2016-06-30
■2016年6月に見た映画
今年も半分おわり。上半期のベスト10を発表するイベントに呼ばれているので、何かなければ出ると思います。興味がある人は是非。
7月10日(日) 16:00〜21:00
場所:高円寺「薬酒バー」(http://yakusyubarkoenji.com/)
ホスピタリティ王と呼ばれる店主がきりもりするお店なので、お一人さまでも楽しいですよ。
『デッドプール』
マーベル・コミック世界の中でも異端児キャラ“デッドプール”が『X-メン』シリーズの20世紀フォックス組から単独映画デビュー。R15指定ながら公開週末興行収入トップを飾るヒットである。実はコレ当然の話で、絨毯爆撃的な広告CM投下に公開を水曜の6月1日映画の日にずらし、IMAXに4DX/MX4Dにデカめなキャパの通常上映(字幕と吹き替え)で、シネコンでは2〜3スクリーンでの上映。見ようと思って映画館に来た人が全員見れる状況。いわゆる「ブロック・バスター」体制での公開なのでヒットしなかったら逆にヤバかった。とはいえ、軽いノリでジャンジャン人が死ぬ展開はやはり楽しいし、このヒットが及ぼす後発のバイオレント作への(良い)影響はあるだろう。洋画のバイオレンス故のR15でも大ヒットは可能なんだよ! ソニピク!
『スノーホワイト 氷の王国』
前作でやっつけられた悪い魔女には妹がいて、氷を操る魔力で白雪姫の国の隣国をほぼ制圧していた! という『アナ雪』人気乗っかり企画。前作に続く「強い女性の戦い」というジェンダー・エクスプロイテーション的な香具師根性も解りやすく浅はか。ジェンダー対称性のバランスを一人でとりまくるクリス・ヘムズワースの色男感はもはや「ちびまる子ちゃん」の花輪くんじみた笑いを誘う。ヘイ・ベイベー!
『カルテル・ランド』
メキシコ、麻薬カルテルに支配された地域で、反旗の狼煙を上げた市民団体を追っていくドキュメンタリー。組織が小さい頃には高い志と理想が団体全体に共有されていたが、大きくなるにつれ細やかな判断は出来なくなり、単なる暴力集団へと変貌してしまう。どう考えてもヤバい事をしている現場(カルテルメンバーの車と、似た車に乗っていただけの普通の家族を混同し、旦那を拉致して拷問にかける)すら「正しいことしとるんわワシらじゃい!」と胸を張って映させている。
『雨女』
『呪怨』シリーズ生みの親、清水崇監督による4DX専用の35分の短編。同じコンセプトで先に白石晃士監督の『ボクソール・ライド・ショー』があるのはイタイところだろう。短い時間に巧妙な物語設定を織り込んだ脚本は面白いが、どうしても相対的に見てしまう。この場合、オバケ屋敷のライド・ショーに徹した白石作品に軍配があがる。グラグラ揺れたり水がバシャバシャ出せるなら、物語もだが、いかにギミックを盛り込めるかにも注力して欲しい。タイトル『雨女』なのに『ボクソール・ライド・ショー』より濡れなかったし。匂い効果、スモーク、フラッシュが使われなかったのもモッタイナイ。
『64(ロクヨン)前篇』 『64(ロクヨン)後篇』
ピンク映画四天王の瀬々敬久監督作品。スター俳優総出演の大作で、商業的な成功をした上に、大変面白い。つまり、荒井晴彦の嫉妬は確実なので今年の映画芸術ワースト作品になるであろう。最近流行りの前後編構成の映画は、前半にエモい話が詰まって、後半に物語のつじつまを合わせていくような展開になりがちだが、この2本は前後でそれぞれエモい展開が詰まっている。特に瑛太演じる新聞記者は前/後編で“変化”していくオイシイ役割を担っている。
『FAKE』
紹介記事を書いているよ〜>>>https://filmaga.filmarks.com/articles/763
森達也の『ドキュメンタリーは嘘をつく』の言葉を、本も読まずに拡大解釈しすぎな人がけっこういる。「そーいう意味じゃないから!」って言いたくなる感想がちらほら。
『サウスポー』
『トレーニング・デイ』『イコライザー』のアントン・フークア監督の新作。ケンカっ早い不良ボクサーが、ケンカに奥さんを巻き込んで死なせてしまい、ドン底に突き落とされる。そこからの再生の物語…… というあらすじで想像した通りの展開。そして、想像した通りに泣ける。もう、目にたまねぎのみじん切りを入れるとかと同じだよ。
『マネー・モンスター』
ジョディ・フォスター監督作。投資指南番組の生放送をジャックした男と無責任な司会者の真相究明劇。もちろんアメリカの富を独占する「1%」への批判なんだけど、キッチリと娯楽作品に仕上げられている。こういう、5年後、10年後にはあまり振り返られる機会が少なくなってしまう、そこそこ面白い娯楽映画大好き。
『エクス・マキナ』
タイトルがラテン語で、ロボット/人口知能を通して人間性とは何かを描きつつ、ファムファタールに惹かれて身を滅ぼす男という厨二病的カッコイイ話。ただ、これはやっぱり攻殻機動隊の『イノセント』だよねえ。精巧なロボットが作れるほどの未来なのにディペッシュ・モードだのゴーストバスターズだのがセリフに出てくるし、オリジナル劇伴がポーティス・ヘッドのジェフ・バーロウなのも絶妙に古臭い。チョイふる未来。
『ノック・ノック』
オリジナル(『メイクアップ 狂気の3P』)を、ほぼなぞった展開だが、たまごっちのリセットみたいなオチはさすがにテコ入れされて、シャレの利いたアレンジになっている。善きパパが気の迷いで地獄を見る教訓話のように見えるが、イーライ・ロスにモチロンそんな気は無い。彼の監督作フィルモグラフィ全てのサブジャンルは「セクスプロイテーション」で統一されている。いかに景気良くおっぱいを出すか、こそイーライ・ロスの作家性だ。本作もスリラー/サスペンスの「セクスプロイテーション」映画である。イーライ・ロス次回作は『狼よさらば』のリメイクだそうな。レイプで家族を殺された男の復讐劇。
『貞子vs伽耶子』
『コワすぎ!』シリーズの白石晃士監督新作にしてカドカワ映画50周年記念作品。『リング』シリーズの貞子と、『呪怨』シリーズの伽耶子の対決! 一気に暑くなった日々にぴったりな夏休み感溢れる1本。企画ものの様に捉えられているかもしれないが、真っ当に心霊ホラー的演出で怖がらせながら、終盤へむけて定石を少しずつ外して暴走させていく展開はサスガ。ちゃんと怖くて、ちゃんと面白い。
『クリーピー 偽りの隣人』
香川照之が香川照之業をこなす黒沢清監督新作。黒沢監督作には情緒の入る余地が無い。香川が演じる男の言うことをみんなが抗えず受け入れてしまうところに理由が無い。憶測は出来るけど、何を仮定しても心もとない。言いきれない。理由が無いのにしてしまう。と、いうのが気持ち悪いし怖い。途中、ドローン撮影したシーンが出てきて「うぉ! 黒沢監督が最新技術を!」と思うのだが、車の運転では相変わらずリアプロジェクターでくすんだ晴天を映して撮影するという気持ち悪くて怖いことしている。
『10クローバーフィールド・レーン』
POVの怪獣映画だった『クローバーフィールド』の「フランチャイズ」作品。という解ったような解らないような。関連があるから効いてくるネタがあるワケでなし。物語構造は極秘にしたワリに目新しさもない。と、文字にすると良いとこ無いなぁ。細かい演出で恐怖を煽るシーンはとても良いですよ。オッサンがヒゲ剃っただけで怖いとか。ジョン・グッドマンがおでこに深い切り傷を負ってメアリー・エリザベス・ウィンステッドにむかってプン!って感じで胸はって縫わそうとする場面がかわいい。
『帰ってきたヒトラー』
ヒトラーが現代にタイムスリップしたら人気者になってしまうというアイロニックなコメディ。しかし、まさかのサシャ・バロン・コーエン方式で、ヒトラーのコスプレをした役者をドイツの街中に放って反応を見るという、けっこうオッカナイことしているのが楽しい。ヒトラー役の俳優が上手くて、特別似ているワケじゃない(背が高いしガタイがイイ)んだけど、キャラクターとして作り込み完成度が高くて、街の人々の反応に対して「ヒトラーならこう対応するんだろうなぁ」という反応が見られる。タイムスリップ繋がりで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と『ターミネーター』へ目配せがありニヤリとさせられる。
『ダーク・プレイス』
「ウェスト・メンフィス・スリー」事件に着想を得たであろう物語。田舎者のバカな浅知恵で起こる事件を、地味に追っていく。これはマイケル・シャノンの不在が悔やまれる。バカが嵩じて狂気にならないと、バカの浅知恵計画に説得力的な“凄み”が欠落してしまう。マイケル・シャノンが体言するバカの凄みこそ、この物語の核になるものだろう。
『トリプル9 裏切りのコード』
「999」(警察官の殺害のコード)を他所で発生させて、警察がいなくなったところで警備の堅い金庫を襲撃する。という燃える計画なクセに、その設定を活かせていないし、キャラ全員が浅知恵のオーナーで計画が崩壊するのも当たり前だしダラしない。監督ジョン・ヒルコートは『欲望のバージニア』『ザ・ロード』に続き、雰囲気100点、中身0点なフィルモグラフィが完成しつつある。劇中、チカーノの根城を電車ごっこっぽい感じで強襲する場面はかっこよかった。
『二ツ星の料理人』
どうやらのっぴきならない理由でレストランを潰した一流シェフが返り咲きを目指すが、込み入った人間関係に悩むという話。『8月の家族たち』のジョン・ウェルズ監督作らしい、わがままなキャラクターの苦悩が知覚過敏の歯でガリガリくんを齧ったように鋭く沁みる。登場人物に2人LGBTな人が出てくるんだけど、ヘテロと並列に描かれていて、当たり前なんだけど逆に新鮮だし心地よい。
『インドの仕置人』
日本でソフト出てたインド映画シリーズ。ラジーニ・カーント主演『ロボット』『その男シバージ』のシャンカール監督、1996年のタミル語映画。賄賂が横行するインドで、かつてイギリス領時代に独立運動の闘士だった老人が悪徳役人を殺してまわる。彼の行く手を阻むのは、かつて彼に反発したあげく賄賂で役人になった息子だった。という話。『その男シバージ』も賄賂と戦う話だし、同監督でヴィクラム主演の『Anniyan』も不正に対して怒ったあげくに二重人格になってしまう話だし、『ロボット』でもギャグとして賄賂を要求する警察官の手をナイフでスッと切ったりと、シャンカールの賄賂嫌いは筋金入りだ。ラスト、まさかの『ダークナイト』展開もスゴイ。
『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター』
日本でソフト出てたインド映画シリーズ。「アラジンと魔法のランプ」の設定を活かし、現代の北インドを舞台に、青年の恋物語が語られる。ジーニー(本作ではジーニアス)を演じるのがインド映画の至宝アミターブ・バッチャンで、ディズニーの『アラジン』ジーニー/ロビン・ウィリアムスを彷彿とさせるアッパーで陽気なジーニーを演じているのが楽しい。メインの話は気の弱いアラジンが人気者のジャスミンの気をいかに引くかのドコメディ。ミュージカル曲がインド・ヒップ・ホップでカッコイイです。
『FAN』
インド/ヒンディー新作。シャー・ルク・カーン/SRKが自分自身を思わせるボリウッド・スーパー・スターと、そのストーカー2役を演じるという倒錯した映画。このスターには「アリヤン・カンナー」という役名が付けられているのだが、使用されるフッテージや、キメポーズ(両手を広げ右側に重心を置いて立つ)はSRKのものだしで、自分で自分を痛めつけて自分が困るという凄まじく危うい構造を持っている。だって「アリヤン・カンナー」を「シャー・ルク・カーン」にしても全然成立しちゃう。つまり、社会における自分(SRK)実験にもなっていて、「あるある、充分ありえる。」という結果として映画が成立してる。そんな怖いこと、よくやるよなぁ。
『GHAYAL』
1990年にインドで大ヒットした作品。ボクシング選手アジャイは行方不明の兄が麻薬組織に殺されていたことを知る。兄を探していく中で組織に目をつけられたアジャイは、その兄殺しの罪を被せられ刑務所送りになってしまう。アジャイは組織への復讐を誓って、仲間を募り脱獄するのだった。という話。序盤ではアジャイと恋人との恋模様が「ランバダ」に合わせて晴れやかかつコミカルに描かれるが、後半がガラリと転調し、バイオレンス満載の復讐アクション劇となる。これが『ランボー』トリビュートで、ミサイル・ランチャーばこばこ撃ちまくったりで大変な清々しさ。オチもランボーしてて楽しい。
『Ghayal Once Again』
インド/ヒンディー新作。26年越しで公開された『GHAYAL』の続編。前作で麻薬組織を壊滅させたアジャイが、闇の仕置き人組織を結成。州知事と息子が犯した殺人事件の証拠動画の入ったHDドライブをめぐり、街全体を巻き込んだ大スペクタクル・アクションへ雪崩れこんでいく。一応、アジャイのトラウマや、亡くした子供への思いなんかが隠し味程度に混入されるが、中盤以降ほぼひっきりなしに行われる大アクションが素晴らしい。インドのアクション映画は一本調子になりがちなんだが、カーアクション、ガンアクション、パルクールのスタントに格闘と、めまぐるしくスタイルを変えてくるので、飽きさせず一気に見せる。
『Neerja』
インド/ヒンディー新作。1995年、ムンバイ発ニューヨーク行きの便がハイジャックされた史実を元に、乗客を救うために尽力した美人CAニールジャーさんを描く。ニールジャーさんの破局してしまった結婚や、現在の恋人との仄かな思いがハイジャック事件の合間にフラッシュバックで語られる。美人だけど、失敗したり落ち込んだりもする普通の女性であることと、事件での彼女の勇気を対比させていく構成が見事。ソーナム・カプールは高潔な気品溢れる女優さんになっててエレガンス。