参院選が始まった。震災が話題になることが減った。でも、被災地のことを忘れないでほしい――。本紙声欄に、宮城県石巻市で被災した短大生(18)のこんな投書が載った。

 「3・11」の東日本大震災から5年余り。いまも16万を超す人々が避難生活を送る。うち5万人は壁の薄いプレハブ仮設住宅で6度目の夏を迎える。

 安倍首相は公示日に、民進党の岡田代表も2日後に福島県を訪れた。だが選挙戦では、防災や復興は脇に追いやられた印象がぬぐえない。岩手、宮城、福島の被災3県の地域課題のような扱いにも見えてしまう。

 これではいけない。熊本地震や鬼怒川の決壊、御嶽山の噴火のように大規模災害はいつ、どこで起きるかわからない。どう備え、発生後にどう対応するのかは参院選の重要な論点だ。

 「3・11」は防災を考えるうえで様々な教訓をもたらした。

 「災害に上限なし」「巨大防潮堤などハード対応には限界がある」「土地利用規制や避難策などハード・ソフトを総動員する多重防御が必要だ」……。

 多様な取り組みで被害の最小化をめざす「減災」という言葉も広まった。

 こうした視点で各党の公約を見ると、気になる部分がある。

 自民党は「住宅・建築物、道路、堤防、港湾等のインフラの耐震化」など国土強靱(きょうじん)化を前面に打ち出している。対策の柱に従来のハード重視の考え方が色濃く残る。

 民進党は「災害対応のノウハウを持つ府省庁の職員を速やかに派遣」、公明党は「災害対策を担う専門的な人材の確保」を掲げる。共産党は乱開発を防ぐための「防災アセスメントの導入」を訴えている。

 震災対応の経験を受け継ぐことは、学校での防災教育とともに重要なソフト対策だ。それだけに、もっと具体的な策を示せないだろうか。

 公約とは別に、参院選の論戦で残念なのは、「3・11」の現場で見えた課題への対策が語られていないことだ。

 たとえば、人口が減っていく津波被災地で、人口増を前提とした制度でまちづくりが進んでいる。人口減に対応する新制度が必要なのは明らかだ。

 災害救助法は戦後まもない制定時のまま「現物給付」の原則で運用され、機動性に欠ける点がある。なぜ見直さないのか。

 法や制度を平時に改善しておくことは国会議員の仕事だ。それが次の大災害への備えになる。だからこそ、現実を踏まえた具体的な議論を望む。