いつからか、UXという言葉をあまり使わなくなった。
UXと言う単語だけ切り出すと言葉の定義が曖昧で、開発現場で建設的な議論がしにくいというのもあるんだけど、現場のデザイナーや開発者がごく当たり前に考えている内容と同じ事でも、UXデザインのプロセスを通ると「これからUXデザイン手法で検証した、すごい結果をお話しますよ」と大層な話になってる事もしばしばある。
イメージの言語化・可視化が、大事なのは同意だけど、最近ではUXデザインと言われているプロセスで得たアウトプットと、感覚が一致していることも少なく無いため「そ、それ、もうわかってるよ。今重要なのは、その先をどう乗り越えるか具体的な手段だ。」と言うことも多くなってきた。
僕自身、過去にUX本を数多く読んだり、有識者から学んで実践してみた感触として、UXデザインを用いて考えられた理想的なプランは、高い熱量と実行力がないと実現に至らない事が多い。そして、その時に求められる事は、見た目のデザインではなく、交渉力や関係者の巻き込み力、だったりする。
例えば、最近だとメルカリの「らくらくメルカリ便」が進化して「ヤマト運輸のセールスドライバーによる出荷に対応し、メルカリユーザーは自宅に居ながら、らくらくメルカリ便を発送できるようになる。それも+30円で。」というニュースを見て、衝撃を覚えた。
UXデザイン的には、「出品後の発送が面倒」という心理的なハードルを下げると言うわかりやすい課題だけど、実現に至るまでの、両社の交渉、システム結合と社内調整を考えるだけでもゾッとする位の大変さが外からでも想像できる。
これらも含めた実行プランまでがUXデザインと言うのであれば良いが、仮に思考だけが先行してそのギャップを超える実行プランが無いと、思考と現場のギャップが大きくなるため「UXデザインって結局理想論ばかりでよくわからない」と話がますます噛み合わなくなっていく。
僕自身、UXデザインに向き合った結果、大事なのは思考より、理想と現実のギャップを超えるための現実的な実行プランをチームを巻き込んで考え続ける、と言う結論で今に至る。
実行されないUXデザインに価値は無い
事業会社において、価値のあるモノは将来性も含めて売上に繋がるモノだと思う。仮に思考がどんなに正論でも、優れたアイディアでも、実行されないと価値が無いし、デザイナーとしては、虚無感にかられる時がある。
僕が「UXとUIは別物です」と突っ込まれたり、一緒に語るなと言われ続けても、頑なにUI/UXデザイナーを名乗り続けているのは、考えたアイディア実現に移す所まで責任を持つのが仕事だと考えているからで、わざわざ切り離す必要も無いと考えている。
その時、実現するインターフェースがGUIでは無い場合もあるが、結局の所、アイディアが実現できれば何でも良いのだ。
UXは、UXデザイナーの持ちモノではなくチーム全員のモノ
UXと聞くと、UXデザイナーが設計してくれそうな雰囲気だけど、1人でできることは限界があるし、理想実現のための議論を突き詰めるためには、やっぱりフィージビリティ感覚が必要になる。
例えば、極端な例だけど、最近話題のAI領域において安易な気持ちでUXデザインをしてみると「自分の好きなものを食べたい時に、近所でオススメのお店をチャットボットでレコメンドしてくれる機能」みたいな議論になってる場合がある。上っ面のUIだけ考えるとそれは理想的なサービスに見えるけど、おいおいそのデータはどこから持ってきて、いつどうやってトリガーを引くんだよw という事になりかねない。
仮にUI上実現できたとしても、次は、人気のお店であれば混んでいて入店できない事が想定されるので、リアルタイムで予約できるように、店舗オペレーションも含めて検討する必要などがでてくるので、関係者を巻き込んで実現するためにチームで全力で会話する必要がでてくる。
その時、全員が納得行く状態で同じゴールを見てないと、何故実現すべきか、仮に理想を実現できない場合の落とし所はどこなのかがブレてしまうので、個人ではなく、チームでUXに向き合う必要があると思う。
スタートアップにUXデザイナーは必要か
今回この記事を書こうと思ったキッカケとして「UX戦略」を読んだ感想を書こうと思ったからで、その中でUX戦略家の中のインタビューに興味深い回答があった。いくつか引用すると
スタートアップ企業での、最大の課題はたいていの場合、戦略を練ってる時間などない事です。一定の水準以上に複雑な戦略を正しく練るには時間と労力とエネルギーが必要です。スタートアップ企業では、まだまだ自分の価値を証明し、生き残るための足がかりを得るために四苦八苦している段階なので、たいてい場合、戦略立案に回せる時間の余裕など残っていません。
スタートアップ企業の戦略的な方向性は、UX戦略家が率いる独立した組織ではなく、スタートアップ企業の創設者から打ち出されるものです。UX戦略を持ち、より広い製品戦略の一部としてUXについて適切に考えるられるようにする事が大切です。成功している会社は、表立って実践していなくても、UX戦略を理解している会社です。
シリコンバレーの人々が「戦略」という単語にいかに興味を示さないかです。まるで使ってはいけない言葉のような扱いです。非常に真剣にUX戦略に取り組んでいる企業が、なぜわざわざUX戦略を大切にしているのかを対外的に示さなければならないのか私にはわかりません。
最近、UX系の翻訳記事が日本で出回るようになってきて、銀の弾丸のように取り上げられる事もあるけど、これを読んで、スタートアップでの考え方は、日本もシリコンバレーも然程変わらないもんだなと思った。
日本だと、クックパッドやメリカリなど僕の知る限り、UXデザインを当たり前のように扱ってる会社から、UXというワードはあまり聞こえてこない。
池田 そうですね。わたしの場合はなるべく「UI」「UX」といったバズワードは使わず、「ユーザー体験」だとか、具体的な話をするように心掛けています。
『クックパッド』『LINE』『Wantedly』ヒットサービス担当者が語るデザイン設計の極意
おそらく、思考法が会社として定着している状態になると、より具体的な話をする文化が醸成されていくのだと思う。そのため、事業会社では、UXデザイナーという専門職種を必要とするのではなく、UXの思考をチームや組織に定着させる事が大事なのだと思う。
最近、ITのスタートアップ企業に、UXデザイナーの求人が多いというツッコミへの回答としては、UXデザインのプロセスや知識を求めているのではなく、社長が考えるビジョンを、具体的なUIやグラフィックに落とし込める人の事をUXデザイナー呼んで求めている気がする。
UXデザイナーが必要な現場は、非ITの事業会社
だと思うのだけど、この話はまた今度書きます。
UXを学び始めても、現場で手を動かすのをやめてはいけない
これは、主に若者デザイナー向けのメッセージ。
最近「UX知識を学びたい」「UIに自信が無いのでUXデザインを使った上流設計で仕事したい」と言う人も多い。気持ちはよく分かるけど、現場で手を動かす事をやめたらダメな気がする。なんとなく。
おそらく近い将来、UXデザインと言われているモノは、より具体的に仕組み化されて組織に導入されるようになってくる。僕が今仕事している環境では、デザイン思考がフレームワーク化され、全職種知識がある前提なので、カスタマージャーニーマップ手法やUXデザインのための知識啓蒙ニーズは少ない。
その時、大事になってくるのは、目に見えるアウトプットでチームに貢献できる技術は何かと言われた時に、自信を持って答えられる技術を保有しておくことだと思う。現場で手を動かすのをやめるのが早過ぎると、日々進化する技術についていけず、実行プランがイメージできなくなってしまい思考法に頼らざるを得ないため、ディレクションしても具体性に欠けていく。
最近では、デザイナースキルの話で「なぜデザイナーもコードを書くのか」「デザイナーはコードを書くよりも、プロジェクトマネジメントを学べ」「ライティングはUIデザインである」など、デザイナーに求めすぎなんじゃないかと言われるけど、概念ではなく技術にフォーカスした記事上がってくるようになったのは非常に良い傾向だと思う。
全てを兼ね備えた人が居れば、それは最高だけど、1人が自信を持って身につけられる技術は、1つ、多くても2つとかだと思うので、自分が強みにできるスキルを判断して、具体化するフェーズでそれを活かして行くのが良いんじゃないかと思う。
僕なりのまとめ
- UXデザインは思考は具体的な実行プランを示さないと価値が薄い
- スタートアップにおいて、UXデザイン思考が必ずしも有効とは限らない
- UXデザインで考えた理想 – フィージビリティ = 現場のタスク
- 個人として、大事なのは、実行する時にどのアウトプットでチーム貢献できるか。
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