国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選んだ英国で、キャメロン首相の後任を選ぶ与党保守党の党首選が始まった。

 「首相になりたい野心」から離脱を唱えたと批判されたジョンソン前ロンドン市長は出馬を断念した。離脱派のゴブ司法相と残留派のメイ内相を軸とした争いになりそうだ。

 「反移民」や「反エリート」が声高に叫ばれた国民投票で、英国社会には分断の深い爪痕が残された。投票後、ポーランド人など移民社会への嫌がらせが増えているのも心配だ。

 英国が直面する難局のかじ取りを担う指導者選びだ。「なぜ人々は不満なのか」という問題の本質にこそ目を向け、腰を据えた論戦をしてもらいたい。

 キャメロン首相はEU首脳会議で「離脱派が勝ったのはEUが移民対策を怠ったからだ」と弁解したが、それは責任転嫁がすぎる。英国自身の長期的な政策が今回の背景にあることを、謙虚に省みる必要がある。

 投票では、かつて製造業が栄えた地方の多くで「離脱」が多数を占めた。その地方に冷たかったのは、サッチャー首相以来の保守党政権だった。

 地場産業の競争力強化を怠り、金融偏重の産業構造へとかじを切った。その結果、都市部は経済のグローバル化で潤う半面、地方は取り残された。

 競争重視の政策などで広がった格差や負担増の問題に踏み込まず、EUや移民になすりつけてきた政治家らの責任は重い。

 一方、グローバル化のひずみにきちんと向き合ってこなかった点では、ほかのEU加盟国も英国と「同罪」だ。移民排斥やEU離脱を叫ぶ政党は、各国で支持を広げている。

 同じ問題を抱える英国とEUとの駆け引きは、平行線をたどっている。英国は「人の移動の自由」は認めないままEU単一市場への参加を求めていくとみられ、EUはそうした「いいとこ取り」を認めない方針だ。EU側には「離脱ドミノ」が広がりかねないとの懸念がある。

 だが、英国とEUが対立を深める事態は防がねばならない。英国が離脱しても、民主主義と市場経済の価値観を共有する同士、今後も国際社会の安定に向けた協力が欠かせない。

 英国与党は、新たな首相選びを再び扇動的な政治対決にしてはならない。EUも英国の国内論議の行方を慎重に見守り、最終的に英国と新たな互恵関係を築くよう全力を傾けてほしい。

 英国とEU双方がまず冷静な思慮を取り戻すことが、日本を含む国際社会の期待でもある。