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新貧乏物語

第5部・18歳の肖像 (3)ホームレス

久しぶりに訪れた公園のベンチに座り、祐樹さん(仮名)はかつてのようにハトを眺めた=愛知県豊橋市で

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◆大人は信じてくれず

 公園にはハトがいる。ゆっくり歩きながら、地面の餌をついばんでいる。そんな様子を眺めながら、山田祐樹さん(18)=仮名=は思い出す。昨年の冬までは、愛知県豊橋市にあるこの公園の硬いベンチで眠っていた。

 財布には数百円の小銭があるか、ないか。のどが渇くと水飲み場の蛇口をひねった。おなかが減ると街を歩いて友だちを探した。「おごって」とねだり、コンビニで買ってもらったパンを食べた。

 幼いころに両親が別れ、小学一年からは児童養護施設で過ごした。六年生になる前に父に引き取られ、通っていた小学校を離れた。転校先で待っていたのは、いじめ。工場従業員だった父は、祐樹さんが不登校になると「何で行かないんだ」とビンタした。真冬に水のシャワーを頭から浴びるように言われ、父が寝るまで一人きり、震えながら耐えたこともある。

 最初に家出をしたのは中学一年のときだ。友だちの家を泊まり歩き、深夜の街で警察に保護された。自宅に戻ると、父は前よりもひどく祐樹さんを殴った。定時制高校に進んでからはアルバイトを強要し、五千円の小遣い以外は給料を取り上げた。「怖い」。居場所を無くした祐樹さんがたどり着いたのが、繁華街のはずれにある公園だった。

 ベンチで寝泊まりしながら一年が過ぎたころ、祐樹さんは万引で逮捕された。公園暮らしで食べる物に困り、ドラッグストアでマシュマロなどのお菓子をリュックサックに隠して入れた。店を出たところで呼び止められ、警察署で手錠を掛けられた。

 十一カ月過ごした少年院を出るとき、父がいる家に帰りたくなくて「期間を延長してください」とお願いした。ここにいれば食事も寝る場所もある。でも法務教官から返ってきた言葉は「そう簡単に延ばしたり減らしたりはできない。他の施設に移ったらどうか」だった。

 自分なりに「助けて」と大人に伝えたのは、そのときだけではない。子どものころに通っていた児童相談所の父子面談。顔や体のあざに気付いた職員に「お父さんにやられました」と打ち明けたが、職員は父に「手を出したらだめですよ」と注意しただけだった。

 家出をし、茶色く汚れた高校の制服を着て公園のベンチで寝ていたときも、声を掛ける大人はいなかった。たまに警官に「何してるの?」と聞かれたが、いつも「早く帰れよ」で終わり。近くの店が閉まって酔客が消えると、凍えるほど寂しかった。

 昨年の夏に少年院を出た祐樹さんは、自宅に戻らず友人宅を転々とした。高校は逮捕を理由に強制退学。「親にだめって言われた」「彼女ができたので、ごめん」。泊めてくれる友だちが減っていく。舞い戻った公園で、また一人きり。昨年末、コンビニでおにぎりやジュースを盗み、十八歳で再び警察に捕まった。

 保護観察処分を受けた祐樹さんは今、支援団体が用意した名古屋市内のアパートで暮らしている。家賃や生活費は支給してもらえるが、いずれは働き口を見つけて出なければならない。

 「もう公園には戻りたくない」。あす、二十七日に飲食店のアルバイトの面接を受ける。でも、非行歴があり、長髪を染めた自分を信じてくれる大人がいるのか。自分が信じられる大人はいるのだろうか。先を考えると、押しつぶされそうになる。

     ◇

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