昨日までの世界と今日の世界が違って見えることがある。英国の欧州連合(EU)からの離脱決定は、そんな出来事のひとつかもしれない。

 これまでの議論の前提が成り立ちにくくなるなかで、日本はどう向き合うべきか。

 与野党のリーダーによる議論が必要だ。国会開会中なら、首相の出席を求めて予算委員会の集中審議を開くべき場面だ。

 だが今は参院選のまっただなか。そうだ、テレビなどの討論会で各党党首が何を語るか、聞いてみたい――。そう思う有権者も多いだろう。

 しかし、今回の参院選ではもう、党首討論会は開かれない見通しだ。

 公示2日後の24日にTBSの討論会が放送された後、7月10日の投開票まで約2週間、党首討論会の予定がない。ほかの4局の討論会は、公示前の19日と21日に放送された。

 自民党側がテレビ局に対し、安倍首相の遊説日程などを理由に、公示前後の1週間に実施するよう打診したという。

 21日のテレビ朝日の討論会で司会者から、公示後にも討論会をと求められた首相は「期日前投票が増えた。その前に議論を終えておくべきだ」と答えた。

 期日前投票が増えているのは確かだが、有権者の関心が高まる公示後に党首討論会を開かない理由にはならない。選挙戦が本格的に始まった途端に、党首同士の討論がなくなるのでは、何をか言わんやである。

 内外の情勢の変化に機敏に対応し、リーダー同士が多角的に政策を論じ合い、見識を競い、有権者に判断材料を提供する。それこそが政党、政治家の責任ではないか。

 討論会のテーマには事欠かない。アベノミクスや年金・介護など社会保障の先行きは。安倍首相は憲法のどこを、どう、なぜ変えたいのか。参院選後、政府は安全保障関連法を具体的にどう運用していくのか。

 民進、共産、社民、生活の野党4党がきのう、投票日までに党首討論の場をあらためて設けるよう、NHKと在京民放テレビ5局に要請した。

 多くの有権者が聞きたいのは候補者名や政党名の連呼や、政治家が自ら言いたい話を一方的に訴える演説ではない。

 例えば安倍首相は、憲法改正についてこれまでの街頭演説でまったく触れていない。

 政治家側が自ら語ろうとしないテーマも取り上げる党首討論会のような場は、テレビに限らず多ければ多いほどいい。

 ぜひ実現させてほしい。