平和条約交渉 露ペースにならぬよう
第二次大戦後70年余を経て、なお平和条約が結べない異常な隣国関係に終止符を打てるか。日露交渉の仕切り直しである。
5月に安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領は「これまでの発想にとらわれない新しいアプローチ」で交渉を進めることに合意した。これを受けて再開された外務次官級の平和条約締結交渉で、双方が「新しいアプローチ」についての考え方を互いに提示した。9月までに次の交渉が行われる見通しだ。
日露は北方四島(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)の帰属を確認して平和条約を締結することで合意している。だがウクライナ問題をめぐるロシアと米欧の対立を背景に交渉は停滞し、互いに四島領有の正当性を主張して議論は平行線をたどってきた。
今後はこの流れを断ち、双方が折り合える解決策に焦点を切り替えて交渉を進めることになる。
長い日露交渉の歴史では、「2島先行返還」や「共同開発」などさまざまな案が浮上しては合意に至らず消えていった。双方が改めて大局的な見地から判断して、打開策を探っていかなければならない。
安倍首相は、幅広い分野で日露関係を発展させながら領土問題の解決を目指すと説明している。台頭する中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応は、日露が共有する安全保障上の課題でもある。日露関係の強化は北東アジア地域の長期的な安定のためにも重要だ。
ロシア側は経済協力を強く求めている。今年になって産業貿易相や極東担当副首相ら閣僚が相次いで来日し、政府間で具体化の作業が進められている。9月にロシア極東ウラジオストクで予定される首脳会談で経済協力の内容を詰め、これを成果に年末にも大統領が訪日して正式合意するというのが現時点で想定される可能性だ。だが経済ばかり先行して領土問題が置き去りにされることがないよう注意すべきだろう。
ロシアが日本との関係強化に積極的な背景には、ウクライナ問題で対露制裁を続ける米欧日の結束を揺さぶる思惑もある。日本にはバランスに配慮した外交が求められている。
今年は日ソ共同宣言による国交回復から60年の節目である。当時領土問題で折り合えず実現しなかった平和条約の締結を、安倍首相は自身の政権で決着させたいようだ。13回も首脳会談を重ねてきたのはその意欲の表れだろう。強大化する中国をけん制する狙いもうかがえる。
しかし、交渉相手はしたたかだ。ロシア側のペースに乗せられることがないよう、国益を踏まえた戦略的な交渉が求められる。