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第十七話:剣魔武道会(4)
◆は、他者視点での内容になります。
剣魔武道会は、『ウルオール』が国家を挙げての催し物であると同時に各国の戦力調査も裏で行われている。戦時における厄介者の能力把握は勿論、暗殺やスカウトなど様々な事が暗躍しているのだ。
そんな事など知らず、剣魔武道会は準決勝を迎えようとしていた。
初戦に引き続き、ランクB冒険者達と競い合った。対戦相手は、世間的には強者であるが私にとっては雑魚であった。しかし、窮鼠猫を噛むという言葉があるように凄まじい執念を見せられた。
毒に侵されながらも掴んだ手は離さず、超近接で魔法を連発してきたり…腕の骨が折れているにもかかわらず、折れた方の腕で殴りかかってくる猛者がいた。しかも、全員女性冒険者であり、若干恐ろしいと思った。
全員の共通点は、独身で冒険一筋という感じであるが…一体何が彼女達をそこまで駆り立てるのかが不思議でならない。
そんな事もあり、用意した鋼鉄製のフルプレートも凹みや傷が目立つ。高かったのに…。
『ここまで勝ち上がってきた強者の皆様に、『ウルオール』の至宝と名高いミルア様からお言葉を頂きたいと思います』
「各国の冒険者の皆様。この度は、剣魔武道会への参加して頂き心より感謝致します。日ごろ鍛えた武で競い合いお互いに高め合う事を望みます。ですが、栄誉ある戦いだというのに、誠に残念な事に不正を働く輩がおります」
ミルアの一言で会場全体が響めきだす。
国家主催の栄誉ある大会だというのに不正行為とは、酷いな。だが、可能か不可能かと言われれば可能である。よくある手の一つとして、観客席に魔法使いを潜ませていて試合中にバレないように援護射撃を行わせるなど常套手段だ。
まぁ、肉弾戦メインで正々堂々と戦っている私には、無縁の事である。仮に対戦相手が不正を働いたとしてもねじ伏せる自信がある。
「正々堂々の勝負だというのに汚い事をやる冒険者もいるものですね。我々は、正々堂々戦いましょう」
「えぇ、その通りですわ」
「全くね」
「無論です」
流石は、準決勝まで進んだ冒険者だ。全員が誇りを持っているのが分かる。準決勝まで残った三名の女性陣と握手を交わした。
あっ…毒が付いていたけど、大丈夫か。
「…そこの貴方!! 貴方の事ですよ!!」
怒った顔も素敵なミルアが、何やら私の方向を指差してきた。
もしやと思い、後ろを振り向いてみたが誰もいない。オカシイ…それとも、私に見えない何かが見ているのだろうか。
選手入場口で待機しているジュラルドに目線を送って「バレないように支援とかした?」と聞いてみると「いいえ。そんな汚い真似をするはずありません。それに、必要ないでしょう」と返ってくる。
「平然と後ろを向かないでください。間違いなく、貴方の事です。クラフト選手」
『コレは、どういう事だ!! まさか、ここまで全試合を圧倒的な力でねじ伏せてきたクラフト選手にまさかの不正疑惑だ』
「酷い誤解ですミルア様。私が一体どのような不正を働いたというのでしょう」
ズルなしで正々堂々と戦ってきたというのに酷い言いがかりである。いくら、美少女だからといって許さんぞ。
「証拠ならあります、ヘルムを取りなさい」
蟲を使ってクラフトの顔に擬態して、ヘルムをとった。
「これで疑いは、晴れたでしょうか?」
古傷や黒子、シミに至るまで完全再現したこの顔だ。どこからどう見てもクラフト本人である。
ミルアの疑いの視線は、未だに続いている。一瞬、拘束して牢屋の地下室に閉じ込めておいたクラフトが発見されたかと思った。しかし、それならクラフト自身がこの場にでてきて不正と問いただしてもいいはず。
『替え玉での参加を一瞬疑いましたが。この顔、間違いなくクラフト選手です。どういう事だ!?』
「あくまでシラを切るつもりですか。ならば、この子を見なさい!!」
ミルア様が蟲籠を取り出して、一匹の白い蟻を私の方に見せつけてきた。
先日、朝食のデザートを買いに行かせて帰ってこなかった私の蟲ではないか。生きているのは分かっていたので後で探しに行こうと思っていたが…まさか、捕まっていたとは。だが、随分といい生活をしていたようだ。蟲籠には、高そうな果実が餌として置かれており、丸々と太ってしまっているのがよくわかる。
大事にしてくれたのね。ありがとう。
「私の『蟲』が随分と世話になったみたいで、申し訳ない。掛かった食事代は、後からお礼も含めて届けますので」
「えぇ、お気になさらずに。珍しい蟲だったので思わず捕まえてしまって、こちらこそ…じゃなーーーい!! 違うでしょう。問題は、そこではありません!!」
蟲を捕まえて飼うあたり、実に優良物件じゃないか。所帯を持つ事も本気で考えていいかもしれない。ただ、娘達の説得が大変そうだがね。
「では、どこに?」
「この蟲が貴方を見て鳴くんですよ。まるで帰りたいと…。そこでピーンと来たのです。『神聖エルモア帝国』に『聖』の魔法と同じく特別な魔法を扱う者がいる事を思い出したのです」
まさか、蟲の一匹から私の正体が漏れてしまうとはね。
「えぇ、私もよく知っておりますよ」
「そうでしょう、そうでしょう。貴方は、『神聖エルモア帝国』の『蟲』の魔法を使うランクB冒険者レイア・アーネスト・ヴォルドーで相違ありませんね?」
熱い声援を送ってくれていた観客達からも疑惑の声や罵声が聞こえている。だが、不思議である。確かに、私はクラフト自身ではないが…先程まで戦っていたのは紛れもない私自身であるのだ。
観客へのサービスも忘れず派手なパフォーマンスまでしてあげたというのに。手のひら返しの速さに脱帽だ。
「バレては、仕方ありません。ミルア様の仰るとおり、私はレイア・アーネスト・ヴォルドーです」
蟲の偽装を解く事にした。これ以上の変装は無意味である。
『おぉっと!! あの有名な『蟲』の魔法の使い手が化けていたとは驚きです。ですが、なぜ不正行為をしてまで本選に出場をしたのか、全くわかりません』
司会が実にいい事をいう。観客達を含め、その言葉を聞いた者達は疑問に思うだろう。
「予選に参加せずに、クラフト選手と入れ替わりでの参加…本来であれば非常に問題です。本選での実力を見る限り、貴方がなぜこのような事を行ったのか理解に苦しみます。お話ししてもらえますか?」
それは、『ファルシオーネ』の街道警備隊の連中に無実の罪で投獄されていたからです。別の仲間も無実の罪で投獄されて予選に参加できませんでした。ひどい陰謀です!! と正直にここでぶちまけてもいいのだろうか。
正直に話してしまうのは簡単だ…だが、相手の立場も考えて譲歩するのも大事である。それに恩を売っておいて損はあるまい。
「わかりました。ですが、機密に関わる事もあるので、紙とペンを頂けますか?」
すぐに、紙とペンをもった運営が現れた。
私やジュラルドやエーテリアが置かれていた状況を細かに記載した。皇帝陛下の勅命を受けた冒険者三名を牢屋に予選終了まで拘束した事が明るみに出ては、陰謀論が囁かれてもおかしくない。下手すれば、最初から出来レースの腐った大会のレッテルすら貼られるだろう。
故の心遣い。仮に、私自身に非難が浴びせられようとも、女性の顔を立てる!!
メモは直ぐにミルアの下に届けられた。片手を額に置いて「あちゃー」といった雰囲気が漂っている。そりゃ、頭が痛くなるネタだろう。
完全に『ウルオール』側に非がある不祥事である。私を失格にして乗り切ったとしても、『神聖エルモア帝国』から正式に抗議文が届くのだ。
「ほ、本件は一時王家が預かります!! 結論が出るまでしばし休憩と致します」
『クラ…いえ、レイア選手の不正が発覚したと思いきや何やら運営側に不穏な空気が。一体、あの紙に何が書かれていたのでしょうか。何を書かれたのですかレイア選手?』
「うまいこと乗せようとしてもダメです。何、不参加を余儀なくされた真実を書いただけですよ」
うまくいけば、エーテリアとジュラルドを含めた三名での参加が出来る。私達が潰し合わない限り間違いなく上位3位は独占できる!!
◆
剣魔武道会の運営委員達は、悩まされていた。替え玉受験者を即失格にして事が収まるなら良かったのだが、事は想像以上に深刻であったのだ。
運営が知らなかったとは言え、他国の皇帝陛下の勅命を受けた冒険者を無実の罪で拘束した。それにより発生した問題は、トトカルチョの損害、敗者への対応など挙げればキリがない。名誉ある大会がイカサマレースに成り下がりかねないのだ。
「レイア、エーテリア、ジュラルドの三名を加えて、再度本選をやり直すべきか否か…」
「ミルアの言う通り、こちらに非があったかもしれません。しかし、予選にすら参加していない参加者をいきなり本選に参加させては、大問題です。今後の事も考えて私は反対です」
ミルアとソックリな双子である『ウルオール』の至宝であるイヤレスが反対する。
イヤレスの言う事も正しい。今後の大会において、難癖つけてきて本選から参加を目論む者達が現れないとも限らない。
剣魔武道会も長時間休憩したままと言うわけにはいかない。『神聖エルモア帝国』の皇帝陛下には、こちらから正式に謝罪をして、丁重にお帰り願おうと結論が決まりかけた。
「何もそのまま返す必要はあるまい。折角の剣魔武道会だ。冒険者として実力を披露させずに帰させたとなっては『ウルオール』の恥であろう」
「ですが、本選に残っている者達では…」
既にギルドに問合せを行い三名の実力について確認済みであった。
ランクAに片足を突っ込んでいる紛れもない化け物である。本選に残っている冒険者も実力者達ではあるが、この三名に比べたら劣るのは事実。
「問題ない。私が出よう。今後、難癖つけて途中参加してくる者が現れたとしても私が相手すると分かれば尻込みもするだろう」
「なるほど、それならば不埒な輩も現れないか。万事解決ですねミルア。応援しておりますね。お姉様」
大衆が見守る最中、今回の事の顛末をバラさなかった彼等に感謝しつつ、申し訳ないと心から謝った。
ミルア達の姉達は、根っからの戦闘狂なのだ。
◇
「やったぞ!! ジュラルド、エーテリア」
待合室で待たされる事、30分…我々の処遇がついに決定したのだ。
剣魔武道会本選は、残念ならが失格になった。しかし、本選終了後の私達の為のエキシビジョンマッチ開催が決まった。しかも、勝利すれば用意できる範囲で望みの品を何でもくれるらしい。
太っ腹な対応である。これで、皇帝陛下への手土産も十分用意できる。
「対戦相手が、気になるが…記載されてねーな。無難なところで本選優勝者か。或いは…アタイ等三人による試合かな」
………
……
…
エーテリアが嫌な予想を立てる。三人での試合とか…この二人がペアで襲ってきたら流石に勝てない。
私の力量が10だとしたらエーテリアとジュラルドは共に8~8.5といったところだ。お互い切り札の一つや二つ隠しているだろうし、本気の殺し合いになったら一対一でも勝敗は分からない。
「本選出場者の力量を考えるとありえなくも無いですね。すみませんレイア殿…」
「なーに、アタイ達が勝っても報酬は山分けしてやるからよ」
「なんていい話だ」
私が勝利しても報酬は山分けしよう。
◇
『さて、お待ちかねエキシビジョンマッチの開催です!! 今回はなんと、『神聖エルモア帝国』でランクAに限りなく近いと称される三名が、我が国のあの方と一騎打ちです』
リング上には、トゲ棍棒をもったゴリフが威風堂々と立っている。
エーテリアとジュラルドに私が一番手を務める事を告げた。私達の事を調べた上で用意した駒である事は間違いない。手の内が分からないのは、厄介だが…最悪、可能な限り手の内を晒させて後続に繋げよう。
「まさか、彼女が自ら出てくるとは…レイア殿」
「大丈夫だ ジュラルド…ゴリフなんぞに負ける私ではない」
私がリングに上がると声援が巻き起こる。
不正発覚時からまた手のひら返しとは…民衆とは酷いな。
「私を見て逃げずにリングに上がるとは、褒めてやるぞ『蟲』の使い手」
ゴリフの筋肉をピクピクする様は、本当に逃げ出したい。
何が楽しくて、ゴリフと組んず解れつの試合を行わないといけないのだ。これも全ては、報酬の為だ。
「そりゃどうも…で、勝利したら望む品は思いのままというのは本当か?」
「勝つ気でいるのか。いいだろう、望む物をくれてやろう。で、何を望む?」
ならば、遠慮なく言ってみよう。
「エルフの双子姫…『聖』の魔法の使い手を貰い受けよう。流石に、二人と贅沢は言わぬ…一人で構わぬ」
あぁ、できれば蟲に抵抗感がなさそうなミルア様の方をくださいね。大事にするので。
ざわざわ
私の発言に、何やら会場全体でなくジュラルドとエーテリアも口を開けている。
『な、な、何と言う事でしょう!! まさか、レイア選手。エキシビジョンマッチを利用してプロポーズとは、やる事が違います。流石は、ランクAに限りなく近いランクB冒険者です』
「くっくっく、いいだろう。もし、お前が勝てたなら嫁になってやろう」
………
……
…
お、オカシイ。今、私はトンでもない失言をぶちまけた気がする。
「じゅ、ジュラルド…以前に言っていたエルフの双子姫。ランクAの『聖』の魔法の使い手って…」
「今、目の前にいるじゃありませんか。彼女がエルフの双子姫の一人ですよ」
「求婚が数多に来るという話は!?」
「『ウルオール』の王族でランクA冒険者。『聖』の魔法まで使えれば政略結婚など星の数ほどあるかと」
生物学上確かに、メスに分類されるがこれは酷い詐欺だ。勝手に思い込んでいたとは言え、ひどい詐欺と文句を言いたい。
「じゃぁ、エルフの至宝と言われるミルア様って何者!?」
「ミルア様とイヤレス様は、彼女達の弟にあたる人です」
お、弟だと!! どうなってやがるエルフ!! いや…待てよ。
そもそも、ジュラルドだって元は美少女に間違う程の美少年だったのだ。それが、モンスターソウル吸収によるポテンシャル上昇で今の姿になった。
という事は、目の前のゴリフも元はトンでもない美少女だったけどランクAに容姿を犠牲にしたという事か。勿体無いどころじゃないぞ!!
「だが、それだと伴侶にしたい種族に毎年No1に輝くエルフは何なんだ。エルフ代表がゴリフなんだろう」
「伴侶って別に嫁って意味じゃありませんよ レイア殿。『ウルオール』の至宝と呼ばれるミルア様とイヤレス様が伴侶にしたい種族であるエルフの代表格です」
各国が亜人を大事に扱う理由がなんとなく分かった気がする。基礎能力が高い分…成長度合いも凄いという事なのね。酷い、酷すぎるぞエルフ。もう、お前らなんて大嫌いだ。二度と迷宮にくるんじゃねぇ!!
そして、この大会で女性が多く執念深い理由は…至宝の男の娘が目当てだったのか。ランクAの冒険者を姉に持つ双子ならと思って…喪女が最後の望みをかけたということか。
く、腐ってやがる。
ゴリフ二人組=ランクA、『聖』の魔法の使い手、王族、双子姫
エルフの至宝=王族、ゴリフの弟達、伴侶にしたい種族No1のエルフ代表格
といった感じです。
ゴリフは、『聖』の魔法が使える事から周りから持ち上げられ…迷宮に潜り続け気がづけ筋骨隆々のマッスルボディーを手に入れた。本来、誰もが振り向く傾国の美女となるはずだったのが誠に残念である。趣味は、家事全般、生花、音楽、社交ダンス。
可愛い弟達が自分達と同じ冒険者にならないように、モンスターソウルの影響で戦闘狂になったと思わせる行動をしている。実は、花も恥じらう乙女心をもった乙女なのである。弟達をモンスターソウルから遠ざける為に、乙女としての生き様をすてた王女達である。弟達が着る服は、ゴリフ二人のお手製である。女子力は極めて高い。
そういえば、クラフトの本人はね…忘れられて牢屋にまだいるお。
どうせ、準々決勝から参加しても勝ち目ないし。いいよね!!
次回予告(嘘or本当)
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レイア「このレイアは変身をするたびにパワーがはるかに増す…その変身をあと2回も私は残している… その意味がわかるな?」
ゴリフ「ならば、こちらも本気を見せてやろう。『聖』の魔法の本当の力を見せてやる!! はぁぁぁぁぁぁぁ」
全身より黄金のオーラが立ち上がり、髪は逆立ち金色に。筋肉はさらに膨れ上がった。これが、超エルフw
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