Loading Search Form
RANKING
Brexit

EU離脱でイギリスはこれから“のた打ち回る”

欧州連合(EU)離脱決定を受け、今後のイギリスやEUはどうなるのか。国民投票前後の約2週間、現地で取材を続けた遠藤乾・北海道大学大学院教授(EU研究の第一人者)が緊急寄稿。2回にわたってお届けする。

文: 遠藤乾(北海道大学法学部・公共政策大学院教授)

英国民は欧州連合と袂を分かつ決断を下した

英国民は欧州連合と袂を分かつ決断を下した

当記事は「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社)の提供記事です

離脱派が勝利した(いくつかの)理由

欧州連合(EU)離脱派が勝利したイギリスの行方に多くの関心が集まっている。無理もない。離脱決定を受け、世界の株価や為替は大きく影響を受けたのだ。しかし、それだけではあるまい。「平和なヨーロッパはどうなってしまうのか」「なぜ、あの穏健で漸進的な<紳士の国>イギリスが……」、といった素朴な疑問もわいてくる。

TVなどで、欧州の思い入れのある国や地域で起きている劇的なことを目の当たりにすると、どうしても好き勝手に解釈してしまいがちだ。とくにイギリスは、本当は階級・地域・エスニシティなど多くの分断線が潜む複雑な国なのだが、英語で親しみやすいこともあり、みなわかったような気になりやすい。

ここでは、さまざまな前提を取り払い、少し喧騒から距離をおいて、まずは何が起きたのか、振り返りたい。そのうえで、投票前後の2週間イギリスを縦断し、インタビューして回った経験を織り交ぜながら、どうして今回の結果に行きついたのか、この時点で言えることを述べて行こう。

なお、このあとイギリスやEUがどうなっていくのかについては、稿を改めたい。保守党と労働党をはじめとするイギリス政党政治、イングランドとスコットランド(+北アイルランド)、EUとの関係、ヨーロッパの将来に関して、大事なポイントがいくつもあるが、ひとことで言えば、目下のところ事態は極度に流動的である。

では、改めて「何が起きたのか」から、振り返ろう。2016年6月23日、イギリスで行われたEU加盟をめぐる国民投票において、僅差で離脱派が勝利した。4650万1241人の有権者のうち、1741万0742票(51.9%)が離脱を選択し、1614万1241票(48.1%)が残留を望んだ。投票率は昨年の総選挙を上回り、72.2%だった。これにより、イギリスは1973年に加盟したEUから脱退することが確実となった。

誰がどう投票したのだろうか。地域的には、スコットランドと北アイルランドはそれぞれ62%、55.8%が残留を求め、イングランドとウェールズの過半(各々53.4、52.5%)は離脱に投じた。

特にイングランドとスコットランドの投票がねじれ、前者が離脱を、後者が残留を選んだことは、今後を占ううえで重要である。

全有権者の8割以上を占めるイングランドの動向がカギを握っていたが、北東部、東西ミッドランズ、ヨークシャー、ハンバー、東部などで離脱派が残留派を引き離した。なお、ロンドンではおおむね6対4で残留に投じたが、他の地域は全体として離脱を選び、ロンドンを抑える形となった。

社会的には、アッシュクロフト卿の投票後の調査(英語)が役に立つ。それによると、男女の間では投票行動に違いはなかったものの、年齢では大きな差が出た。18-24歳の有権者の73%、25-34歳の62%が残留に投じた一方、55―64才の57%、65才以降の6割が離脱を選んだ。

また、学歴や階層でも異なる投票行動が観察された。オックスフォードやケンブリッジでは7割以上が残留に入れたのに対し、ボストンやハヴァリングなど低学歴の住民が多い地域では7割前後が離脱を求めた。収入の比較的高い中流上層以上は57%が残留、労働者階級と低所得者層の64%が離脱に入れた。

次のページ移民の純増が離脱派をブーストする結果に

COLUMNトップCOLUMNトップ
SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2016
from WIRED
PAGE TOP