた。

 その、あまりにも巧妙な攻撃に気づけるものは攻撃された本人以外、誰も居なかった。

 自作自演の反則負けを演じてレイアに嫁入りを果たそうとするゴリフリーテがいた。



 背中から6枚の羽が生える。更に、蠍が持つような尻尾が三本も生え、肉体が更に人間離れてしていく。

 飛行能力に加えて、鋼鉄の外皮からミスリル以上オリハルコン未満の硬質な皮膚へと変化した。体格は、第一形態と大差ないが、内臓まで変化されている。

『レ、レイア選手が更に変身したぁぁぁぁ!! これはヤバイヤバイ。なんという禍々しい魔力でしょう。リングから離れて実況している私ですが、足の震えが止まりません』

「第二ラウンドを開始しよう」

 ゴリフの足が一瞬光ったように見えた瞬間、体勢が崩れた。

 だが、そんなの知った事ではない。ゴリフとの間合いを詰めて、毒霧を吐くと同時に背後に回り込む。そして、蹴り抜く。

 ゴリフのオーラに触れて、外皮にヒビが入る。しかし、第一形態と比べてダメージは圧倒的に軽微!! すなわち、ゴリフへのダメージ増大だ。

 ゴリフの体が地面から離れ、打ち上がる。

 流石のゴリフも空中戦までは、できまい。第二形態の真価を発揮する時である。もう、二度と地上へ戻さぬぞ!!

「どうした、ゴリフリーテ!! 先程から動きが鈍いぞ」

 ゴリフにとって初めての空中戦だというのに、こちらの軌道を目で追っている。私が指弾を放ちつつ、死角から攻めているにもかかわらずカウンターを狙ってくる。恐ろしい戦闘センスである。

「えぇい!! ちょこまかと!! 」

 先程までとは打って変わって、こちらのメッタ打ちである。ゴリフが地面に落ちそうになったら、強引に蟲を使って持ち上げる。もちろん、ゴリフのオーラによって蟲が滅びてしまう。しかし、その命を賭した行動のお陰で常に私のターンなのだ!!

 こちらの肉を切らせて骨を断つ作戦のお陰で、ゴリフの顔色もだいぶ悪くなってきたのが見て分かる。ランクAのキチガイな免疫力をもってしても、私の毒の完全中和は難しいだろう。更に、戦闘により魔力や体力を著しく消耗していく状況下ではなおさらだ。

 だが、こちらも人のことを言えた状況ではない。攻撃する度に治癒を掛けねば手足が使い物にならなくなるのだ。こちらの猛毒もそうだが…ゴリフの対消滅オーラも相当エゲツナイ能力だ。

「さっさと、くたばれ!!」

 空を舞っているゴリフの脇腹に綺麗に右ストレートが決まった瞬間、文字通り肉を抉った。

 この時、ゴリフはオーラでの防御を捨ててワザと攻撃を食らったのだ。

 私の腕がゴリフの脇腹を貫通したと同時に、腕が抜けないように筋肉で押さえ込み。更に、私を両腕で逃げられないように抱き込んだ。

「くっくっく、捕まえたぞ!! はあああぁぁぁぁぁぁぁ」

 今まで、一方的に攻撃をくらい続けていたのはこの時の為か!!

 ゴリフが超至近距離でオーラを全開にした為、私の全身がひび割れていく。外皮だけでなく、骨や神経まで軋み出した。痛覚を遮断しているが分かる…これは、まずい!!

「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!! くそったれがぁぁぁぁ」

 だが、こちらの腕も相手の体を貫通しているのだ。この状態で猛毒を散布すればどうなるかは明白である。どちらが先に尽きるかの勝負である。

 そして、ゴリフも私も全力で力を解放する中、リングに落ちた。

 落ちた衝撃で、ゴリフの拘束が緩んだ。その隙に逃げようと思ったが、腕が抜けなかったので、右腕を肩のところから切断して危機を脱出した。

 腕の再生は、今は間に合わぬか。ならば、傷んだ臓器から治癒しておく。

「はぁはぁ、今のは、なかなか効いたぞ レイア。ごふぅ」

「それは、こちらもだ。まさか、防御を捨てるとは予想外だった。お陰で、右腕一本を犠牲にするだけでなく全身がズタボロだ」

『試合というより既に殺し合いに近い状況ですが、王家より何の警告もありませんので試合は続行です。それにしても両者共に満身創痍です。立っているのも辛そうな二人ですが、大丈夫か?』

 体内で蝗達を召喚しては、喰らい続けている。だが、魔力と体力が消耗する方が早く全く回復しない。

 だが、それよりも問題なのはリングに落ちた衝撃で見たくもない物が見えてしまった。

 『モロド樹海』下層の蟲には希に奇妙な能力を持つ蟲がいるのだ…対象のトラウマを思い出させるような精神的な攻撃をしてくる蟲や相手が望む夢を見させて心地よい眠りを与えつつ血肉を貪る蟲などがいる。

 エルフがゴリフに進化するまでの過程やトラウマなどが覗き見してしまったのだ。蟲達の特性を付与した状態で、文字通り一つに繋がってしまった事が原因であろう。

 女性の過去を勝手に覗き見して、何も知らなかったなど許されない。紳士には、女性を幸せにする義務がある。

「ゴリフを本当の意味で幸せにできるのは私だけかもしれないな」

「何を言っている? さぁ、続きを始めるぞ」

 今になってゴリフがここまで頑張る理由も察する事ができた。

 ゴリフの容姿は、決して褒められない。だが、よくよく考えれば容姿など大した問題ではない。大事なのは、内面だ。故に、それを知った私は責任を取らねばなるまい。

 それに…いまゴリフを幸せにしなければ誰がいつこの女性を幸せにしてやれる?

「もういい、ゴリフリーナ。私の負けだ。それ以上、無理を続けるな」

 私は、変身を解いた。元の状態になった事で辛うじて大事なところは隠しているが全裸に近い状態である。すぐに、蜘蛛達によって取り急ぎではあるが衣服が作られていく。

「まだだ!! まだ、勝負は終わってないぞ」

 顔を赤くしているが…これが、怒りからくるものではなく恥じらいだという事を私は知っている。そんなに凝視するな!! あと、遠くからゴリフリーテも凝視しているのが分かるぞ。

『これは、レイア選手の敗北宣言か!? という事は、ゴリフリーテ様と御成婚ということに!?』

 その発言に、ゴリフリーナの瞳から雫が垂れる。

「そうだ、私の負けだ。だが、『聖』の双子は、貰い受けるぞ」

 一人だけ娶っては、遺恨を残すだろう。

 ゴリフの一人や二人愛せなくてなにが紳士だ。

『敗北したにもかかわらず、お二人を貰い受けるとは。そんな事が許されるのでしょうか?そこらへん、どうなんでしょうかミルア様』

「もちろん、ダメです!! お姉様達は、我が国にとって重要なお人です。それを一人でなく二人など許しません」

 ランクAの『聖』の使い手だ。当然、国家防衛の要であろう。だが、知らぬ存ぜぬ!! 一度決めた事は貫き通す!!

「『幻想蝶』…確か、幻と言われる蝶を持ってきたものに嫁ぐという約束があっただろう? そうであろうゴリフリーテ、ゴリフリーナ。今でも有効なのだろう?」

「その通りだ!!」

「無論、有効だ!!」

 確認が完了したので、お披露目させていただく事にしよう。

 私の可愛い娘達を!!

 取引の材料のように使う事が申し訳ないが、許せ娘達。お父様は、救わねばならない女性がいるのだ。

 私の影より数百匹の幻想蝶が舞い出た。他の蟲達と比べて繁殖力が低く、ここまで増やすのに苦労した。

ピピ(気にしないでください お父様。育てていただいたご恩をこのような形で返す機会を与えていただき感謝しております。私達は、父様の為に生き、お父様の為に死ぬ。その事を誇りに思っております。それに、お父様が救わないといけないと思う女性がいるならば、それは私達も救わねばなりません。どうか、お幸せになってください)

『う、美しすぎる。何という数でしょう。これが、神話にまで登場した幻想蝶なのでしょうか!? 』

「当然、本物だ。『蟲』の魔法を使うこの私が言うのだから間違いない。だから、ゴリフリーナ、ゴリフリーテ…私と一緒にこい!! 必ず幸せにしてやる」

「「「「「ゴリフ!! ゴリフ!! ゴリフ!!」」」」」

 会場から盛大なゴリフコールが発せられる。中には、横断幕でゴリフ応援団一同と書かれた集団もおり、ゴリフ達がいかに愛されていたかよく分かる。

「流石はレイア殿…いい話だ。ゴリフ!! ゴリフ!!」

「アタイ感動したぜ。幸せになれよ ゴリフ!! 」

 ジュラルドとエーテリアがいつの間にかゴリフコールを叫びだす。

「ミルアも諦めたら? ゴリフ!! ゴリフ!!」

「お父様達になんて説明すればいいんですか!?」

「説得? いらないんじゃない? お姉様二人、ランクAに近い冒険者達や会場の人達を敵に回すような事はないと思うな」

「あぁ~もう、どうにでもなれ!! ゴリフ!! ゴリフ!!」

「「「「「「「「「「ゴリフ!! ゴリフ!! ゴリフ!!」」」」」」」」」」

 特等席にいるミルアとイヤレスもついにゴリフコールに加わった。しかし、自分の姉をゴリフと呼んでいいのだろうか。それとも、ゴリフとはゴリフリーテとゴリフリーナの事を示す通称なのだろうか。

 まぁ、気にするほどの事でもない。

「さて、返事を聞かせてもらおうか。ゴリフリーテ、ゴリフリーナ!! 私と一緒にきてくれるか?」

「ほ、本当に私達二人を娶る気なのか?」

「当然だ ゴリフリーナ。私は、二人を一人の女性として愛す事を誓おう。王家の威光や特別な属性などは、どうでもいい。ふたりは、私に幸せにされる義務があるのだ」

 ゴリフリーナが涙を流して私の胸に飛び込んできた…だが、体格的に私が胸に飛び込んでいるように見るのが残念だ。そして、ゴリフリーテも同じく泣きながら飛び込んでいた。双方の厚い胸板にプレスされ、ふたりの熱い愛を受け止めることに成功した。

 そして、エキシビジョンマッチがジュラルドとエーテリアの出番なしで閉幕された。もちろん、その事に文句を言う二人ではなく、温かい祝福の言葉をいただいた。

 だが、問題は山積みである…ゴリフご両親へのご挨拶、皇帝陛下への報告、ギルドへの報告、領地運営などなど。とりあえず、二人に釣り合う人になれるように、努力をするとしよう。

 後に、国家主導の元で本件について書籍が盛大に売り出された。脚色もされてはいたが、基本的に事実を忠実に書かれており、紳士すぎるいい男としてレイアの名を広める事になった。
大事なことだからお伝えしておきます。
本作品は「愛すべき『蟲』と迷宮での日常」であって「愛すべき『ゴリフ』と迷宮での日常」に変わる事は、ありませんよ!!

ゴリフも一応登場しますが、メインとして絡まない予定なのであしからず。
いい嫁は、家を守るものでしょう? 旦那は外でしっかり働きます。

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ゴリフ達の実力とレイアの実力は、こんな感じです。
ゴリフリーナ、ゴリフリーテ=レイア(第三形態)

その為、今回の試合ゴリフリーテが密かに援護しなければ第二形態では負けていたでしょう。

レイアの第三形態では、『モロド樹海』の最下層である60層の蟲の能力が付与されます。幻想蝶の説明時に、『モロド樹海』の59層という最深部に限りなく近い場所に…という説明があるように。59層が最下層の一歩手前という意味合いで記載しました。その為、『モロド樹海』60層までしか存在しません。

ようするにレイアの実力は、ランクA相当です。

現在もランクBの理由は、ランクAは絶対数が少なくて目立ちすぎる事と
ランクAの認定を受ける必要な申請をギルドに行っていないためです。
******************************************
次話は、「流行病に苦しむ幼い子供を救う話」か「拠点としている宿の扉の前に貴方の子ですと書かれたアルビノの子供が捨てられている話」を想定しております。
もちろん、どちらもレイア流の救いの手を差し伸べる。
※思いつきで変わる予定は大いにあります。
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