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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第九話:新人冒険者(2)

マーガレット嬢視点でのお話。


 毎年の事だが、実に面倒な時期が来たとギルド職員全員が思った。

 この時期には、冒険者育成機関から最上級生達が遠征に来るためギルド受付における事務作業が普段の数倍に膨れ上がるのだ。無論、将来的な天下りも考えていい顔をする必要があり、ストレスが溜まる要因である。

「マーガレットさん、よろしければ本日の業務終了後にディナーでもいかがですか?」

「ありがとうございます。ふふ、そうね…貴方がもっといい男になったら考えてあげるわ」

 と笑顔でマーガレット嬢が最上級生の手を握って言うと、面白いように堕ちる。そして、マーガレット嬢に貢ぐ働き蟻の誕生である。そんなマーガレット嬢の腹黒い思惑など露知らず、哀れな男である。

 そして、冒険者育成機関の生徒の依頼書をギルド職員全員で纏め始めた。

「どれもこれも、冒険者を斡旋するこちらの立場になって欲しいような依頼ばかりね。少しは、相場ってものを調べてきて欲しいものだわ」

 依頼内容は、サポーター募集や『モロド樹海』における立ち回りを教えてくれる人募集やレベリングさせてくれる人募集など依頼は様々であった。そして、殆どの依頼に言える事が圧倒的低報酬。もちろん、生徒としてはそれなりの額で依頼をしているつもりだが…『モロド樹海』で冒険者を雇うには無理がある金額だ。

 それ故に、マーガレットが文句を言うのも当然である。こんな報酬では引き受けてくれる人などいつまでたっても現れない。

「そこは仕方ありませんよ。あそこで採れる素材じゃ碌な値段にもなりませんしね。まぁ、酷いのは認めますが…同郷の好で引き受けてくれそうな人に話を通しましょう。マーガレット」

「それしかないわね。はぁ、面倒だわ」

 人情に訴えて依頼を引き受けさせる方向でギルド方針では決まった。

 可愛い後輩の為に割が合わないけどよろしくと酷い話である。おまけに、女に弱い冒険者を狙い撃ちにする事で可能とするゲスイ方法である。だが、これができてこそ受付嬢である。その為に容姿端麗な女性を雇っているのだ。




 昼になり、冒険者育成機関の生徒の依頼書を処理する最中、珍しい組み合わせを発見した。『ネームレス』が誇る最高戦力がギルド本部で軽食を食べていたのだ。

「ランクB…それも化物に近い連中が揃うと流石に凄いわね。みんな一斉に酒場から逃げたわ」

 いるだけで営業妨害に近い存在だが、誰も文句を言えない。そんな、酒場のマスターを見てマーガレット嬢は若干哀れんだ。頑張れと。

「マーガレットさん、この依頼をあの方達にお願いしてみては?」

 後輩が持ってきたのは一枚の依頼書だ。冒険者育成機関の生徒が出した『今後の為にランクB相当のモンスターが出る下層でレベリングさせてください。報酬は、200万セルだします。期間は、一週間でお願いします』などと妄言にも等しい内容の依頼書だ。

 この依頼書を見た瞬間、0の数を間違っているのではと思い何度も見直した。仮に、報酬の金額に0が一つ多くても引き受ける冒険者はいない。まぁ、前回みたいに依頼主が王族なら話は別だが。

 と、そんな依頼書を後輩が渡そうとしてきた。

「嫌よ。あんたも、アイツ等と全く縁がないというわけじゃないんでしょう? その依頼を持って行ってみなさいよ」

「た、確かに依頼の際に顔を会わせる程度ですが。これを持っていく勇気はちょっと」

 今まで無理難題を吹っかけまくっているマーガレット嬢だからこそ、今度も大丈夫だと皆が思っているが…当然、マーガレット嬢も嫌である。相手の機嫌を間違えば、身の危険がある。相手の機嫌を読み取り絶妙な距離感を保つマーガレット嬢は極めて優秀なのだ。

「だったら、振るんじゃないわよ!! というか、こんな依頼は出した奴を呼び出して書き直させなさい。最悪、冒険者育成機関に連絡しても構わないわ」

 後輩に指導を行い、引き続き受付及び事務処理を開始した。

 その間も、マーガレットの美貌にやられた生徒達が隙を見ては話しかけてきて、仕事の邪魔をしていた。そんな、マーガレット嬢の視界を遮るだけでなく、仕事を妨害する愚か者どもが居なければ、事件は起きなかったかもしれない。

 後輩が急ぎ足でこちらに近づいてきて聞きたくもない情報を教えてくれた。

「ギルドを通さず依頼をする生徒がいるですって!? どこのアホタレよ」

 と聞き返したところ、同僚があちらですと指をさした。

 その方角にいる冒険者は、数少ない…具体的には三名しかおらず。誰に直接依頼を申し込んでいるかすぐに分かった。だが、同時に安心した。

「あぁ、アイツ等なら大丈夫よ。ギルドのルール分かっているし、それとなくギルドを通すように促すはずよ」

「そ、そうですよね。冒険者教育機関の最上級生だと…彼等を誰か知らないで無礼を働くんじゃないかと不安で」

 ギルドを通さず依頼をする事はたとえ王族であっても許されない。誰が決めたルールかは既に定かではないが、依頼主、ギルド、冒険者の三つの関係が崩れてしまうと困る人達がいるのだ。そういう困る連中の耳に入ると、教育的指導がはいるのである。尤も、ランクAとかランクBの化物クラスに教育的指導が入る事はない…いや、できない。

「………あんた、フラグって知ってる? やめてよ!! もし、何か起こったら、あんたが責任取りなさいよ」

「心配しすぎですよ マーガレットさん。オリハルコン製の大剣を持ったエーテリアさんやピュアミスリル製の装飾品を身に付けたジュラルドさんの二人も一緒にいるんですよ。そんな人達に新人冒険者如きが偉そうにデカイ口を叩くはずありませんよ」

 まごう事なきフラグ!! 間違いなくフラグ!!

………
……


『おぃ!! なに当然の如く、100万セルもくすねてんだよ!! さっさと、金返せよ!! 高ランク冒険者のサポーターだからっていい気になるなよ 『自称冒険者』の白髪頭!! 俺等の両親に言えば、お前等なんて明日には迷宮の肥料にしてやれるんだからな』

『早く、お金を返しなさい。そうすれば、お父様に報告しないであげるわ。お父様は、ギルドの上層部と非常に仲がよろしくてよ』

 ギルド本部によく響く罵声が届いた。

 一同が、声がする方向を見てみると、驚愕の一言である。無謀と勇気を履き違えているとしか思えない出来事が起こっていたのだ。

『マジかよ…エーテリア、ジュラルド。俺等、明日には迷宮の肥料になるんだってさ』

 どういう展開でそんな状況になったか理解できないが、やるべき事がひとつある。

「私、花を摘みに行ってくるわ」

 皆が驚愕しているスキをついて、マーガレット嬢はギルド本部の奥へと逃げていった。
次も執筆中ですので、しばしお待ちを。
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