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第八話:新人冒険者(1)
この世界の設定を説明してみましたが。考えるの難しいです。
修正する可能性は否定しませんが、基本は変わりません。
冒険者育成機関。それは、国家が運営する冒険者の為の教育機関である。どのような目的で設立されたかと言えば、モンスターを駆除できる人材を育成し、誰しもが平和に暮らせる世の中を作るべく、一丸となって頑張ろうという崇高な精神の元に設立された。
だが、それは表向きの理由である。
そもそも、冒険者なんて職業は、誰でもなれる。冒険者育成機関を出る必要性は全くない。ギルドで一枚の紙切れにサインをしたその日からギルド公認の冒険者になるのだ。
冒険者育成機関は、家督を継げない貴族の為に用意された牧場なのだ。加えて、国家やギルドの天下り先。引退した冒険者の再就職先。というのが真の姿だ。
だが、当然育成機関らしい事も行っている。武器の扱いから魔法、迷宮探索における心得などを教えているのだ。そして、最低限、迷宮で生計が立てられるだけの力を付けさせる。
そして、冒険者育成機関を卒業しても冒険者にならない場合には、軍隊へ入る事が多い。なんせ、軍で行う教育の一部を冒険者育成機関でやってくれているのだ…手間が省けるだけでなく、即戦力が期待できるから軍隊も卒業者の採用に力を入れている。
冒険者育成機関は、家督を継げない貴族だけでなく、平民達にも広く門を開いている。当然、極めて優秀でない限り、それなりの入学金や年間の授業料がかかる。しかし、えげつない事に平民でも少し頑張れば払える料金設定であり、見事に平民から搾取するのに成功している。
そのおかげで冒険者の6割強は、冒険者育成機関の出身者なのである。
◆
冒険者育成機関にて、最上級生の遠征に向けた準備作業が行われていた。
「皆さんは、まもなく『モロド樹海』へ赴き、本場の迷宮を味わう事になります。今日まで習った事をしっかりと実践に適用できれば低層で十分な成果を得られるでしょう。現地では、ギルドを通じて先輩冒険者を雇うのも一つの手段です。一つしか無い命です。決して、無駄にしないように」
冒険者育成機関にて魔法の講師を務める、元ランクC冒険者は生徒達に激励の言葉をかけた。
実はわざわざ遠征せずとも、冒険者育成機関の敷地内部には、『試される大地』という迷宮が存在している。『モロド樹海』と比較して出現するモンスターは弱いし、一層あたりの面積は狭いし、食べられる食物も多いし、5層までしかない。
その為、卒業前には本場を体験させるというのが慣例になっているのだ。
「魔法について聞きたい事があるが、今、構わないか?」
「構いませんよ」
講師に対して、敬語すら使わないアインスという生徒がいる。
アインス・ヒューレル・エルザード…剣技及び魔法において首席である貴族の次男。自分の実力に絶対的な自信を持っている。その裏付けに講師である者達からも既に『ランクD』相当の力量を持っていると太鼓判を押される程である。
「高ランク冒険者にもなれば、詠唱を必要とせずに魔法を使えるらしいが、俺にも可能なのか?」
「そうですね。冒険者になれば誰でも知る事ですし、教えてあげましょう。結論から言えば、今の君でも可能です」
魔法とは、本人が持つ魔力を『火』『水』『土』『風』のいずれかの形でイメージを現界させる事象である。この際に一番大事なのが、想像力である。仮に、『火』の魔法を扱える者を10人集めて、目を瞑らせて火の玉を出させたら全員が同じ物を出す事はない。
火の玉を出すという簡単な魔法のはずなのに、十人十色では困るという事から、『魔法名』と『詠唱』というシステムが各国の思惑で取り込まれる事になったのだ。この二つを用いる事で、誰しもが同じ魔法を使う事が出来る。更に、冒険者育成機関では図説付きの教科書を用いて更にイメージを強固な物にしているのだ。イメージが強固な程、魔法の威力も高まる。
他にもメリットは存在する。一番効果が発揮されるのがパーティー戦などの大人数がいる際に魔法が行使される時である。どのような魔法を使うのか、使われているのかがパーティーメンバー全員が理解できるようになり、戦闘がスムーズに進行するようになるのだ。
もちろん、デメリットとして…『詠唱』をしないと魔法が使えないと刷り込まれてしまう為、『詠唱』しないと魔法が使えなくなってしまう者達もいる。『詠唱』をする冒険者は、二流。無詠唱で複数属性を連続行使できて、一流である。
………
……
…
「そんな裏話があったのか。では、もしかして『火』『水』『土』『風』の魔法は、想像力さえあれば全属性扱う事が可能なのか?」
「それは、完全に生まれ持った才能に左右されます。才能さえあれば、2属性、3属性と鍛え上げれば扱えるでしょう」
魔法を扱うには、先天性の才能に左右される。これは、逆らう事ができない真実である。もし、魔法を扱える者が全て全属性扱えるのならば、迷宮攻略がどれほどスムーズになったか想像もつかない。
「ならば、『闇』や『聖』といった特別な属性も才能に左右されるのか?」
「情報が少な過ぎてわかりませんね。ただ、一つ言えることは…それが扱える者達には近付かない事です」
エセリア大陸で確認されている属性は、『火』『水』『土』『風』も加えて、特別な属性である『闇』『聖』『雷』『蟲』の4つである。
「そうか、非常に為になる講義であった。それでは、メンバーも待っているのでそろそろ行く事にする」
「あぁ、気をつけて行ってきなさい」
こうして、アインス・ヒューレル・エルザードの冒険が始まるのだ。
◇
ペアで『モロド樹海』に挑むランクB冒険者の二人と珍しく迷宮外で出会ったので、ギルド本部にある酒場で軽食を摘んでいた。
「何やら騒がしいな。今日は、祭りか何かだっけ?エーテリア、ジュラルド」
『ネームレス』のギルド本部の空気が和気藹々としている。なんというか、とてもフレッシュな雰囲気を漂わしている集団が多数居る事に疑問を覚える。
「あの集団ですか。もう、そんな時期なのですね。あれは、冒険者育成機関の最上級生の集団です。実は、僕の母校なのですがね」
「へぇ~、もしかしてエーテリアも?」
この長年付き添った夫婦みたいな雰囲気を醸し出すこの二人だ。その可能性は高いだろうと思っている。
「あぁ、ちげーよ。アタイは、『自称冒険者』の方さ。まぁ、ジュラルドとの出会いは、ジュラルドが最上級生になった時だ。要するに、あそこにいる連中みたいな時さ」
冒険者には、二つある。冒険者育成機関の出身者とそれ以外の者達だ。本来、冒険者の意味合い的に双方同じ存在なのだが。ギルドとしても天下り先が栄えていた方が懐事情も潤う等の真っ黒な思惑が数多に存在した結果『冒険者』と『自称冒険者』の二つの呼び名が生まれたのだ。
尤も、ギルド職員も迷宮に挑む冒険者達も殆ど使い分けたりする事はない。そんな事に全く意味がないからだ。
だが、冒険者育成機関を出たばかりの新人は、よくよく勘違いするのだ。育成機関をでた自分達の方が技量も知識も遥かに上…故に、冒険者育成機関を卒業する自分達が真の『冒険者』で、それ以外の者達を『自称冒険者』と蔑む事が多い。
まぁ、あれだ…日本的に分かりやすく例えるならば、大学卒と中卒で就職したけど、どちらが偉い的な感じである。勤続年数もしくは最終学歴…どちらがという感じであろう。当然、どちらも不正解…正解は、職位という回答になる。冒険者に当てはめれば、ランクである。
「へぇ~、じゃぁあれかな? エーテリアが無謀にもモンスターに挑み、死にかかったところをジュラルドが颯爽に助けに入り、今の関係が出来上がったと」
………
……
…
「いえ、逆です。僕がモンスターに無謀な特攻をした結果、死にかけたところをエーテリアに救っていただきました。いや、大剣を振り回しモンスターを一刀両断するあの姿は、凄かった」
「お前がかよ!! なんでだよ。全属性使えるエリートだろ!! モンスターくらい、余裕だっただろう!?」
「そんな事ありませんよ。昔の僕は、弱々しかったんですよ」
ジュラルドは、身長2m近くあるだけでなく、筋骨隆々。腕の太さがエーテリアの太ももくらいある。しかも、スキンヘッドに加え、肉弾戦が得意ですと言わんばかりに耳が潰れている。
「その顔は、信じていませんね」
現在の容姿から想像すらつかない…どう考えても、昔からマフィアの用心棒みたいな面構えだったに決まっている。騙されんぞ!! 低ランクモンスターなら素手で撲殺できる腕前だろう。信じられるはずがない。
「それが本当なんだよね。アタイだって、ずーっと一緒に居なかったら、アンタと同じ反応をしたよ。あぁ、これが当時のジュラルドとアタイだ」
エーテリアがペンダントに入っている二人の肖像画を見せてくれた。
そこに描かれていたのは、少し幼く見えるが今とあまり変わらないエーテリアと肩まである綺麗な金髪をしたエルフの美少女であった。以前にあったクォーターなど目じゃない程の美少女であった。
「……肖像画、間違ってない? 元、パーティーメンバー?」
「いえ、エーテリアの横に描かれているのが僕です」
肖像画とジュラルドを並べて、見比べてみる。更に、見比べてみる。じっくり、見比べてみる。よーーーく、見比べてみる。
「い、いったい何が起こったんだ!? 迷宮では何が起こってもおかしくないというが、これは絶対にオカシイ!! というか、人族じゃなかったの!? というか、女だったの!?」
「そんなに、変わりました? 僕は、男性ですよ。肖像画でもそう見えるじゃありませんか。ほら、耳だって」
「みえねーよ!! それに、耳は潰れているだろう!!」
速攻で突っ込んだ。
「そうでしたね。モンスターとの戦闘で潰れてしまいました」
マジかよ…なら仕方がない。
「なんで、禿げてんだよ!!」
「戦闘中に髪が邪魔になるので脱毛しました」
そっか、なら仕方がない。
「じゃあ、この肉体的な変化は?」
「モンスターソウル吸収によるポテンシャルの上昇が原因です」
なるほど、ならば仕方がない。
「済まなかったジュラルド!! 一瞬でも疑ってしまった自分が情けない」
「いえいえ、よくある事です」
美少女と見間違う程の美少年が…数年でここまで進化を遂げるあたり、流石は神が作った迷宮である。
まじ、恐ろしい。
◆
『ネームレス』に到着し、『モロド樹海』に挑むべく準備を進めるアインスをリーダーに据える最上級生パーティーが今後の方針を詰めていた。最上級生でも特に優秀な者達の集まりで前衛2後衛3の構成である。
「我々の実力は、この場にいる現役の冒険者達に劣るとは思えない。しかし、初めての『モロド樹海』だ。最低限、サポーター兼道案内役は雇っておくべきだと思うのだが、どうかな?」
「賛成ですわ。それで、ギルドに依頼を出します?」
アインスのパーティーにおける後衛を務める『水』の魔法を使うコミット・ハーネット・アイハザードが意見した。エルフとのクォーターであり、スレンダーな体格をしたポニーテイルの美少女である。以前に、レイアによって救出されたミーティシア・レイセン・アイハザードの妹である。
「それが一番だが、他のパーティーも同じ考えみたいだな。今から依頼したんじゃ、いつ引き受けてくれる冒険者が現れるか分からん。だから、直接交渉するぞ」
「えっ!? そんな事をしていいの?」
言っておくが、当然ルール違反である。ギルドが中間マージンを搾取できない為、間違いなく違法行為である。
「問題ないさ。ちょうど、あそこに暇そうにしている冒険者が三人いるだろう? オリハルコン製の大剣を担いでいる女と魔力を高めるピュアミスリル製の装飾品を付けているガタイのいい男は間違いなく高ランク冒険者だ。だが、その二人と一緒にいる白髪頭は、サポーターと見て間違いない」
なかなか、洞察力を持つアインスである。レイアは、年齢的にはかなり若い。それこそ、最上級生と大差がない程である。しかも、オリハルコン製などの目立つ一級品装備を付けていない事と戦闘力が低そうな雰囲気からそう結論づけたのだ。更に、そんな若造が、高ランク冒険者と一緒にいる事から導き出された答えが…『優秀なサポーター』であるという回答だ。
「なるほど…高ランク冒険者のサポーターなら色々と勉強になりそうね。賛成だわ」
見た目で人を判断してはいけませんと、冒険者育成機関では教えてはいなかった。仮に、教えていたとしても無駄であっただろう。
◇
同ランク同士、美味しく食事を楽しんでいたのだが…無粋な邪魔が入ってきた。自信の満ちた目をした美少年、美少女の集団だ。
「冒険者育成機関の者でアインスといいます。是非、貴方に依頼したい事があるのだが、よろしいかな?」
「私に依頼? 新人みたいだから言っておく…ギルドを通せアホども」
新人という事で非礼を見て見ぬふりをしてあげる。
ギルドを通さずに依頼などもっての外だ。そんな事をしたらマーガレット嬢によって亡き者にされるぞ…お前らがな!! と優しく先輩である私が忠告してあげた。王族ですらギルド経由で依頼をする世の中だぞ。
「あ、アホですと…この」
「抑えてアインス!! 」
何やら図星を突かれて、気に障ったようだ。こちらの先輩的指導に何か問題があったのだろうかと、ジュラルドとエーテリアを見たが…どうやら私が正しいようだ。
それにしても、クォーターのエルフか…なにやら最近、縁があるな。おまけに、どことなく顔つきが迷宮より救出した女性に似ている。
「ゴホン。失礼、なにやら不快な発言が聞こえましたが、気のせいという事にしておきます。こちらの依頼を受けるか受けないかは、これを見てからにして欲しい」
アインスと名乗る新人が、テーブルの上に100万セルを積んだ。これが何を意味しているか、エーテリア、ジュラルドは理解できないようであった…しかし、私は理解した。
「なるほど、そういう事か。新人なのによく分かっているじゃないか」
「ならば、話が早い!! 」
これは、迷惑料兼指導料兼口止め料という事で間違いない。しかも、素直に謝りづらいので「こちらの依頼を…」とかツンデレ風に言ったのだろう。
ここまで気が利く新人であったとは、この私ですら見抜けなかった。こいつは、将来有望である。そして、懐に金を収めた。
「ほら、さっさと受付に行って依頼を出してこい。今回は、コレに免じて見なかった事にしておいてやる」
そのやり取りで、ジュラルドもエーテリアも納得がいったようだ。
「あぁ、そういう事でしたか。最近の冒険者育成期間は、そこまで熱心な教育をしているんですね。僕の時代には無かった指導です」
「気がきくじゃねーか。おぃおぃ、独り占めはなしだろう。仲良く三等分だろう?」
「仕方ない。端数はもらうぞ」
まぁ、ランクB冒険者相手への謝罪料としては不足しているが、ここは先輩として後輩の顔を立ててやろうと満場一致したのだ。
他の者達では、真似ることすら難しい紳士淑女ならではの行為である。
しかし、そんな我々の心遣いも知らず…新人パーティーは、なにやらお怒りの御様子。全くもって意味不明である。
「おぃ!! なに当然の如く、100万セルもくすねてんだよ!! さっさと、金返せよ!! 高ランク冒険者のサポーターだからっていい気になるなよ 『自称冒険者』の白髪頭!! 俺等の両親に言えば、お前等なんて明日には迷宮の肥料にしてやれるんだからな」
「早く、お金を返しなさい。そうすれば、お父様に報告しないであげるわ。お父様は、ギルドの上層部と非常に仲がよろしくてよ」
この100万セル…アインス達が冒険者育成機関にいる間に仲間と一緒に『試される大地』で汗水流して貯めた大切なお金だったのである。その金を、訳も分からず奪われたとなっては、激怒するのも無理はない…だが、レイア達には全くあずかり知らぬ事である。
「マジかよ…エーテリア、ジュラルド。俺等、明日には迷宮の肥料になるんだってさ」
冒険者にとって、売られた喧嘩は買うのが常識である。
そして、ギルド本部にいた新人達を除く冒険者やギルド職員の開いた口が塞がらない出来事であった。
レイア達が迷宮の肥料になったら、どうしよう><
やばいよ、貴族の子供達。こわいよ

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