6月8日の午後9時50分、ロシアの駆逐艦と護衛船など数隻が、東シナ海にある日本名、尖閣諸島(中国名は釣魚島)を囲む24カイリの接続水域に入って北進した。中国政府とロシア政府、インド政府と米政府がかかわる事件の始まりだった。
軍艦は他国の接続水域を自由に航行できる。現にロシアの船舶は以前にもこの航路を通過している。しかし、6月9日の午前0時50分に、中国海軍のフリゲート艦が初めて接続水域に入って南へ航行した。中国の駐日大使が寝ているところを呼び出されるまでに、緊張が日本の指揮系統を駆け上った。
中国の艦船はあるところまで、直接島をめがけて航行したため日本政府は上陸を恐れた。しかし、その後中国の艦船は旋回し、ロシア船をさえぎり、同じ航路をたどって、午前3時10分に北東に抜けた。日本政府は非難したが、中国は自国の領海を航行するあらゆる権利を有しているとしてこれを一蹴した。日本や中国の国民が目を覚まして、出来事のいきさつではなく、出来事の原因に関する論争になる前に事態は収束していた。この事実から、少なくとも3つの解釈ができる。どれも満足のいくものではないが、日本政府にとっては別な意味でどれも気がかりだ。
■トンキン湾事件の現代版か
まず、海軍観測筋や日本の高官は、ロシアと中国の艦船が同時に現れたのは偶然だった、という見方を否定している。しかし、それは誤解という可能性もある。例えば、中国のフリゲート艦が別方面から尖閣諸島に近づく船を発見し、それが日本の船舶だと誤解して調査に来たとしたらどうだろう。
もしそうだとしたら、領有権を主張する海域で複数の国の戦闘機や戦艦が互いに対立したという点で、1964年にベトナム戦争へと発展するきっかけとなった海事衝突、いわゆるトンキン湾事件の現代版ともいえる新たな危機を示唆している。日本政府の高官はこの解釈には異議を唱える。というのも、日本の船舶は定期的に領海や、尖閣諸島に近い接続水域を航行しており、中国の船舶がそれに対抗して侵入してきたことはないというのだ。
2つ目は、中国のフリゲート艦が、ロシア艦船の航行を尖閣諸島の接続水域に侵入する口実に使い、中ロの連携はないという可能性だ。そうだとすれば、この件は中国による単独行動だったことになる。これは日本政府の気分を害することになるが、領有権を主張する島々での行動を着実に加速するための新たな一歩にすぎない。
6月9日のうちに、東京にあるロシア大使館は、艦船が定例の演習からの帰路にあり「中国とは無関係」とし、さらに「心配無用」とツイートした。しかし、ロシア大使館はその後、ツイートを削除している。