視点・2016参院選 災害大国 全政党が心構えを=論説委員・伊藤正志
安倍晋三首相は、参院選公示日の第一声を熊本市で行い、さらにその日、東日本大震災と原発事故から5年がたった福島県に移動し、街頭演説をした。民進党の岡田克也代表も24日に福島県で街頭演説をした。
党のトップが実際に被災地に足を踏み入れ、訴えることは意味がある。被災地の現実を正面から見据え、政策に生かすきっかけにしてもらいたい。
熊本地震から2カ月たったが、依然、6000人以上が避難生活を余儀なくされている。車中泊や庭先でテント生活をする人も多い。先週は集中豪雨にも見舞われた。
だが、住宅再建ははかどっていない。仮設住宅の建設や罹災(りさい)証明書の発行は遅れが目立つ。
家屋の被害判定結果への不服申し立ても相次ぐ。判定する人員の確保など、全国規模での支援が欠かせない。それを主導するのが政治の役割だ。
目を福島に転じれば、9万人以上が今も避難生活を送っている。政府は原子力災害の総括をいまだしていない。被災者の生活再建への道筋は見通せない。一方で、原発事故に伴う避難指示の解除が続く。確かに帰還は自治体再生への一歩だが、帰る人は少数にとどまる。戻らない人を含め被災者を支えるという原点が大切だと考える。
参院選の主要政党の公約には、震災復興や防災政策が並ぶ。
自民党は東日本大震災の復興加速と「新しい東北」の実現、国土強靱(きょうじん)化の推進をうたう。民進党は、東日本大震災の復興・創生期間における国の財政負担原則化、熊本地震での被災者生活支援制度拡充、地域防災力の強化を訴えている。公明党はインフラの老朽化対策など災害に強い国づくりと災害対応に当たる専門人材確保を掲げる。
相変わらずのハード対策頼みなど首をひねる部分はあるが、この分野は、与野党で議論を深めてよりよい対策を練り上げるのが本来の姿だろう。
2014年時点で、「30年以内に震度6弱以上の地震に見舞われる確率」が7%台だった熊本で、震度7の地震が2度続いたのが4月の熊本地震だった。
政府の地震調査委員会が今月公表した「全国地震動予測地図」では、太平洋側を中心に多くの地域で、大地震の発生確率が2年前に比べて高まった。
いつでもどこでも大地震は起こり得る。また、発生確率が低くても備えを怠ってはならない。地震国に住むことの教訓を改めてかみしめたい。
そして、大地震とどう向き合い、発生後にどう対処するかがこの国の政治の重要課題だ。