NHKの経営委員会は、最高意思決定機関である。視聴者の代表として経営の方針を決め、会長を選び、罷免(ひめん)もできる。極めて重い役割を負っている。

 その新委員長にJR九州相談役の石原進氏が就いた。この5年半、経営委員を務めており、委員12人の互選で決まった。

 経営委の当面の大きな仕事は次期会長を選ぶことだ。現在の籾井勝人会長の任期は来年1月で切れる。次こそは、公共放送のトップにふさわしい人物を探してほしい。

 石原氏は就任会見で、自身も選任に深くかかわった籾井会長について「誤解されるような発言がある」とし、必要があれば「ご注意申し上げる」と述べた。一方で収支の改善などを「実績」と評価し、「是々非々で考えていきたい」と語った。

 籾井会長は2014年の就任時に「政府が右ということを左というわけにはいかない」と述べて以来、政府に寄り添うような発言を繰り返し、報道機関であるNHKへの信頼を揺るがし続けている。経営委から3度にわたり注意された。

 国会の予算承認は、通例の全会一致が3年連続で崩れた。付帯決議では「信頼が揺らいでいる現状を重く受け止め、一刻も早い収束と信頼回復に全力を」と、これも3年続けて警告された。さらに「役員は協会の名誉や信用を損ねるような発言は慎むこと」との注文もついた。

 にもかかわらず籾井会長は、4月の熊本地震では、原発報道について「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」と指示し、批判された。

 いまに至るも政府の広報機関のような認識しかもたず、国会や経営委にいさめられても言動が改まらない。そんな会長を選んだ責任の重さを、石原氏は厳しく認識すべきである。

 自民党からの選挙報道への「要望」や、高市総務相の「停波」発言など、安倍政権と自民党は放送に神経をとがらせる姿勢が目立つ。視聴者にはNHKが萎縮しているのではという懸念が広がっている。このままでは公共放送への信頼が危うい。

 公共放送は、政府批判も含めた多様な意見や情報を幅広く伝えることに存在意義がある。

 石原氏ら経営委は、政権と適切な距離を置くという当然の姿勢を心得てもらいたい。さらにそれが視聴者に伝わるよう情報発信に努める必要がある。

 信頼回復のためには、新会長を選ぶ過程をしっかり開示するなどの透明化も不可欠だ。