ふるさと納税 返礼品の制限が必要だ
本来の趣旨を踏み外し、税のあり方をゆがめているのではないか。
故郷や応援したい自治体に寄付すると、税が軽減される「ふるさと納税」が急増している。2015年度の寄付額は1653億円と前年度の4倍以上になった。問題は、自治体が返礼品を豪華にして、寄付の獲得競争を過熱させていることだ。
寄付額から2000円を除いた分が所得税と住民税から控除される。寄付額は年収などに応じた上限があるが、「地方創生」を掲げる政府は15年度から上限を2倍にした。
上限引き上げが返礼品競争をあおった面は否めない。自治体が15年度に返礼品調達に費やした額は寄付額の4割だ。地元の農産品が多いが、無関係な商品券や家電も目立った。
千葉県大多喜町は1万円を寄付すると商品券7000円分がもらえる仕組みにした。15年度の寄付額は前年度の40倍近い約18億円に達した。
ふるさと納税は寄付税制の一環だ。見返りを求めない寄付を後押しするため、税控除を認めている。豪華な返礼品はこの趣旨に反する。
高所得者ほど寄付額の上限も高く、高額の返礼品を受け取れる。換金できる商品券が増えると、富裕層の節税に使われやすくなる。
ふるさと納税には一定の意義がある。都会の住民が応援したい自治体に認められる範囲で寄付ができる。地方は税収不足を補い、人口減対策や福祉などに充てられる。
自治体間の税収の偏りを調整しているのは、国が自治体に配分する地方交付税交付金だ。国民が国と異なる観点から自治体を支援すれば、多彩な地域活性化につながるだろう。
災害支援にも役立っている。熊本地震では、熊本県の被災自治体に30億円超が寄付された。
こうした制度の趣旨を生かすため、運用の改善に取り組むべきだ。
総務省は今年4月、商品券などの自粛を求める通知を出し、大多喜町も廃止を決めた。ただ、強制力はなく、競争は解消されていない。
自治体に求められるのは、返礼品に頼らず、独自のまちづくりで魅力を高め、寄付先に選ばれる工夫をすることだ。全国知事会などで自主的に返礼品の額に一定の上限を設けることなどを検討すべきではないか。
自治体の動きが鈍ければ、国が規制に乗り出す必要が出てくるかもしれない。しかし、国の干渉は自治体にとって好ましくないはずだ。
住民税は、居住地の自治体から受ける行政サービスに応じて税を払う「応益負担」の原則に基づく。ふるさと納税は、この原則から外れるが、政策効果を踏まえて許容されている。それだけに自治体は節度ある対応を心がけてほしい。