金融資本主義は2008年の世界的な金融危機を乗り切った。しかし、自由民主主義は厳しい状況に直面している。この2つには関連がある。
西側諸国の政界の支配層は至る所で追い詰められている。排外主義を掲げる不動産王のドナルド・トランプ氏は、米大統領選の事実上の候補者になった。フランスの極右政党「国民戦線」の党首のルペン氏は来年、大統領の椅子を狙っている。
■政治の伝統崩壊 計り知れぬ影響
実利主義で穏健で、物事を慎重に進めていく傾向がある英国が、これまで政治的に築き上げてきたものを一瞬のうちにすべて打ち壊してしまうとは誰が想像しただろう。23日の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の結果は現状に対する反乱であり、国内外へ及ぼす影響は戦後、欧州で起きたどんな重要なできごとにも劣らぬほど甚大だ。
かつて冷静沈着だった英国民がなぜ経済的利益に反し、EUからの離脱に一票を投じたかについてはいくつも理由を挙げられる。自分たちは特別だという意識、移民問題、恥ずかしいほどに二枚舌で矛盾することを主張した離脱派の運動、一向に増えない所得、金融危機後の緊縮政策などは、すべてその理由だ。
だがこれらをつなぐ糸は、勤勉な労働者階級に不利につくられたと見られている政治経済システムに対する大きな不満だ。
国民投票をすれば保守党が分裂することは初めからわかっていた。離脱派が勝ったのはひとえに、従来、労働党を支持してきた何百万人もの有権者が労働党を見限り、英国独立党が触れ回る反移民政策になびいたからだ。
政治は過去数十年間にわたり、長い歴史ある中道右派と中道左派の既存政党が交互に政権を取り合うゲームのようなものだった。ところが今、英国では保守党と労働党が、欧州大陸ではキリスト教民主党と社会民主党が主導権を失った。
英国はEUから離脱することで国内経済が縮小し、国際舞台では地位が低下する。それは世界に対し消極的な姿勢に転じることを意味する。
スコットランドのスタージョン行政府首相が独立の是非を問う住民投票を再び具体的に計画し始めたら、1つの連合(EU)からの離脱がもう1つの連合(連合王国)からの分裂につながる可能性もある。外国資本や企業が英国から引き揚げれば、経済は後退に向かうかもしれない。
派手だが実態を正確には説明しないジョンソン前ロンドン市長が率いた離脱派は、こうした事態に対処する計画を一切持ち合わせていない。ジョンソン氏はキャメロン首相に代わり、首相の座に就くという熱烈な野望を抱き、それ以外のことは考えていなかった。