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日本の夏、もはや「エアコンなし」がダメな理由
夏に備える家づくり(6)

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2016/6/28 6:30
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日経アーキテクチュア

 何かと目の敵にされるエアコン冷房。それでは、エアコンなしで人間は夏を乗り切れるのだろうか。エアコン冷房は、ただのゼイタクなのだろうか。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している東京大学准教授の前真之氏に解説してもらう。

■米国では湿球温度の快適上限21℃

 汗は人体の冷却において最も強力な「武器」である。ただし、この武器には大きな弱点がある。それは、「汗は乾かなければ冷やせない」ということ。汗の中の水分が乾いて水蒸気になるときに潜熱を奪うから、体が冷える。汗が乾かずにしたたり落ちてしまっては、体を冷やす役には立たないのだ。

 つまり、人間が快適に過ごせる(=楽に放熱できる)ためには、空気の温度(乾球)だけでなく、湿度も大事になる。絶対湿度で示されている湿度の上限もあるが、ここでは「湿球温度」で説明してみよう。

 湿球温度は気温と湿度の両方が考慮されており、汗が順調に乾いた際の皮膚温度に近いので人間の「暑さの実感」に近い。図1に示すように米国空調学会では、この湿球温度を暑さの重要な指標として、快適に過ごすためには「夏でも21℃以下にすべき」としている。それでは、この「湿球21℃」を湿度の上限として覚えておき、世界の気候の「快適さ」を比較してみることにしよう。

図1 東京の標準年8760時間分の気象データをClimate Consultant によりプロットし、米国空調学会(ASHRAE) の快適範囲を青枠(左:冬 右:夏)で示した。2005年までのASHRAE快適範囲では、湿度の上限が湿球温度で表現されていた。夏の湿球温度の上限は21℃であり、それ以上なら温度か湿度のいずれかを下げる必要があるとしている
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図1 東京の標準年8760時間分の気象データをClimate Consultant によりプロットし、米国空調学会(ASHRAE) の快適範囲を青枠(左:冬 右:夏)で示した。2005年までのASHRAE快適範囲では、湿度の上限が湿球温度で表現されていた。夏の湿球温度の上限は21℃であり、それ以上なら温度か湿度のいずれかを下げる必要があるとしている

■湿球25℃では汗をかいても乾かない

 図2をご覧いただきたい。人類の遠い祖先が(やむなく)暮らすこととなったアフリカは、乾燥したステップ気候である。300 万年以上前のアウストラロピテクスの骨が発見された、我らが故郷エチオピアの気候をまず見てみよう。

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図2 乾球と湿球、2つの温度で見る世界の気候。ケッペンの気候区分(気温と降水量による分類)の上で、代表的な地点の気候を乾球・湿球の2つの温度で示した。温度と湿度を2つの温度で表示することで、世界の気候の比較が容易となる。東海岸である日本の気候は夏・冬ともに人間にとって厳しいことは明らか(データ出典:東京は拡張アメダス2010標準年、そのほかは米DOE Weather Data)
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図2 乾球と湿球、2つの温度で見る世界の気候。ケッペンの気候区分(気温と降水量による分類)の上で、代表的な地点の気候を乾球・湿球の2つの温度で示した。温度と湿度を2つの温度で表示することで、世界の気候の比較が容易となる。東海岸である日本の気候は夏・冬ともに人間にとって厳しいことは明らか(データ出典:東京は拡張アメダス2010標準年、そのほかは米DOE Weather Data)

 乾球温度は年中高いが、乾燥しているために湿球温度は通年で20℃以下である。1年を通して暖かく、暑い時も汗がよく乾いて体を冷やしてくれるので、まさに人間にとってベストな気候である。

 エジプトも夏は乾球温度が高いが、やはり乾燥しているのでゆったりとした衣装で日射を防ぎつつ発汗を促進することで、十分快適に過ごすことができるのである。

 ただ、暑いだけでなく湿潤となると、状況は一気に厳しくなる。熱帯気候のフィリピン・マニラを見ると乾球温度が年中高く、さらに湿潤なために湿球温度も25℃と非常に高い。汗をかいても乾かないので、人類自慢の冷却システムが機能しない。こうした「蒸し暑い」気候では、かつてはあまり活動しないことで「代謝熱の発生を抑える」しかなかった。

 近年、こうした地域ではエアコンが大人気で、冷房を20℃にまで極端に効かせる場合も多い。温度と湿度の両方がここまで上がってくると、もはや「エアコンは嫌い」などとは言っていられないのだ。

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