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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第六話:パワーレベリング(3)

◆一つ目:クラフト


 駄目だ…完全に気になって碌に眠りにもつけなかった。

 という事で、ジュラルドから例の話を聞いてしまったので仕方なく、元王族のパワーレベリングパーティーを探しに『モロド樹海』の迷宮を上へ上へと登っていった。折角、下層まで潜って、これからが狩りの時間になる矢先にこれだ…殆ど何もせずに、トランスポートまで戻る事になった。律儀にこんなどうでもいい事を確認に来る自分自身が嫌になる。

「いいや、前向きに考えるんだ…この世界においてフラグと言うものが存在しない事が立証できる可能性があるのだ。いいじゃないか、それだけで十分の成果だ」

 パワーレベリングパーティーがどの程度の実力者で構成されているかは知らないので、念の為、30層くらいからは、蟲達を広範囲に展開させて探索を掛けつつ移動をした。

 上へ上へと階層を登ってきて思ったが…やはり、下層で狩りを行っている冒険者は少ない。本当に、ここまで登る間に見つけたパーティーは、片手で足りるくらいだ。

 そして、見つけてしまった。

24層でパワーレベリングをしている御一行を見つけてしまったのだ。このまま、見つからなければ、もうギルドに帰ったのか、全滅したのかで終わらせる予定であったが…生きて目の前で狩りをしているのだ。

 私の代わりに生贄になったパーティーからは決して見えない位置で遠くから監視をしてみた。前衛3名、後衛2名、サポーター1名のよくある構成の一つだ。前衛にいる一際装備が立派な女性がアメリアだな。

 ハイオーク相手に、前衛が弱らせて魔法にて拘束…そして、アメリアが背後からメッタ刺しにする流れで稼いでいるみたいだ。見る限り、無理のない安全なパワーレベリングに思える。

「まぁ、唯一の問題は、ハイオーク一匹倒すのに時間をかけすぎという点だ。オーク系は群れる事は少ないが、死にかけた際に仲間を呼ぶ習性がある。その為、時間を掛けずに一気に殺すのが鉄則なのだがね。はぁ~完全にフラグ踏んだわ…これって、私が来なかったら何も起こらなかったとかないよね」

 パワーレベリングパーティーからでは、位置的に見えていないかもしれないが、私の位置からは、はっきり見える。ハイオークの断末魔の叫び声が周囲にいたハイオークを呼び寄せたのだ。見える範囲で5体。メンバーの実力は定かではないが…凌げるか微妙だな。身につけている装備を見る限り、平均してCランクくらいだろう。



「クラフトさん。やりましたわ。これで本日、10体目です!!」

 ハイオークの血が滴るオリハルコン製の直剣を嬉しそうに振るアメリアをみて和むパーティーメンバーであった。一時的とはいえ、王族の女性をパワーレベリングとは言えメンバーに迎える事は、パーティーが華やかになり気分的にいいものだ。

 しかも、王族からのご指名の依頼とあらば、多少無理な依頼であっても将来的な事を考えれば受けるのが得策だとメンバー全員が思っていた。こういう繋がりが大事である。

 尤も、マーガレット嬢の計らいで…アメリアが王族の姓を捨てて一般人に成り下がっている事は、パワーレベリングパーティーには知らされていない。もし、アメリアが元王族だと知っていれば、この依頼は恐らく受領しなかっただろう。

「お見事ですアメリア様。さぁ、どんどん行きましょう」

 運が回ってきたな。3か月前にランクBに昇格してからトントン拍子で進んでいる。王族とのコネクションも出来た。パーティーメンバーにも恵まれていたおかげで、装備も整い後数年でさらに上を目指せるだろう。それまでの間に『火』以外の魔法も鍛えておかねばいけないな。才能がないわけではないと言われたので、あとは鍛錬あるのみ。

 そろそろ、もう一つの仕事に入るか。マーガレット嬢からの依頼で、私の役目は戦闘以外にアメリアを褒めまくる事だ。豚も煽てりゃ木に登る。メンバーのやる気も当然必要だが、なによりアメリアの頑張りが一番大事である。故に、褒めちぎる。

「流石です!! この調子ならばすぐに私達と同じランクCですよ」

 他のメンバーもそれぞれ戦闘は別に役目を持っている。後衛で『土』と『風』の魔法を使いランクC冒険者サラ。彼女には、アメリアのメンタルケアが密かに依頼されている。慣れない環境に長時間滞在するのだ。同性が色々と面倒を見た方が好都合なのだ。

 このまま順調に行けば、予定通りの成果は達成できるだろう。ギルドでこの話を聞いたときは、冗談かと思ったが…やり方次第でランクCになれるとはね。

 ギルド受付嬢の入れ知恵だが、ランクCの定義は【迷宮の11~20層のモンスターを1対1で倒せる実力】である。よって、ランクB相当のモンスターをパーティーでもいいので弱らせてアメリアに殺させる。少しでも、多くソウルを吸収させる。それを日程いっぱい繰り返す事で無理やり成長を促す。そして、最終日に、11層に赴き…たまたま、他のパーティーと戦闘で疲弊した死にかけのモンスターと遭遇…これを一人で討伐させる。

 そうするとあら不思議…ギルドから正式にランクC認定が出るという事だ。間違いなく、1体1で11層モンスターを倒したのだから、文句が出るはずがない。出たとしても、ギルドの権力で握りつぶす気マンマンである。しかも、ランクB冒険者がその様子をしっかりと見届けるのだ。証人としては十分である。

 真面目に高ランクになった者が聞けば、頭を痛くするだろう。だが、これが現実。接待漬けのパーティーで碌な実力がついていないにもかかわらずランクC冒険者の誕生である。

 万が一、こんなランクCが自分のパーティーに居たらと思うと恐ろしい。無能な味方ほど恐ろしい敵は居ない。パーティー崩壊のきっかけになる事、間違いない。

「前方からハイオーク3体、右から1体、左から1体きます」

 サポーターの報告を聞き、方針を練る。ランクBのモンスター五体…対応できるかギリギリのラインである。ハイオーク…力は強いが動きは単調。故に、左右のハイオークを魔法で足止めしつつ、前方のハイオークから始末することにした。

「申し訳ありませんがアメリア様。下がっていてください」

 大人しく後方へとアメリアが下がった。

 命令は絶対だと、マーガレット嬢から強く指導を受けていたので大人しく引き下がった。マーガレット嬢の強い指導がなければ『わたしだって戦えるんです』といって無謀な特攻をしていた事は間違いない。



「なんだ、やっぱりフラグなんてなかった」

 パワーレベリングパーティーは思いのほか優秀で、ハイオーク五体を凌ぎ切った。相性もあるだろうが、魔法での足止めが効果的で各個撃破を行う事で事なきを得た。

 もう、これ以上見る必要もないだろと思い20層のトランスポートから一旦迷宮の外に帰る事にした。今回の稼ぎは、全くと言っていいほど無かったが、そういう時もあるという事で納得しておこう。

「だが、今回稼げなかったソウルを少し位、この階層で補充しても罰は当たらんだろう。そうだろ、モンスターども?」

 私の周囲を警戒している蟲達が襲いかからないギリギリの位置からこちらの様子を窺っているモンスター達に声をあげた。一人で迷宮をウロウロしている馬鹿とでも思っているだろうか、私の事を餌としか見ていない御様子。

 そんなモンスターが襲ってこないのは、自分より遥かに強い蟲達が私の周囲をウロウロと警戒しているからである。モンスター達は、蟲達が私を食った後の食い残しをいただこうと、今か今かと待っているのである。

「実力の違いも分からないとは…まぁ、所詮はモンスター。あまり人間を舐めるなよ」

 メキメキビキビキ

 身体構造が変化していく。『蟲』の魔法を使い、影に潜む蟲達の特性を身に宿しているのだ。頭から触覚が生え、筋肉は膨れ上がった。見た目には大きな変化はないが、中身はすでに人ではない。

 モンスターが私を襲ってきやすいように蟲達を下げた。

 その瞬間、待っていましたと言わんばかりに集まっていたモンスター達が一斉に牙をむいてきた。本来ならば生存本能から逃げても可笑しくないのだが…飢えているのかな。

「理解できないだろうが、キサマらに良いことを教えてやろう。蟻はな、自らの100倍近い体積の物を持ち上げる事が出来る程の力を有している。それが、人間に適用できればどのようになると思う」

 この階層における力自慢のハイオークの全力の攻撃を指二本で軽く止めた。そして、ヤクザキックを腹にブチかました。すると、見事に下半身が消し飛び、ハイオークが即死した。その様子をみてモンスター達は、ようやく理解した。力量が違い過ぎたがゆえに強さが理解できなかったのだと。

「実に脆い。おぃおぃ、危なくなったら脱兎のごとく逃げ出すのかよ。いいよ…鬼ごっこをしよう」

 蟻以外にも凶悪な特性を備え付けた私を前に24層如きのモンスターが太刀打ちできるはずもない。ランクBの冒険者であるこの私の腕力は、通常でもソウルの恩恵で常人を遥かに上回る。そこに『蟲』の魔法が加わる事で100倍以上強化されるのだ。脚力も同様である。

 皮膚も鋼鉄の武器程度では傷一つつけることは叶わないだろう。この魔法の唯一の欠点といえば、魔力消費が激しい…しかし、私が開発した美味しい副作用を持つ水のお陰で非常に長時間、この形態を取る事が可能になったのである。

 本来は、この形態に加えて、蟲達を展開し下層で暴れている。24層程度で使う力ではないがね。

 パワーレベリングパーティーには悪いが、殲滅戦を始めさせてもらおう。



 それから、約二週間後。

 いつもどおり、ギルドにきてマーガレット嬢からどうでもいい、報告がされた。

「アーノルドとアメリアが死んだ? そりゃ、突然だな。まぁ、冒険者だからよくあることだがね。親しい間柄でもないし、香典もいらんだろう」

「あら、意外と冷たいのね。理由は聞かないの?」

「………もしかして、以前に話があったアメリアの一件と関係があるのか?」

「ご明察~」

 どういうカラクリかは、知らないがランクCにアメリアがなった事は耳にした。急造したランクC冒険者など糞の役にも立たない。どうせ、女を守るために死んだとかオチに決まっている。

 いや、待てよ…まさか!!

「マーガレット嬢、貴様はやはり死神だな」

「何をおっしゃいますか、こんな美女を捕まえて死神だなんて。いやー、ギルドと関係ない場所で死んでくれて本当に良かった。元とはいえ王族をギルドの依頼で死なせたとなっては印象が悪いですから」

 きっと、Cランクになったアメリアの実力を見る為にアメリアとアーノルドの二人で迷宮低層にて安全に狩りでもするように促したのだろう。ランクCが二人もいれば低層は、なんとかなる。

 しかも、人目を気にせずイチャイチャできるからね迷宮では!! むしろ、そういうお盛んな場面で襲われて死亡した可能性が本当に濃厚だと思う。

 加えて、アメリアはランクCだが中身はランクDも怪しい…そんなのが上層でマトモに狩りができるはずもない。故に、偶然…ギルドのあずかり知らぬ場所で事故が起こった。そういう事だ。

 ギルドの印象が悪くなるとか、それ以前に、私がマーガレット嬢に抱いている印象が既に限界いっぱい最悪なものなのだがね。

「まじ、女怖いわ…」

「何をおっしゃいますか、完全に事故じゃありませんか。その結果、たまたまギルドや私に被害が及ばなくなっただけの事です」

………
……


「だったら、私にそんな裏話聞かせるなよ!! 世の中、知っていい情報とダメな情報があるんだよ。今の情報は完全にダメな情報だろ」

「最初にパワーレベリングをお願いした時に真っ先に逃げたじゃありませんか。その仕返しですよ」

 何が『仕返しですよ』だ!! しかも、ですよの所で可愛くウインクしてやがって…まじ、死のウインクだよ。マーガレット嬢が男だったら、秒で始末しているよ…間違いなく。

「……で、いつまでここにいるんだ。さっさと持ち場に戻って仕事しろよ。一応ギルドの受付嬢だろう?」

「えぇ、ですからこうしてレイア様にピッタリのご依頼をですね…」

 当然、碌でもない依頼であることは間違いなかったので話を聞く前に脱兎のごとく、トランスポートから迷宮に帰っていった。

 ……あれ?帰っていったって!! おかしいだろう。なんで迷宮が家みたいになっているんだよと頭を悩ます事になった。
ふぅ、一段落した><

現在次の話のネタを考え中のため、一休み。
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