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愛すべき『蟲』と迷宮での日常 作者:マスター
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第二話:未帰還者探索(2)

◆一つ目:マーガレット嬢


 大改変が終わったというのに、一向に帰ってこない冒険者に絶望した。これが、普通の冒険者パーティーなら気にかける事などないが、貴族のご令嬢の為にギルドが…主に私がメンバー斡旋したパーティーともなれば話は別だ。

 素性や素行に加えて、実力まで吟味し…ギルドの取り分が最大限になるように配慮したメンバー斡旋であった。それなのにこのザマ…現状を把握すべく、ギルド員の情報を纏めると状況が危機的である。予想通りとは言え頭が痛い。

 『ネームレス』ギルド本部に依頼を探しに来ている者達を確認した。

 ランクD~Cが殆ど、希にランクBがいる程度だ。ランクはE~Aまで存在する。

■ランクとは、ソロでの実力を示す指標である
ランクE:町付近のモンスターや迷宮入口までのモンスターを1対1で倒せる実力。
ランクD:迷宮の1~10層のモンスターを1対1で倒せる実力。
ランクC:迷宮の11~20層のモンスターを1対1で倒せる実力。
~才能の壁~
ランクB:迷宮の20層以降のモンスターを1対1で倒せる実力。
~人としての壁~
ランクA:ソロで迷宮最下層まで到達できる実力。

 尤も、迷宮のモンスターが単体でいる事など少ない。それに加えて、ソロで迷宮に潜るキチガイの事を考慮していない。あくまでも個人としての力量を示している。そもそも、ランクBとランクAで差が激しすぎる。

 本来であれば、パーティーで実力を示す指標が必要なのであるが、パーティーメンバーが可変する事も多く、パーティーランク制度については未だギルド内部でも賛否両論である。

「まずいわね。だれか、使えそう人いる?」

 同僚に、今回の依頼について達成可能な人材がいるか確認をした。期待半分、諦め半分である。

「現在、ギルド本部にいて実力的に可能な人が2名…但し、今回の条件を考慮するとレイア様が適任かと」

 レイア・アーネスト・ヴォルドー…アルビノと呼ばれる特殊体質で全身の色素が抜け落ちている。真紅の眼をしており、黙っていれば御伽話に出てくる王子様とも言える容姿である。そして現在は、弱冠18歳にしてランクBの冒険者であり、ランクAに最も近い冒険者の一人である。2年前に4大国の1つである『聖クライム教団』と呼ばれる宗教国家相手の戦争で殿を見事に務め多数の味方を救った。その褒賞で一代貴族になった者だ。その為、生粋の貴族ではなく…本職が冒険者の貴族である。地方に領地を貰ったとの事だが、人を雇って運営を回しているとの事だ。

 ランクBの冒険者がソロで迷宮下層を活動拠点にしているあたり、ランク制度の見直しを本気で検討して欲しいものよね。無論、規格外の存在も考慮してのランクを再検討すべきである事を上申しておこうかしら。

「……本当に他に誰もいない? 実力は、知っているけど…レイア様が低層で動くと苦情がギルド本部に寄せられるのよ。それに、レイア様に依頼すると足元見られる可能性が高いのよ」

「直接、見た事はありませんが…『蟲』の魔法でしたよね」

「えぇ、それだけじゃないけど。慣れないと気持ちいいモノじゃないわよ。仕方ないか…ちょっと呼んできてもらえる? 後は、こちらで話を付けてみるから」

 選択の余地はない。今この時も、生存の可能性が低下しているのは間違いない。

 同僚がレイアを呼んでくる間に身だしなみを整え香水をつけ直した。胸元がよく見えるように準備万端。これで、素直に落とせようなら苦労はないよね。

「一ヶ月ぶりかな。何やら、元気がなさそうだね。マーガレット嬢」

 私より頭一つ分くらい背が高い優男…レイア・アーネスト・ヴォルドーが私の気苦労も知らずに、なに食わぬ顔で挨拶をしてきた。

「そんな事はございませんよ。まぁ、おかけくださいレイア様」

 レイアが椅子に座ると同時に、同僚が紅茶を入れてきてくれた。特別な時にしか飲まない上等な物だ。

「ありがたくいただこう。それで、今回はどんな厄介事を?」

「厄介事などトンデモないです。ただ、レイア様の実力を見込んでお願いがありまして」

 今までの事もあり、この流れでどういう展開になるかは両者とも見え見えであった。レイアほど未帰還者探索に優れた能力を持つ者を私は知らない。なんせ、人海戦術という面において他の冒険者の追随を許さない。

「展開が読めるが…一応、聞いておこう」

「実は、冒険者の一行が『モロド樹海』に入ったまま戻ってきておりません。是非、お力をお借りしたいのです。無論、報酬の方もそれなりにご用意いたします」

 紅茶を飲みつつ、呆れたような顔をしている。

「断る。一ヶ月ぶりに迷宮の外に戻ってきたんだ。久しぶりに休む予定だ」

 一ヶ月…並みの冒険者が滞在できる期間ではない。食料的問題は当然だが、なにより死と隣り合わせの緊張感を長時間継続させる事は精神衛生上よろしくないのである。

 流石は、人外に一歩踏み入れているだけの事はあると口には出さなかったが誰しもが思った。

「どうしてもお受けして頂けませんか」

 胸元がよく見えるように、上目遣いでレイアに頼み込んだ。
次話も準備できているので、見直しが完了次第投稿予定。
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