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「紙の本は最後」 真のデジタルファーストで出版再生
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2016/6/29 6:30
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ITpro

 電子出版を手掛けるインプレスR&Dが、出版業界で異色の挑戦を続けている。書店などと組み、本を1冊ずつ製本して販売する「プリント・オン・デマンド(POD)」による書籍の流通環境を整備。数百~数千冊しか売れないような希少本でも、著者が読者に届けやすくするのが狙いだ。

 国内出版市場は11年連続で減少が続き、2015年は金額で前年比5.3%減と過去最大の落ち込みとなった。PODによって、需要がありながらこれまで流通しにくかった書籍が出回るようになる。新しい需要が掘り起こされ、長引く出版不況に薄日が差し込むきっかけになるかもしれない。

■紙の本は「ラスト」でOK

写真 インプレスR&Dの井芹昌信代表取締役社長(左)、栗原翔デジタルエディター(右)
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写真 インプレスR&Dの井芹昌信代表取締役社長(左)、栗原翔デジタルエディター(右)

 「活版印刷の書籍は、日本で100年以上の歴史がある。それにも関わらず、書店には新刊本ばかりが並ぶ。もっと多様な書籍を流通させたかった」。インプレスR&Dの井芹昌信代表取締役社長は、PODサービスにかける思いをこう語る。

 同社は2012年に出版社を対象とした書籍の流通プラットフォーム事業「NextPublishing」を立ち上げ、約250タイトルを世に送り出してきた実績がある。契約した出版社が書籍データを納品すると、まず電子書籍としてオンライン書店に配本できる。加えてPOD対応の印刷機を所有するオンライン書店やリアルな書店向けに、注文が入る度に1冊ずつ印刷・製本して紙の書籍として販売もできるのが特徴だ。

 当初POD版は印刷機を持つ米アマゾン・ドット・コムや三省堂書店など一部に限られていたが、2015年10月に楽天と組んで全国の書店が1冊からでも印刷した状態で取り寄せ可能にするなど販路を順次拡大してきた。

 コンセプトは「デジタルファースト、ブックラスト」。意味するところは、編集から制作、流通まですべてデジタルでくみ上げた低コストなプラットフォームだということ。「まずコストをかけて紙として書籍を発行し、それをまたコストをかけてデジタル化したものを電子書籍として流通させる発想が出版業界では主流。逆転の発想で作りあげたのがNextPublishing」(井芹社長)。最初に紙の本ありきではなく、最終的な出力形態の一つとして紙を捉えていることから「ブックラスト」をうたっている。

 具体的には、電子書籍や紙の書籍など需要に応じた形で流通させればよいとの考え方に立ち、マスターの書籍データを作る仕組みを採用している。PODの活用により、電子書籍だけで刊行するのとほぼ同じコスト感覚で、電子書籍と紙の書籍の同時刊行を実現できる。印刷費や製本費を織り込まずに注文に応じて1冊ずつ印刷できるためだ。「書籍発行の経費を、従来より一桁安くできる。約400部売れれば採算がとれる」(井芹社長)という。

 人気が出れば、通常の書籍としてまとまった数を印刷し、全国の書店へ配本して並べることも可能だ。

 既に契約している出版社は20社弱。岩波書店が絶版本を復活させたり、小規模な科学系出版社が専門書を発刊したりする際に活用している。

 NextPublishingでテストマーケティングを実施したおかげで、ヒット作品が生まれた例も出てきている。同じインプレスグループのクロスメディア・パブリッシングが2015年3月に刊行したビジネス書「未来をつくる起業家」がそれだ。担当編集者で書籍編集部の吉田倫哉氏は、当時をこう振り返る。「刊行を検討したい際、売れるかどうかの見極めが難しかった。まず試しに売り出して、手応えがあれば通常の書籍として流通させられるNextPublishingの存在を知り、渡りに船の話だと思い飛びついた」。

写真 NextPublishingで刊行した書籍の例。米マイクロソフトの日本法人の元社長だった古川享氏の書籍は、電子書籍(下)のほか、POD版(右上)のほか、通常の書籍(左上)の形でも全国に流通している
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写真 NextPublishingで刊行した書籍の例。米マイクロソフトの日本法人の元社長だった古川享氏の書籍は、電子書籍(下)のほか、POD版(右上)のほか、通常の書籍(左上)の形でも全国に流通している

 本著は、約20社のスタートアップ企業経営者が過去の失敗談を含めて、日本で起業する難しさとコツを紹介するという内容。編集者が積極的にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やニュースサイトで宣伝したことが功を奏し、徐々に話題となっていく。電子書籍版の価格をPOD版の半額に設定したことから電子書籍で購入する読者が多かったが、高くても紙で読みたい需要が少なからずあることも分かった。

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