【ブリュッセル=森本学】英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めてから、1日で1週間。想定外の離脱派の勝利で世界が混乱するなか、英国はいかに有利な条件で交渉に臨める環境を整えるか、EUは域内の動揺をどう抑えるかを重視し、駆け引きを繰り広げた。英離脱派が抱く通商や移民政策での「いいとこ取り」の思惑にEUが待ったをかける構図だった。
第1幕は、離脱交渉入りの時期を巡るあつれきだった。キャメロン英首相は6月23日の国民投票の前、「いかなる結果でも民意を実行に移す」と強調。離脱派が勝てば、すぐに離脱交渉を始める姿勢をみせていた。
EU基本条約は離脱手続きについて、離脱の通告後に交渉が始まる段取りを明記している。ところが離脱派が勝利すると、キャメロン首相は交渉を後任首相に任せるとして辞任を表明。離脱手続きが不透明となった。
離脱派を率いたジョンソン前ロンドン首相は「急ぐ必要はない」と言い放った。あいまいな状態が長引けば、経済に悪影響が広がり、EU内の「反EU派」が勢いづく。焦ったEUから英に「即時通告」を求める声が上がったが、英国は混乱を極めていた。結局、EUが選んだ妥協案は、英国に早期交渉入りを迫りつつ、実際には新首相が決まる9月以降まで「待つ」というものだった。
第2幕は「事前交渉」を巡る攻防だった。英離脱派は投票の約1週間前に公表した工程表で、EUとの間で「正式交渉入り前の非公式協議」が期待できるとうたっていた。水面下の事前協議でより有利な条件を勝ち取ってから、正式な交渉に臨もうという思惑だった。
思わぬ離脱派の勝利で、英国内でもEUが事前交渉に応じるかどうかに注目が集まっていた。これに対し、EU側は記者会見などで「離脱通告なしに交渉せず」という原則を繰り返した。
それでも英国内では離脱派からの事前交渉を期待する声が収まらない。メルケル独首相は27日、ベルリンでのフランス、イタリアとの3カ国首脳会談後の記者会見で、事前交渉には応じないと改めて否定した。その後、ユンケル欧州委員長も「事前交渉には応じない」とだめ押しした。
離脱後に英・EU間の通商などの関係をどう築くかが3つ目の争点だった。英離脱派には経済への打撃を避けるため、離脱した後も関税撤廃などEUの単一市場の恩恵を受けたいとの願望があった。一方、EU側からすれば、英国に甘い顔をみせれば域内の結束が一段と揺らぎかねない。
「(EUの)単一市場へ参加するには、移動の自由の原則を受け入れる必要がある」。29日、英国を除くEU27カ国の首脳が開いた非公式会合。終了後の記者会見で、EUのトゥスク大統領は「単一市場に『アラカルト』はない」と言明した。
単一市場の恩恵を受けることと、人の移動の自由を保障することは「セットメニュー」という意味だ。離脱派の思惑をはっきりと突き放し、英国との交渉に厳しく臨む姿勢を崩さなかった。
前哨戦の1週間で、英離脱派が思い描いていた「いいとこ取り」「特別扱い」の思惑は否定されつつある。離脱派のリーダー、ジョンソン氏は30日、キャメロン首相の後任を選ぶ与党・保守党の党首選への出馬見送りを表明した。混迷が続く。