新卒から5年、紳士服を売り続けてきた。採寸メジャーを首からぶら下げて5千人の首周り、裄丈、胴回り、股下を測ってきた。
トップレベルのピアニストは、道を歩いていると騒音が音楽として聞こえるという絶対音感が身につくというのは知識として知っていた。
僕もお客を見ただけでメジャーで測らなくてもサイズが分かる『絶対測感』が身についた。
道ですれ違ったり、電車内で見かけるサラリーマンのほとんどはサイズが合ってない。
最近はやりのスリムフィットのスーツが似合う人は実のところ、かなり少ない。
私を含むメタボリーマンのスリムフィットスーツやシャツを着用は禁止するべきだ。
季節は初夏に入っており薄着の季節である。絶対測感の感度が上がる。
Y5、B6、B4、A5、A5、Y6、A4、A6、AB7
といった具合にまるでドラゴンボールのスカウターのようにスーツサイズが分かってしまう。
ちなみに僕はA5。174cmの腹囲83である。
事態はこれで収まらない。ここからが本題である。最近、スカウターの調子が悪く、戦闘力が他の記号で表されていたのだ。
BAD、DAD、HAD、BIG、BED……。ん?
『悪いお父さんは大きなベッドを持っている』
???
何かの暗号か、それとも、神の啓示か?
僕は電車に乗っていた。目の前には3人掛けの席が5つあり、どれも満席でみんな一心不乱にスマホをいじっている。僕は考えた。
BAD、DAD、HAD、BIG、BED……。
わるい、ちち、もつ、おおきい、ベッド…。
???
わからない。あきらめて僕は目を閉じた。
ふらちな考えと映像が頭に浮かぶ。目の前、全員、薄着の女性である。やばっ!
もしかして、女性車両⁈
慌てて周りを見たがちゃんと男性も乗っていた。安心して再び、目を閉じる。あれ?
頭の中にチラつく映像はある部分を切り取り、そこにアルファベットがあてはまる。
まさか……。
目をおそるおそる開けると、やはり、アルファベット通りのサイズだった。ど近眼の僕は思わずメガネを床に叩きつけ割った。
前に座っていた女性の1人が僕のメガネを拾って「大丈夫ですか?」と心配そうに顔を覗きこんでくる。眼下にはHサイズ。
僕は、鼻血を垂らしながら意識を失い、側頭部から床に頭を打った。
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