挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
5/137

第五話:パワーレベリング(2)



 無言の圧力が占める応接間…レイアが立ち去った事で場の空気は最悪である。

 本音を言えば、私自身もこの場から逃げたかった。王族…元王族とは言え、依頼内容が酷いの一言である。

 ランクEからランクCまでになれる冒険者は全体の一割程度だ。その間に死亡したり、引退したりと様々な理由で数が減っていく。ちなみにランクEからランクCまで、だいたい5~6年くらいの年月を要するのが普通である。

「ランクBというお話を聞いていたので、期待していたのですがハズレでしたね。申し訳ありませんが、他の方を斡旋していただけませんか?条件は同じで構いません」

 そもそも、レイアはランクBであるが、同ランクにおいて最強の一角である。20層以降のモンスターを1対1どころか、複数いても余裕で捌く事が可能な実力者なのだ。それで期待ハズレとか本当にどうしてくれよう。

 おまけに『条件は同じで構いません』などと冗談ですよねと聞き返したい。『蟲』の魔法によって、モンスターを拘束し、死ぬまでモンスターを殴らせる事で強制的にレベリングさせて貰えるように考えていた計画がパーである。

 そもそも、モンスターソウル吸収は、与えたダメージ総量に応じて変化するので人数が多いほど効率は低下する。故に、レイアへの依頼であった。

 それをこのアマは!! もうちょっと、考えて喋れよ…報酬を上乗せするとか、王族が所持している秘宝をとか美味しい話を小出しにして相手の気持ちを乗せるとか考えないのかと文句を言いたい。

「い、一応あたってみますね。ですが、先ほどの者程の人材は中々…」

「お任せします。期待していますね」

 昔は、王宮育ちは気苦労がなくて幸せで夢のようだなと思う時期が私にもありました。しかし、今この状況を見て断言できる!! 王宮での温室培養とか無いわ…市民に生まれて本当に良かったと。

 次なる生贄を選別すべく、部屋を退出してギルド本部にいる人材を吟味した。

「マーガレットさん。レイア様は、すでにトランスポートを利用して20層へ移動されておりました。20層のトランスポートにいるかと期待して、職員を向かわせましたが生憎と…」

「そう…トランスポートの移動代金は経費で落として構わないわ」

 後輩にレイアを追わせてみたが、やはり無駄足に終わったか。

 まずったな…依頼内容の概要は把握していたけど、あそこまで酷いとは。日当単位の計算では、報酬額は決して悪くないが。依頼内容と照らし合わせたら最低である。

「この際、仕方がない。……ランクBが一人いるパーティーがいるわね。あいつらを呼んでちょうだい」

 レイアとは異なり普通のランクBだ…20層以降のモンスターを1対1で倒せる実力者。尤も、20層以降なので20層のモンスターを倒しても、49層のモンスターを倒してもランクBである。故に、ランクCに毛の生えたようなランクBがいたり、ランクAに片足を突っ込んでいるランクBがいたり、同ランクでも実力は雲泥の差である事は珍しくない。

「分かりました」

「はぁ~、次はもっと上手に話を運ぶように私が主導で話を進めます。特に、恋人の為と言うのが不味いわよね。そこらへんを濁して大義名分に置き換えておきましょう。後、王族の姓を返上したというのもまずいわ」

「そうですね。では、あの者達はとりあえず別室で待機させておきますので。ご準備ができたら呼んでください」

「えぇ、さて…本気でやりますか」

 自らの美貌と美談を武器に死地へ冒険者を向かわせようとする悪女がここにいた。




 あの意味不明な元王族の依頼から逃げ出して早5日。

『モロド樹海』の39層にて広範囲に蟲を展開して、宝箱探索及び周囲の警戒をさせている。そして、その警戒網に引っかかる輩が2名。一直線に、私の方へ向かってくる。影から蟲達が溢れ出した。

「この気配…知っているな」

 前方より、大剣を担いだ人間の女といかにも魔法使いの装いをした身長2m近い男が歩いてきた。

 蟲達にはそのまま警戒を続けさせた。万が一に備えていつでも戦闘出来るようにと。

「あいかわらずアベコベな組み合わせだね。エーテリアとジュラルド」

 エーテリア…ランクBの冒険者。身の丈ほどもあろうオリハルコン製の大剣を担ぎ。『水』の魔法で身体能力を強化して相手をなぎ倒す事を得意としている。武器の扱いに関しては神がかっており、古今東西あらゆる武器を使いこなす。私が知る限り最高の使い手だ。サポーターとしても優秀で、食べ物などを自前で調達している。

 ジュラルド…ランクBの冒険者。『火』『水』『土』『風』の全ての魔法を扱う事ができる極めて強力な魔法使い。広範囲魔法は不得意だが、単体魔法の威力は目を見張るものがある。特別な属性を除けば、魔法に関して『神聖エルモア帝国』で最高の使い手で間違いない。身長が2mで筋骨隆々である為、よく前衛職と間違われる。サポーターとしても優秀で、食べ物などを自前で調達している。

 この二人、ペアで迷宮に挑む冒険者である。しかも、双方サポーターも兼任できる為、迷宮内部にかなり長時間滞在する事ができる。おまけに、この階層まで2人で来られるから、冒険者としての腕前も超一流。二人揃ってこられたら、私でも勝てないだろう。

「相変わらず警戒心が強いね。こちらには、戦闘の意思は無いって何度も言っているだろう。それにあんたとやり合うなんて本気で御免こうむるね」

 そうはいうが、オリハルコン製の大剣を担いだ超一流の冒険者と私が知る限り最高の魔法使いが揃って来たら、知り合いだとは言え警戒するには充分である。

「すまないレイア殿。この階層であなたの蟲を見つけたので、食料を売っていただこうかと」

「そういう事…悪いね。こっちはソロだからね、冒険者、モンスター問わず近づいてきたら警戒するのは当然さ。…で、食料が欲しいんだっけ? いいよ。レートはいつも通りで」

 一日分の水と食料で20万。しかも、下層において確実に食べられる食料が確保できるのだ、決して高くない額である。むしろ、水について嬉しい副作用もあり、魔法使いのジュラルドには大好評を得ている。

 二人に合計10日分の食料を売る事で200万も副収入を得る事に成功した。やはり、分かる人には、私の蟲達の良さが分かるのだ。そう、これほど有益な蟲達を毛嫌いする低層や中層あたりをウロウロしている冒険者の気が知れない。

「助かった 助かった。これで、まだしばらく狩れるな。じゃあ、この階層は、あんたが使っているから私らは他へ行くよ。縁があったらまた会おう」

「おう、またよろしくな。お互い、生きてればまた会えるだろう」

「では、またよろしくお願いします。あぁ、そうだそうだ…ここに来る途中の23層あたりでしたかな? 見慣れないパワーレベリングパーティーがおりましたが、あれがギルド本部で噂になっていた王族の方ですかね」

 あの依頼を受けるパーティーが存在したのか!! 信じられん!!

「へぇ、王族のパワーレベリングパーティーね。23層程度をパーティーで戦っているあたり、効率は期待できそうにないな」

「その通りですな。では、エーテリアが行ってしまうので、私もこれにて」

………
……


 あれ? 今の会話って完全にフラグじゃね? これで私が例のパーティーを助けに行かなければ全滅すると。

 いやいやいや!!

 そんな事、なんてあるはずないよね。フラグなんて迷信だ。そう、今の会話もたまたまジュラルドが気になったので私に教えてくれただけで……。

「やべ~、今の情報を聞いちゃったから、気になって仕方なくなってきたぞ」

 これは、今の会話がフラグで無い事を確証する為に現地に赴き陰ながら見守ってやる必要があるのではないか。待てよ待てよ…そもそも、そんな行動自体がフラグではないか。

 一体、どうすればいいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!
◆一つ目:マーガレット
cont_access.php?citi_cont_id=850036392&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ