ヨーロッパ“自転車王国”をゆく<3>ベルギー、オランダの安全快適な走行環境 大スケールの自転車用設備に驚き
自転車王国として知られるオランダとベルギーの各地でレンタルサイクルを借りて現地を走った5日間の自転車紀行。美しい自然と調和したサイクリングコース、都市部の快適な自転車レーンなどを実走していろんなことを考えた。
平らで自転車に最適
オランダ・ベルギーフランダース政府観光局のアテンドで両国それぞれ2日半をかけて訪問した。連日のようにレンタルサイクルを借りまくり、中日となる3日目は午前中にベルギーで、午後はオランダでサイクリングするというプロ選手顔負けの離れ業もやってのけた。
借り物の自転車に関しては全体的にフレームサイズが大きく、車種によってはブレーキレバーのリーチが大きいので小柄な日本人女性は意外と苦労したようだ。しかしいったん走り出してしまえば、クルマや歩行者と遮断された自転車専用道あるいは専用レーンを軽快に走れる。オランダは平たんなことで知られるが、ベルギー西部に位置するフランダース地方も同様で、無骨で大ぶりな現地自転車でも上り坂に手こずることはなかった。
運河をくぐる地下トンネル
ベルギーのアントワープでは自転車・歩行者共用の地下トンネルを実走した。この町はユダヤ商人によるダイヤ取引が盛んで、中世のころからヨーロッパの十字路としての要衝。そのため運河に不要な橋を架けることはしなかったため、現代になっても橋が極端に少ない。それでは困るだろうと自転車と歩行者のために地下トンネルを作ってしまったのだ。
レンタルサイクルを借りて出発。すぐに運河の下を通るトンネルへの入口を見つけたが、自転車が昇降するためのエレベーターが故障のため休止していた。しかたなく現地の人がやるように、木造のエスカレーターに自転車ごと飛び乗り、自転車が落下しないように押さえながら最下部へ。日本だったら安全上の理由でこんなことはさせないなと思うほどの芸当だったが、無事に地下通路に到着し、ひんやりとしたトンネル内を走って対岸に行き、結局はそれを往復してここでしか体験できないサイクリングコースを満喫した。
交差点には圧巻の“天空の回廊”
オランダのアイントホーフェンでは幹線道路に沿って伸びる土手の上にサイクリングルートがある。環状交差点には土手と同じ高さに天空の回廊が設置されていて、そのスケールにビックリした。直径70mの円形通路を高さ72mの塔から24本のワイヤで支えている。2輪専用なのでオートバイも利用できるのだが、自転車に乗る人たちがクルマを気にすることなく走れるのが魅力。さらにはアムステルダムでは駅周辺に広大な駐輪場が完備される様を目撃。自宅から自転車で通勤に出た人はサイクリングルートを通って駅まで行き、隣接した駐輪場に駐めて電車に乗るという、日本人から見たらじつにうらやましいシステムが完備されているのである。
シマノが拠点とする大阪府堺市もこのオランダの例をまねて「自転車通勤に優しいまちづくり」を構想していると聞いたことがある。例えば、クルマや歩行者に出会うことなく駅にアクセスでき、ホーム直下の駐輪場までダイレクトに進めるなんていう計画だったと思う。同社のヨーロッパ拠点となるシマノヨーロッパはオランダにあり、商品開発に関わる若き社員たちがそこに出向し、それらの文化を持ち帰った。シマノの第一戦でものづくりに従事したあとは、自転車博物館の事務局長などに就任してその町の環境整備に提言するようになる。日本の手狭な環境ではなかなか実現しないことばかりだが、いまもその実現に向けて努力しているのはいうまでもない。
ドライバーが自転車をリスペクト
オランダやベルギーのサイクリストが高いモラルを持っているかといえば、現実としたらそうでもない。飲酒運転はするしノーヘルだし、スマホをいじくりながらペダルをこぐ。サイクリングレーンに慣れない観光客がうかつにも立ち止まっていたりしたら怒鳴りつける。その一方でクルマのハンドルを握るドライバーの意識がとても高いとも感じた。サイクリストがいればその動きを注視して安全を確保する。つまりその存在をリスペクトする気配が感じられるのである。両国ではドライバーも車を降りればサイクリストであり、その気持ちを共有できているからこそ寛容な精神が発揮される。
東京のど真ん中にあるオランダ・ベルギー両大使館を発着とするサイクリングイベント「オランダ〜ベルギー・フランダース in 東京散走」はかれこれ4年目となり、恒例行事として定着しつつある。両国が自転車に注ぐ思いを日本の参加者が体感できるまたとない機会だ。オランダ・ベルギーフランダースと魅力とともにこの地方のサイクリング文化を日本の人たちに知ってもらえるチャンスとして、今後も継続的に開催していきたいと主催者は語っている。
オランダやベルギーを観光する機会があったら自転車で散歩してみるのも現地を満喫する手段だと思う。
ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。