僕はラムネ玉だ。サイダービンのふたをするしごとをしているスーパーエリートである。
知ってる人もいるかもしれないけど、瓶の中の炭酸をのがさないようにするために玉は『かんぺき』な真円じゃないといけない。
正式ななまえはエー玉いう。
A玉。つまりは、A級品なんだよ。
ビー玉は、A玉になれなかったB級品だから、ビー玉というのだ。間違えないでね!
『お! 今日もはなたれ小僧がやってきた』
ラムネを買いにやってきた。飲みおわると、いつも僕をとりだそうとひとさし指をつっこむがぬけなくなって、パニクって泣く。
駄菓子屋のばーさんが、びんの入り口に石けん水をぬり、優しく指を外す毎日である。
『にんげんの子どもはバカだなあ』
まあ、らんぼうに地面にビンをなげつけて、取りだされるよりは、いいけどねー。
でもさいきん、こまったことがある。ラムネの栓をするのに玉をつかわなくなったんだよ。ばーさんがさみしそうに言った。
「ラムネの栓が玉じゃなくなるらしい」と。
おいおいおい、ばかいっちゃいけねーよ。
タマタマなしのラムネはラムネじゃない。
ばーさんが寝たあと、僕はかんがえた。
もしかしてエー玉としてのプライドを捨てる必要があるのかもしれないと…。
明治時代から150年がんばってきたのにな。
次の日、いつものはなたれ小僧がやってきて、ビンを逆さにした。
僕は今までのプライドをすてて、思いきり腹をへこませてビンをすりぬけた。
コロコロと地面にころがりきずがつく
僕はもう、真円じゃない。
エリートではない。
初めての『ざせつ』である。
はなたれ小僧は、うれしそうに僕をひろうと口の中にほうりこんだ。そしてベロベロと飴玉のようになめはじめた。
あっとうてき!くつじょく!
だけど。
くやしいけれど、僕は、前を向いて生きる。
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