『星を見る人』
ヤマシタ アキヲ
月明かりの美しい丘の上で、あるひとりの星を見る人に出会った。
「こんばんは。」
と、ぼくは、あいさつした。
「こんばんは。」
と、星を見る人はこたえてくれた。
「となりに座ってもいいですか。」
と、ぼくは、たずねた。
「どうぞ。」
と、星を見る人はこたえてくれた。
「何かお悩みでもあるのですか。」
と、星を見る人は、ぼくに聞いた。
「はい。ぼくは、勉強がきらいなのです。でも、お金持ちになるためには、たくさん勉強しなければいけないと、みんなが言うのです。」
「きみはお金持ちになりたいですか。」
と、星を見る人はたずねた。
「はい。ぼくは、お金持ちになりたいです。」
と、ぼくは、こたえた。
「どうして、お金持ちになりたいのですか。」
と、星を見る人はたずねた。
「良い将来を過ごすことができます。老後にたくさんお金を持っていれば、自由に過ごすのかできます。」
「では、きみの若い今の時間と老後の時間の価値は同じですか。
よい老後を過ごすために、あなたは若い時間をきらいなことに交換するのですね。
ところで、好きなことはありますか。」
と、星を見る人は、ぼくの顔をみてたずねてきた。
「ぼくは、本を読んで、文を書くことが大好きです。
けれど、たくさん勉強するためには、好きな本を読む時間はありません。
きらいな本をたくさん読まなければいけません。」
と、ぼくはこたえた。
「きみは、自分のやりたいことよりも、お金持ちになるためのことを、することが好きなのですね。」
と、星を見る人は言った。
だんだんと夜空に雲がひろがってくる。
煌々と照らしていた月も、すっかり雲に隠れてしまった。