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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第十四話:剣魔武道会(1)

よく思えば、年休とっていたんだった。

故に執筆できたので投稿じゃ~


 『モロド樹海』から帰還を果たし、『ネームレス』のギルド本部で毎度の事ながら美味しい依頼を物色していた。数多く居る冒険者達が、自分達の目的に合った依頼を見つけては、受付へ持っていき契約を結んでいく様を見て羨ましいと思った。

 下層のパーティーが全滅しないかな。未帰還者になってくれれば、遺留品を潜るついでに拾って届けるのだが…。

「死んでくれないかな…」

 その一声で、周りに居た冒険者達が一斉に私の方を見た。そして、一歩一歩と距離を取っていく。

「あ、あのレイア様。営業妨害でしたら他でお願いします」

「なんだ、マーガレット嬢か。私が、いつ営業妨害をしたと言うのかね」

 ただ、私のお財布の為に何処かのパーティーが全滅してくれないかと呟いた程度だ。まさか、ギルド本部では冒険者の呟きすら許されない厳しい規則がある訳でもあるまい。

「有象無象の冒険者達ならまだしも、ランクBのレイア様が「死んでくれないかな」と呟くと皆さんが逃げるんですよ。さっきまで、人が沢山居たのに誰も居なくなったじゃありませんか」

「本当だ。でも、私が受注できる依頼が無い事が問題だと思うのだけど。ちゃんと、営業活動している?」

 聞いている冒険者が私以外に居ないので貢いでくる冒険者達を平然と有象無象とは、そろそろマーガレット嬢の暗殺を誰かが依頼するのではと思ってしまう。

 いや…面白そうだな。いっそう、自分が1億セル程積んでギルドに依頼してみようかな。楽しいショーが見られそうだ。

「もちろん、しておりますよ。ちゃんと、下層の依頼もございますが、受注されます? モンスター素材を持ってくる依頼ですが」

 蟲達が美味しく頂くので無理です。それを知っていて勧めてくるとは、いい度胸だわ。このくらいの度胸が無いと受付嬢なんて無理かもしれないけどさ。

「………で、何の用? たまたま、私がぼやいた時に傍に居た訳ではあるまい」

「その通りです。実は、レイア様宛に書簡を預かっております。ご確認を」

 受け取った書簡をまず確認した。

 なんと、皇帝陛下からの書簡であった為、正直吹いたわ。ここ最近、王族に対して不敬を働いた事があるか真っ先に考えた。だが、思い当たる節は無かったので安心して中身を確認してみた。

………
……


「なるほどね。マーガレット嬢、『ウルオール』で毎年行われている剣魔武道会って知っている?」

 恥ずかしながらこの手の行事には、大変疎い。戦争や迷宮ばかりだったからね。

「やはり、そのお誘いだったのですね。当然、知っております。剣魔武道会とは、冒険者達が実力を競い合う事で有名な大会です。『ウルオール』が国家を挙げて行っている大会で優勝者には、1億セルの賞金が与えられます。また、晩餐会で双子の姫君と最初に踊れるとか。後は、名誉とか…」

 冒険者を舐めるな!! ダンスなんて踊れる訳が無い。だが、金は欲しいな。しかも、1億セルとか先ほど冗談でマーガレット嬢の殺害依頼を出そうと考えたのと同じ額だわ。

 これって、間違いなくフラグだよね。

「競技内容は?」

「迷宮を使った参加者全員による大乱闘です。毎年、参加者が非常に多い事から30名になるまで続けられます。ただし、三日を過ぎても30人以上居る場合には、『聖』の使い手が直々に削りに入ります。ちなみに、棄権した者への攻撃は禁止されております。ですが、それ以外は何でもありですよ」

 亜人が多い国で、しかも王族がエルフの国だよな。もっと、繊細な競技とかあってもおかしくない筈だと思う。なんか、すごく脳筋国家な気がしてきたぞ。伴侶にしたい種族No1の偉業を持つエルフさんよ…お前等、大丈夫か。

「ランク制限は?」

「設けておりませんが、過去の大会においてもランクAが出場された記録はありません。一方的過ぎて、場が白けますから」

 そうだよね。ランクAが出場すると分かったら全員棄権するからね。大会どころじゃなくなる。下手すりゃ、戦争だ。

「闘い事は、好きじゃないのだが、皇帝陛下から出場依頼が来たとなっては別だ。出場する以外に選択肢などない。で、ジュラルドとエーテリアは何処に居る? 」

 皇帝陛下から依頼は、我が国の冒険者も多数参加しているが成績が芳しくない。故に、お前が出て成果を上げて来いとの事だ。まぁ、出場するからには優勝を目指すけどね。その為には、チームを組むのが一番だ。賞金は、山分けだ。

「お二人にも同様の書簡が来ておりましたので、5日程前にご出発されました」

 なるほど、ここ最近は迷宮の中に居たからね。いつ戻ってくるか分からない私を待つのは厳しいだろう。こういう時、独り身って悲しいな。ジュラルドが居たなら道案内もお願い出来たのに。

「それで、私はどうやって『ウルオール』まで行けばいいのだ? 開催場所どころか、『ウルオール』の地理すら分からんぞ」

「帝都から馬車の定期便が出ておりますから、それに乗られるのが良いかと思います。時期的に考えて、定期便以外の開催地への直行便も多いでしょう」

 馬車で優雅の旅も悪くはない。流石に、蟲に乗って空から他国に侵入するのは宜しくないものね。下手したら国際問題に発展しかねん。

「そうか、では行ってくるとする。優勝したら、手土産ぐらい買ってきてやるさ」

「ご活躍ご期待しております」

 エーテリアとジュラルドから5日ほど遅れて『ウルオール』へと足を向けた。他国に行くなど戦時以外では、初めてなので観光も出来るとなれば胸躍る。



 帝都で目的地行きの馬車は、直ぐに見つかった。なんせ、大声で叫んでいる集団がいくつもあり、盛大に客引きをしていたのだ。

 初めて知ったのだが、目的地までは約四日掛かるだけでなく道中モンスターが出る事もしばしばあるらしい。その為、「うちは、ランクC冒険者を三人雇っている」という宣伝文句などもよく見かけた。

 だが、私が目を付けたのはそんな有象無象の馬車では無いのだ。1台だけ、貴族が乗るような豪華な馬車が停まっていたのだ。しかも、護衛の連中が乗る別の馬車がしっかりと用意されてあり、客と護衛を完全に分別している。

「この馬車は、剣魔武道会が開催される『ファルシオーネ』行きか?」

「その通りです。目的地まで安全で快適な旅をお約束致しますよ。料金の方は、お一人様200万セルとなっております」

 一泊50万計算か。飛行機のファーストクラスだって乗った事は無いが糞高いのだ。これもそういう位置付けなのだろう。

 金はある!! そして初めての海外旅行だ。奮発するべき所である。

「快適な旅を期待している」

「勿論でございますお客様。それと、馬車の中ではフードはお取りください」

「日の光に弱い体質でね。外せんのだよ」

 もちろん、半分本当である。だが、とうの昔に克服したがな。

 私の顔を知っている者が何処に居るかは定かでない。下手に怖がられるのも嫌なので、顔まですっぽり隠れるフードを着用している。『蟲』の魔法って、なぜか評判があまりよろしくないのよね。

「失礼しました」

 200万セルを支払って中に乗ってみると実に豪華であった。ふかふかの座席が個々に用意されている。加えて、水などの飲み物も完備。座席数は10席。一席あたりの広さ的にも申し分ない。

 安い乗合馬車では、床にまで座らせ寿司詰め状態にするからね。まさに、雲泥の差である。お値段も。

 私以外の客は、女性が5名おり男性が全く居ない。しかも、身なりから考えるに、女性4名は間違いなく貴族であろう。しかも、4人は親子のようだ。できるだけ、この集団から離れた位置に座り、馬車の旅を楽しむ事にした。

………
……


 貴族の女性ばかりが乗る馬車…フラグ臭がバリバリするが、高額な料金だけあってそれなりの冒険者を雇っているようだ。道中のモンスター達をスムーズに処理していた。

「えぇ、夫が騎士団代表で剣魔武道会の警備に就く事になりましたのよ。それで、子供達を連れて見に行こうと思いまして」

「そうなのですか。騎士団代表とは凄いですね。どちらの騎士団にご所属なんですか?」

「夫は、第四騎士団の副団長を務めております」

 馬車が出発して三日目だというのに、後ろから聞きたくもない話が漏れ聞こえた。第四騎士団の副団長って、シュバルツの野郎じゃねーかよ。という事は、後部座席に座っているのはシュバルツの妻と子供達か。元上官の妻に、その子供達。子供といっても年齢的には10代後半だ。

キュピーーーーン

 『蟲』の知らせだ!! 可愛い蟲達が、人間には感じる事ができない何かを感じ取った。間違いなく碌でもない…主に、馬車の襲撃フラグ的な何かを感じ取った。

「私は、ここで馬車を降りるぞ!! 自分の都合で降車するのだ。お前等に一切の非はない!! いいか、絶対に追ってくるなよ」

「お、お客様。夜は危険です。お戻りください!!」

 馬車から飛び降り、すぐに森の中の奥へ奥へと進んでいった。遠くから、「お客様~」と声が聞こえる。若干、申し訳ない感はある。だが、戻らぬ。

「街道を進めば間違いなく『ファルシオーネ』に着く。さて、今日はここで寝るとしよう」

 当然、地面でなど寝ない。可愛い蜘蛛達により、簡易ハンモックが作られた。さらに、絹毛虫ちゃんを抱き枕として、呼び出した。

絹毛虫<<きぬけむし>>…全身がシルクの毛に覆われた1m程の毛虫。体は柔らかく、低反発である。当然、触り心地は抜群。非常におとなしく、鳴き声はモキュモキュと愛嬌がある。また、良い香りを漂わせて相手を眠りに誘う。

 この子を作るのは苦労したけど、快眠出来るから重宝している。しかも、マーガレット嬢や元王族やクォーターのエルフより良い香りを漂わせる。女子力が高い。

モキュモキュ(お父様、いい加減に子離れしないといけませんよ)

「良いではないか良いではないか」

モキュモキュ(本当に今晩だけですからね。ちょっと、変ところ触らないでください)

 変なところと言われても全身が毛で覆われていて、どこも同じ触り心地なのですが。だが、嫌がっている雰囲気は無かったのでそのまま抱きしめて眠りに落ちた。




 快眠できたおかげで、元気いっぱい!!

 街道を進もうと馬車があった位置まで戻ってみれば…無残な姿の馬車があった。

 馬車の扉が壊れており中を覗いてみると争った形跡がある。更に、女性が着ていた衣服の切れ端が残されており、どうやら連れ攫われたようだ。

 まぁ、この世界ではよくある。

 死体の数が帝都を出た時と違う事から、護衛の中に裏切り者が居たと見て間違いないだろう。シュバルツの妻と話していた女すら襲撃者の一味の可能性が高い。狙いはシュバルツの家族と見て間違いないだろうな。地位を考えれば当然の帰結である。

 幸い、人質としての価値もあるし、全員女性なので直ぐには殺されないだろう。死ぬ前に救助される事を願っておく。

 状況確認も終わったので『ファルシオーネ』に向かって歩みを始めようと思った矢先に、前方より10人程の集団が向かってきた。騎士の格好をしている事から、街道警備に務めている者達であろう。

「そこの者!! 何をしている?」

 全員が剣を抜き、臨戦状態だ。

「決して怪しい者じゃありません。剣魔武道会の為に『ファルシオーネ』に向かう何処にでもいる冒険者です」

「では、なんで馬車を覗いていた。何かを物色していたのか?」

 まるで、私が襲ったみたいな言い分…ひどい。

「元乗客が、馬車から覗いていたらおかしいんですか!?」

「元乗客だと? ならば、ここで何があったか知っているな?」

 そんな事も見て分からないのか。どう見ても、襲われた後だろう!! お前ら何年警備をやっているんだよ。

「昨日は、嫌な予感がしたので私一人で馬車を降りて野宿しました。故に、詳細は知りません。ただ、状況的に誰かしらに襲撃されたと思います」

「嫌な予感がしたなら、なぜ他の者を連れて逃げなかった。それに、冒険者なのだろう。どうして、一緒に戦わなかった?」

 私が答える度に、なぜか私を囲むように陣形が展開されていく。剣どころか魔法を使う気満々の野郎もいる。

 いいや、誠意を見せて全てを正直に話せばきっと分かってくれるはず!! コミュニケーション大事!!

「目的は、私では無いと分かっていたので一人で逃げました。それに、戦うって…護衛のお仕事でしょう? 私は、金を払って乗った客です。ついでに、ここら辺の治安を守るのはアンタ等の仕事だろう? 給料分働けよ」

「……なるほど、よく分かった。『ファルシオーネ』に行きたかったのだろう? 部下を一人付けよう」

「おぉ!! やはり、話せばわかる人っているんですね。ありがとう」

 目的地まで送り届けてくれるとは、やはり日頃の行いか!!




ガシャン

「あれ?…いい所に連れて行ってやると言われてノコノコ付いて行ったら牢屋に入れられた!! まだ、観光すらしていないのに!! なぜだ、私が何をしたんだ!! 出して!! ここから出してよ!!」

 街道で話の分かる警備の人のおかげで『ファルシオーネ』まで連れてきてもらったが、なぜか地下の牢屋に幽閉されました。訳が分からない。

 無事に帰ったら、皇帝陛下に報告して正式に抗議してやる。

「おぉ!! その声はレイア殿!? なぜここに」

 隣の牢屋を見てみれば、エーテリアとジュラルドがなぜか牢屋に入っていた。

「お前等こそなんでいるんだよ。何やらかしたんだよ!!」

「聞いてくれよ!! ジュラルドの実家に滞在しようとアタイもついて行ったんだよ。そうしたら、「私のジュラルドは、どこに行ったの!? なんで、家族の秘密まで知っているのよ」と親御さん達と色々と揉めてな。気がつけば、ジュラルド殺害容疑で牢屋の中さ」

「まぁ、冒険者育成機関の時代から一度も帰省しておりませんでしたからね。まさか、僕の顔を忘れていようとは…ショックでした」

 ジュラルドには、申し訳ないが…親御さんが正しい。あの肖像画と今のジュラルドを比べたらね。だが、ジュラルドも自分自身の殺害容疑が掛けられるって凄いよね。普通じゃありえないよ。

「私の方は、ここまで馬車で優雅な旅をしていたのだが、道中に襲撃される事を察して逃げた。その後に出会った街道警備の人達に状況を説明したら、ここに押し込まれました。自分達の職務怠慢が原因だと言うのに酷いわ。どうなってんだ、この国…」

「すみませんレイア殿。母国の者が失礼を」

「気にするな。よく、誤解されるのは、今に始まった事じゃない。間違った事はしてないんだ。お互い、時間が解決してくれるのを待とう。脱獄なんてしたら、国際問題だしね」

「だよな。ジュラルドの実家にも迷惑かかるし、アタイ等の誤解が早く解けねーかな」

 脱獄する事など朝飯前だが、実家や祖国に迷惑をかけまいと大人しくする。何処に出しても恥ずかしくない紳士淑女達である。
牢屋から出たいです@@
誰か助けて~。
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