英国の針路 離脱派は柔軟に修正を
欧州連合(EU)が初めて英国抜きの首脳会議を開いた。国民投票でEU離脱を決めた英国に対する基本方針を確認するためだ。移民は受け入れないが、EUの自由経済圏には参加する、といった「いいとこ取り」は認めない厳格さで結束した。
ボールは英国のコートに投げ返された形だ。その英国では辞意を表明したキャメロン首相の後継者を決める保守党党首選が始まったが、有力候補と目されていたボリス・ジョンソン前ロンドン市長が、立候補見送りを表明した。
離脱派の象徴的存在だったジョンソン氏の不出馬は、英国のEU離脱そのものに影響を与える可能性があり注目したい。
英国を除くEU27カ国の首脳が提示した方針はこうだ。単一市場がもたらす「人、モノ、カネ、サービス」の域内の自由な行き来はあくまでセットで、人の自由移動だけ除外するご都合主義は許されない、ということである。
初の離脱手続きを経験するEUだ。次なる離脱を誘発しないためにも、そう簡単に譲歩はできない。
だが、EU側の主張は英国の離脱派が国民投票前に描いてみせた姿とかけ離れている。EUからついに離脱できたと思ったら、移民の受け入れは今と変わらず、しかもEUのさまざまな意思決定には参加できないことになるのだ。
ではEU側の条件を拒否すればどうなるか。隣接する巨大市場のうまみを享受できず、英経済は国際金融センターとしての地位低下も含め、活力を失いかねない。
離脱派は現実を直視し、英国民のために路線を修正する時ではないか。国民投票で離脱票が過半を占めた事実は重いが、離脱派が示した英国の実現が困難なことが明らかになってきたのだ。国民投票の再実施など、離脱回避を求める声が離脱を支持した人の中にも少なくない。
ジョンソン氏の不出馬は、EU残留支持で同じく有力候補のテリーザ・メイ内相に有利に働きそうだ。同氏、そして、急きょジョンソン氏に代わり立候補を表明した離脱派の有力者、マイケル・ゴーブ司法相にも、EU側と合意可能な海図の作製に全力を尽くすよう求めたい。
英国にとって明るい材料は、EU側が、新首相が決まるまでの2カ月あまりを事実上、猶予したことだ。ひとたび離脱行程に入れば、逆戻りできなくなる。EUの中にも本音では、離脱以外の道が浮上することを期待する思いがあるのではないか。
大混乱を招いたのである。英国の指導層には、この猶予期間を最大限生かし、傷を浅くする策を見いだしてもらいたい。