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【社説】

来日から50年 ビートルズに教わった

 ♪居場所のない者よ、お前は誰も見たことのない景色を見てる。世界は道を示している…。日本公演の九曲目に歌った「ひとりぼっちのあいつ」。あれから五十年。ビートルズは今も、そこにいる。

 五十年前のきょう未明、ビートルズが初めてアジアにやってきた。台風4号の影響で一日遅れの到着だった。“二つの台風”と新聞は書いていた。

 デビューから四年。“世界を変えた”四人もまだ二十代半ば。熱狂する若者に大人たちの多くは戸惑った。きっと恐れもあったのだろう。エレキは不良、長髪は不潔、ロックはただの騒音と決めつけた。

 しかし若い世代は、それまでに聞いたことのない音楽や見たこともないスタイルから、新しい価値観をはぐくんだ。「こんなことができるんだ。してもいいんだ」と気づかされたのだ。

 自分で作った楽曲を、自分で演奏してもいい。髪の毛を伸ばしても、襟なしスーツを着るのもいい。戦争に反対するのも、勲章をもらうのもいいだろう…。

 時あたかも、いざなぎ景気と学園紛争真っただ中、戦中戦後の抑圧から解き放たれた若者たちが、主張を始めたころだった。

 滞日わずか百三時間。東京・日本武道館限定。一ステージ三十分余の五回公演。チケットの抽選に全国から二十三万通の応募はがきが寄せられた。

 愛知県西部の県立高校では、当選した一人の女子のため、交通費をカンパした。東海道新幹線は二年前に開通していたが、東京はまだ遠かった。クラスみんなの気持ちを武道館へ送りたかった。

 開演。悲鳴の中に歌声が入り交じる。七曲目の「イエスタデイ」が始まると、場内がシーンとなった。「世界中の時が止まった」と、客席の多くが感じていた。

 都内の女子大生は、武道館に空き瓶を持って行き、ビートルズと一緒に吸った空気を詰めて封をした。五十年解いていないという。

 去年再来日したポール・マッカートニーのショーには、その孫の世代も詰め掛けた。

 あの日の風が封印された小瓶のように、ビートルズは今も、時空をつないでいるのだが、時代は再び変わり目を迎えているようだ。

 来日時の記者会見で「富と名声を得て、次にほしいものは」と問われ、ジョン・レノンはひと言、「ピース(平和)」と言った。

 あれから半世紀。ジョンの望みは、まだかなえられていない。

 

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