視点・2016参院選 TPPと農業 守りだけでは守れない=論説副委員長・大高和雄
毎日新聞
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の承認案と関連法案の審議は、参院選後の臨時国会に持ち越された。
賛否を巡る各党の立場は分かれる。経済連携がもたらす利益と、国内農業に与える影響とをはかりにかけているようだ。
しかし高い輸入障壁で守るだけでは農業の先細りは止められない。各党はTPPと両立する農業の再生策を競ってほしい。
TPPを支持しているのは自民、公明両党やおおさか維新の会などだ。民進党は「今回の合意には反対」とし、共産、社民党などはTPPそのものに反対している。
少子高齢化で国内市場拡大の余地が乏しい日本は、成長余力の大きいアジア太平洋地域を市場として取り込みたい。TPPはその地域での貿易・投資を高いレベルで自由化する枠組みであり、メリットは大きい。
それでも反対論が根強いのは政府の説明が不十分なこともあり、国民生活への影響が測りきれないからだろう。とりわけ農業への打撃が心配されている。
農業は、これまでの自由貿易協定でも重点的に保護されてきた。しかし、衰退は止まらない。担い手は高齢化の一途で平均年齢は67歳に達した。農業生産額は、8・4兆円弱と30年間で3割近く減った。食料自給率(カロリーベース)は4割足らずの低空飛行が続く。
農業の構造改革は待ったなしだ。規模拡大などによる効率化で競争力を高めたり、創意工夫で付加価値の高い農産品を生産したりする農家や農業法人を育てていかなければならない。
しかし、各党の公約には農家の保護策が並ぶ。中でもコメ農家への支援が厚い。戸数が圧倒的に多い上に、兼業・零細経営の比率が高いからだ。
自民は東北ブロック限定の公約を初めて作り、飼料用米に対する支援の「恒久化」を盛り込んだ。飼料用の価格は主食用の1割程度だが、補助金を上積みして生産者に主食用並みの収入を確保させるという制度だ。
政府は2018年度に生産調整(減反)をやめる方針だが、飼料用への「転作」が進めば主食用の生産量は減る。その結果、高い価格が維持されるのでは減反と変わらない。
民進や共産、社民などは減反に参加する農家に補助金を直接支払う戸別所得補償の法制化を訴えている。いずれの政策でも競争原理は働かず、農業の再生はおぼつかない。
TPPの時代に農業の競争力を高め、食料自給率を上げるには何が必要か。選挙で問いたいのは、そうした攻めの戦略だ。