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ホーサクっ

ホッと一息、サクッと読める400字

ラムネ玉の『栄光と挫折』

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僕はラムネ玉だ。サイダービンのふたをするしごとをしているスーパーエリートである。

知ってる人もいるかもしれないけど、瓶の中の炭酸をのがさないようにするために玉は『かんぺき』な真円じゃないといけない。

正式ななまえはエー玉いう。

A玉。つまりは、A級品なんだよ。

ビー玉は、A玉になれなかったB級品だから、ビー玉というのだ。間違えないでね!

『お! 今日もはなたれ小僧がやってきた』

ラムネを買いにやってきた。飲みおわると、いつも僕をとりだそうとひとさし指をつっこむがぬけなくなって、パニクって泣く。

駄菓子屋のばーさんが、びんの入り口に石けん水をぬり、優しく指を外す毎日である。

『にんげんの子どもはバカだなあ』

まあ、らんぼうに地面にビンをなげつけて、取りだされるよりは、いいけどねー。

でもさいきん、こまったことがある。ラムネの栓をするのに玉をつかわなくなったんだよ。ばーさんがさみしそうに言った。

「ラムネの栓が玉じゃなくなるらしい」と。

おいおいおい、ばかいっちゃいけねーよ。

タマタマなしのラムネはラムネじゃない。

ばーさんが寝たあと、僕はかんがえた。

もしかしてエー玉としてのプライドを捨てる必要があるのかもしれないと…。

明治時代から150年がんばってきたのにな。

次の日、いつものはなたれ小僧がやってきて、ビンを逆さにした。

僕は今までのプライドをすてて、思いきり腹をへこませてビンをすりぬけた。

コロコロと地面にころがりきずがつく

僕はもう、真円じゃない。

エリートではない。

初めての『ざせつ』である。

はなたれ小僧は、うれしそうに僕をひろうと口の中にほうりこんだ。そしてベロベロと飴玉のようになめはじめた。

あっとうてき!くつじょく!

だけど。

くやしいけれど、僕は、前を向いて生きる。

(725字)