半導体大手ルネサスエレクトロニクスは28日、呉文精氏(60)が社長兼最高経営責任者(CEO)に就任したと発表した。都内で記者会見した呉社長は「自動車制御などの戦略的な分野に集中して世界一を目指す」と抱負を語った。経営危機に陥っていたルネサスは構造改革によって黒字化を達成。呉氏は「経営的にもリスクを取れるようになった。ここから先は勝ちにいく」と成長を主導する姿勢を強調した。
官民ファンドの産業革新機構が一時、69%を握るルネサス株の売却に動いたことを受けて「動きの速い半導体業界では(大手傘下ではなく)独立系メーカーが勝ち組になっている」と指摘。その上で「特定の会社の傘下に入ることで取引を制約されるのは良くない」と述べ、ルネサス買収に意欲を見せる日本電産をけん制した。
呉氏は日本興業銀行(現みずほ銀行)出身。米ゼネラル・エレクトリック(GE)系の金融子会社社長、カルソニックカンセイ社長を経て日本電産創業者の永守重信氏の後継候補として同社に移籍し、2年で退任した経緯がある。経営方針の違いから永守氏とたもとを分かった呉氏の「独立系が勝ち組」との発言は、半導体の内製化を目指してルネサス買収意向を公言する永守氏に対してのメッセージと受け取れる。
呉氏は興銀時代にM&A(合併・買収)助言を担う企業投資情報部に在籍。日本電産でも副社長兼最高執行責任者(COO)として海外企業の買収とその後の建て直しを担い、売上高、利益ともに成長路線に乗せた。自動車業界では日産系部品メーカー、カルソニックカンセイの経営を立て直した実績もある。今後の成長が期待できる自動運転やロボット、IoT(モノのインターネット化)、スマートシティなど「ルネサスの強みを生かせる分野はまだまだ伸ばしていける」と語った。
一方でルネサスを取り巻く経営環境は厳しさを増している。車載半導体分野で堅持してきた世界シェア首位の座を昨年、オランダのNXPセミコンダクターズに明け渡した。NXPは約2兆円をかけて米同業を買収し、自動運転に必要なあらゆる半導体を1社で提供できる体制を築く。マイコンが強いルネサスは製品ラインアップで引き離された。母体企業である日立製作所、三菱電機、NECから引き継ぐ形で生産拠点は国内に集中しており、足元の円高基調も向かい風となる。
工場売却や大規模なリストラによって連結売上高は現行体制が発足した2011年3月期と比べて4割減、従業員数は6割も減った。事業撤退と縮小を繰り返してきたルネサスが再び成長に向けてカジを切れるか。「グローバルの半導体産業で戦っていくためには自動車制御や産業インフラといった戦略的に勝てる分野を選んで優勝できる力をつける。負けるような構造的理由は何もない」と語る呉氏の経営者としての手腕に注目が集まる。(細川幸太郎)