滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」：知っているようで知らないダニの生態――本当に効果的な対策とは？ (1/3)

「ジメジメとした梅雨時は布団にダニが繁殖する」など、ダニ対策についての記事や情報番組などを多く目にするこの時期。しかし、われわれはダニについて意外と知らない。今回は長年ダニを研究している環境アレルゲン info and care代表の白井秀治さんにお話を伺った。

　「ジメジメとした梅雨時は布団にダニが繁殖する」とか、「ダニ対策には布団掃除機や布団乾燥機が有効だ」など、一般的にダニ対策についての記事や情報番組などを多く目にするこの時期。とはいえ、われわれはダニについて意外と知らないのではないだろうか。敵のことを知らずに有効な対策はとれないだろう。というわけで、今回は長年ダニを研究している環境アレルゲン info and care代表の白井秀治さんにお話を伺った。

環境アレルゲン info and care株式会社、代表の白井秀治さん（日本アレルギー学会会員、日本皮膚科学会会員、日本ダニ学会会員）

ーーダニについてぼんやりと“イヤなもの”というイメージはありますが、実際に肉眼ではその存在をほとんど確認することはできません。そもそもダニはどのような生態を持っているのか、まずはそのあたりから教えてください。

白井氏：ダニは家の中にいるイメージですが、それだけではありません。例えば外から土を拾ってきて、その中を調べるとダニがたくさんいます。日本の平均的な家では、通常10〜20種類のダニが見つかりますが、別に珍しいことではありません。その中で、例えば布団掃除などで対策しなければならないダニは一部分で、大半のダニは関係ありません。

　アレルギーを発症する原因になるのは「チリダニ」という種類ですが、これは日本だけでなく、アメリカやヨーロッパにも存在します。ダニが発育する温度や湿度といった条件が整った場所であれば、どこでも繁殖します。だから、珍しいものではなく、“いて当たり前”ぐらいの存在だと思ってください。

ーー家庭内のダニ対策はチリダニが相手ということですね。

白井氏：そうです。特にアレルギーが発症するかしないかについては、幼少時にどれだけチリダニの死骸やフンなどを吸い込んでしまったかが重要な判断要素になります。もちろんそれだけではありません。人の住環境も変わってきて、食生活も化学物質も含めた添加物をどれだけ摂取したか、体がそういったアレルギーに対して、どれだけ敏感になりやすい体質になったかなど、さまざまな原因が考えられます。一概にアレルギーの原因がすべてチリダニと特定するのは難しいでしょう。

　この日本には昔からダニはいました。例えば江戸時代には確実にチリダニがいたはずですが、当時はダニアレルギー症状などという言葉は存在しませんでした。医療が発達し、検査技術や判断基準が確立されたことで、チリダニが原因と確定できる証拠が見つけられるようになっただけです。

ーーそもそもチリダニって寿命はどのぐらいなんですか？

白井氏：チリダニが卵から成虫になるまでに、だいたい3〜4週間といわれています。成虫になってから死ぬまでは、さまざまな説がありますけれども、一般的に2カ月から3カ月という説が有力です。また、通常は春から夏に生まれ、季節が変わって寒くなれば死にます。冬を越すことはできません。

ーー1年のライフサイクルがあるわけですね。でも最近は季節を問わず、話題になっているように思います。

白井氏：はい、昔の日本の家というのは、木造の建物を障子や襖で仕切っていただけですから、当然冬は寒く、空気も乾燥していました。そこでダニは冬になるとほぼ死んでしまいます。しかし、現代の住宅は違いますよね。高気密、高断熱になり、冬でも室温が20°C以下になかなか下がりません。条件によっては死なずに年を越すチリダニもいるわけです。

　しかも、冬は加湿器も使いますから湿度も50％以下に下がらないことも多い。こうなりますと、チリダニにとっては“最高の住環境”が自然と作られているのと一緒です。かつては冬にすべてのチリダニが死に、翌年も同程度のチリダニが繁殖してまた死ぬというサイクルでしたが、現代は死なないままチリダニの多数が越年し、さらに新たなチリダニが生まれて、どんどん増えていくということが起こりやすいわけです。

ーー減りにくいということは、増えやすい、ということですね

季節によるダニの数。1月でも生きているダニがいることが分かる　吉川肇（発表時：東京都立衛生研究所医動物在席）　家庭内生息性ダニ類の生態および防除に関する研究より

白井氏：はい。例えばチリダニが100匹越冬したとします。春にさらに100匹が、例えばそれが夏には1万匹にまで繁殖するということも十分考えられるわけです。昔は冬でリセットされていたのに、今はその1万匹が、さらに翌年まで生き残る可能性もあります。

　チリダニの数をグラフに表すと分かりやすいのですが、昔は春から夏に上昇し、秋から冬にかけてストンとゼロにまで落ちていました。それが最近では、減るには減るのですが、グラフの落ち方がなだらかになったといわれています。

ーー怖いですね。ダニが家の中にどのくらい生息しているのか、どのように調べるのですか？

白井氏：近年はチリダニの数を数えるのではなく、フンや死骸などのタンパク質の量を測る方法に変わっています。

ーーそれはどうしてですか？

白井氏：主な理由は2点あります。1つめは、喘息や鼻炎の症状を引き起こすのが生きているダニを吸うことではなく、フンや死骸などの小さなホコリが舞い上がり、呼吸器に入り込むことで発症するといわれているからです。

　それらは大きな物でもスギ花粉程度のサイズですが、生きているチリダニに対し、フンだけで2倍〜3倍はあるといわれています。大体は鼻から入っても鼻毛に引っかかるのですが、小さなもの、フンみたいに小さくなったり、バラバラになった死骸などは、鼻毛などに引っかからないまま、肺につながる気管支まで入ってしまうことがあるんです。

ーー気管支まで入り込むとどうなりますか？

白井氏：当然、その量が増えるほどに喘息などが発症する可能性が高まります。ですから、生きてるチリダニよりもフンを数えようというように測定方法が変わったわけです。

ーーなるほど。

白井氏：とはいえ、実際のところフンを1個、2個と数えることはできないので、フンのタンパク質の量を免疫学的な方法を使って測定する方法が開発されました。これは日本だけでなく、アメリカもヨーロッパも同じです。

ーーでも、それらフンや死骸を増やさないためにも、成虫のうちにそれらを殺してしまうという対処法は大切ですよね。

白井氏：そうですね。繁殖によってリスクが高まることを考えれば、ふとん乾燥機などでチリダニを殺し、その後でフンや死骸を放置せずにふとん掃除機でケアする、この組み合わせで対処するのは非常に理にかなっているやり方だと思いますね。