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欧州連合 統合の正統性取り戻せ

 英国の国民投票で、欧州連合(EU)は初めて加盟国の離脱という試練に直面した。平和と発展のための統合という歴史的使命を頓挫させないために、EUを批判する声にも耳を傾け、負の連鎖を食い止めなければならない。

     EU各国首脳は、英国が欧州単一市場にとどまって経済的恩恵にあずかりたいのであれば、人の移動の自由という原則も受け入れるよう求めた。フランスやオランダでもEU離脱志向の党派が勢いを増す中で、ドミノ現象を阻止するために強い姿勢を見せたことは理解できる。

     各国首脳はまた、多くの市民がEUの現状に不満を持っていることを認め、改革への取り組みを始めることも確認した。このための首脳会議を9月に開くことでも合意した。

     欧州統合を市民が積極的に支持しなくなったのはなぜか。EUと加盟各国政府はしっかり検証し、対策を立てる必要があるだろう。

     単一市場の経済的恩恵を受けるには、製品規格や労働条件などの統一は不可欠だ。しかし、恩恵を感じられない市民には、国家主権を超えた目に見えないEU官僚機構の押しつけとしか映らない。

     反発を和らげる一つの方法は、格差を是正する社会政策などで市民がEUの恩恵を実感できるようにすることだ。しかし、統合の価値に同意を得ていく民主的な政治プロセスがおざなりになり、正統性を欠いたまま統合が進められてきた矛盾を解消する努力こそが必要ではないか。

     移民の問題も同様だ。グローバル化の恩恵から取り残された英国民はEUに後から加盟した旧東欧諸国からの移民が雇用を奪い、福祉をむさぼっていると感じ、離脱を選んだ。不安をあおって移民排斥を求めるポピュリズム(大衆迎合)勢力は英国以外の欧州各国でも台頭している。

     中東やアフリカからの新たな難民や移民の急増は、こうした勢力を勢いづけている。難民の受け入れ体制作りはEUにとって急務だが、旧東欧諸国が受け入れ人数の割り当てを拒否するなど調整は難航している。

     だが各国がばらばらでは世界の中で欧州の地位は低下するばかりだ。戦争を重ねた歴史に終止符を打つという欧州統合の原点に立ち返り、合意を目指す努力が必要だ。各国の民意を反映し、足並みに時差が生じることもやむを得ないだろう。

     その中でドイツとフランスには一層の指導力が求められる。だが、突出して他国の反発を呼ばない目配りも欠かせない。旧東欧諸国にも、利益を享受するだけではなく、一定の責任を負う覚悟を求めたい。今月からEU議長国になった旧東欧のスロバキアにも重責を果たしてほしい。

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