NHK経営委員長 信頼回復の責任がある
会長の任免権を握るNHKの最高意思決定機関として信頼回復の責任を自覚してもらいたい。
NHK経営委員会が、浜田健一郎・前委員長の後任にJR九州相談役の石原進氏を全会一致で選出した。
記者会見した石原氏は、義務化を視野に入れた受信料制度の見直しや国際放送の強化などの課題を挙げ、NHKが変革期にあることを強調した。籾井勝人(もみいかつと)会長については「誤解されるような発言があり、経営委として3度注意した。そういったことがないよう求めたい」と述べた。
来年1月で任期が切れる籾井氏の去就を含めた会長人事が、経営委の最重要課題なのは言うまでもない。
経営委は放送法に規定があり、12人の委員で構成される。「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ」る者を、衆参両院の同意を得て首相が任命すると定められている。
第2次安倍内閣になってからは、首相に近い作家らが委員に選ばれ、資格要件に合わないと批判を招いたことがあった。2010年から委員を務める石原氏は、3年前に籾井氏を会長に推した経緯がある。
石原氏は会見で会長に求められる資質について、受信料に支えられる公共放送として国民の信頼が大事だと述べた。信頼を得るには、前回の会長指名をまず反省すべきだろう。
籾井氏は4月の熊本地震に関する局内会議で、原発報道は「公式発表をベースに」と述べ、国会で真意をただされた。一昨年の就任会見で、国際放送について「政府が右というものを左というわけにはいかない」と語った姿勢は改まっていない。
視聴者は、安全保障関連法や歴史認識などの見解の分かれるニュースを多様な意見を交えて伝えてほしいと考えている。だが、籾井氏の言動は現場に多角的な報道を放棄させ、NHKの信頼を揺るがしかねない。
会長人事は1970年代からほぼ内部昇格が続き、00年代半ばの不祥事で改革を期待された民間の経営者が選ばれるようになった。公共放送のトップとしての資質が置き去りにされているのではないだろうか。
NHK自身も08年の倫理・行動憲章の冒頭に「公共放送として自主自律を堅持し、健全な民主主義の発展と文化の向上に役立つ、豊かで良い放送」を使命として掲げる。
会長の選出手続きについて、経営委は籾井氏を選んだ13年に、密室の審議で混乱を招かぬよう、ルールを明文化した。ただ改善の方向は良くても、結果につながっていない。
経営委は近く指名部会を開いて、当時の経験も踏まえ会長選びの話し合いを始める。執行部に目を光らせながら、公共放送のありようを真剣に考えなければならない。