挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
終わりなき進化の果てに──魔物っ娘と歩む異世界冒険紀行── 作者:淡雪 融

第一部 幼少期編

1/29

書籍化該当部分1

 ハルヴェリア王国代三都市ハーガニー。

 南を大河ハーグが流れ、ハーガニーは大河ハーグの就航点となっている。
 また、大河ハーグの河口にはハルヴェリア王国第二都市コーデポートが栄えているため、ハーガニーとコーデポートを繋ぐハーグ河は船の行き来が多く見られる。

 そんな大都市ハーガニーには二重の市壁があり、東西南北八つの門と検問所が設置されており、魔物の襲来や密輸の防止に役立っているのだ。
 そして東門と西門、北門と南門を繋ぐ二つの大通りがあり、それらが交差する場所を噴水広場という。

 読んで名のごとく、巨大で煌びやかな噴水がある噴水広場は、ハーガニーの中で最も賑わう場所であり、旅の吟遊詩人や踊り子、立ち並ぶ屋台を楽しむことができる。
 その噴水広場沿いにはカフェ・デル・ソルをはじめ、様々な飲食店があり、俺もその内の一つ、喫茶店『レゾナンス』で優雅な朝を迎えていた。

「お待たせしました、モーニングコーヒーでございます」

 カタリ、と音がして目の前のテーブルに、一つのコーヒーカップが置かれる。
 窓の外を見遣っていた目線を、その音の主に向ければにっこりと微笑むウェイトレスがいた。

「ありがとうございます」

「では、ごゆっくり」

 そう言って銀製のトレイと共に厨房へ戻っていくウェイトレスを見送って、俺はやはりこの世界(・・・・)は美人が多い、とふと思った。
 この世界、という表現を使ったのは、俺の前世は地球の日本、東京にいる変哲のないただただVRMMORPGが好きな男子高校生だからである。
 顔も頭もスポーツも悪くないのに、なぜか彼女ができなかった俺はVRMMORPGの世界に現実逃避してしまったのだ。

 今思えば、このおかげなのかこうしてこの世界、正式名称オーギュスタットで生きることになったのだが。
 そして、この世界に生まれ早十三年。
 俺は心まで完全にこの世界に馴染んでいた。

「……ふう」

 豆の香ばしい香りを鼻で味わいながら、俺はコーヒーカップの縁に口を付ける。
 異世界でもコーヒーの匂いは同じだ。

 ヴェルは何やらネーファと話すことがあるようで、俺は先にここに来ていた。
 テーブルで一人することもなく窓から噴水広場を眺め、目線を上に向ければ市壁越しに西から北まで延々と聳える山脈が見える。
 うちの地元、ロイム村はあそこあたりにあるのだろうな、と見当を付けながらコーヒーを少し喉に入れた。

 そうこうしているうちに、ロイム村を眺めていたからか、ロイム村での十三年の生活の思い出か泡のように記憶の淵から湧いて出てくる。
 懐かしい過去の追憶に思いを馳せ、俺は陽気な朝の日差しに瞼を閉じた。


◆◆◆


 俺は地球という日本から、この世界オーギュスタットに転生してきた人間だ。
 トラックという鉄の箱に直撃し、死んだ俺は冥界にて変な暑苦しいオッサンと出会ったのである。
 至極悲惨な理由で死んだから、という謎理論でオッサンに好かれた……いや、この言い方は語弊があるな。オッサンに気に入られた俺はオーギュスタットという異世界にて転生することを許されたのだ。
 大量のボーナスと共に。

 そういえばボーナス選択の際、精霊の護り人であるアニエスカさんと出会ったのだったな。
 藍色のロングヘアをサイドテールに纏めていた彼女は、何か色々と扇情的だったのを覚えている。
 大量ボーナスが貰える金券は二百年ぶりの珍事らしく、何やらアニエスカさんが発情していたものだ。

 アニエスカさん、可愛かったなぁ。
 器量は良いとは言えないが、むしろそれがモデル体型にさせているのだ。
 そして、なんと言っても、天然のきらいがある。

 そして、俺はロイム村、正式名称ロイム辺境伯領の領主の次男として生まれ変わったんだ。
 ロイム村領主、茶髪茶目というこの国で最も一般的な風貌のパブロ・ラ・フォンテーニュ、その妻、金髪碧眼のエレーネ・ラ・フォンテーニュが俺の両親だ。
 そして、身の回りの世話をメイド長のデボラがやってくれる。
 日本のような娯楽はないのに、ファンタジー世界にいる、それ自体がワクワクで、ずっと生活を楽しむことができていた。

 転生の際、得た特殊スキルは以下である。

【創造王 15】
【調教王 15】
【体術王 15】
【極限突破 20】
【王の系譜 20】
【冥界の加護 0】
【男は拳で語る 0】
【牡のフェロモン 5】
【絶倫 5】

 そして、特殊スキルの効果は以下の通り。

【創造王】
……一般スキル【王級工房】追加。また一般スキル【鍛冶】【錬金】【調合】【建築】【ステータス可視化】【鑑定】追加。

【調教王】
……一般スキル【調教】追加。また、隷属状態下の魔物の進化は、より希少なユニーク系統を必ず辿る。

【体術王】
……体力、筋力、膂力、敏捷にステータス補正極大。

【極限突破】
……パーティー全体に効果。スキルの極限突破が可能になる。また一般スキル【スキル成長速度極大】追加。

【王の系譜】
……王族やそれに準ずる地位と関わりを持ち得る運を高める。パラメータ補正【カリスマ極大】。また一般スキル【指揮】追加。

【冥界の加護】
……パラメータ補正【魔力最大量極大】【闇系統魔法威力極大】【闇以外の系統魔法威力極小】追加。
一般スキル【暗黒魔法】【混沌魔法】【煉獄魔法】追加。
 また、複数属性の魔法の際、闇属性が含まれていれば【闇魔法威力極大】の恩恵を受ける。

【男は拳で語る】
……パラメータ補正【近接武器適性極小】追加。またナックル系統武器、遠距離武器は例外となる。

【牡のフェロモン】
……パラメータ補正【魅力極大】追加。また一般スキル【甘いマスク】追加。

【絶倫】
……一部状況下においてパラメータ補正【スタミナ極大】【体力極大】追加。また一般スキル【精力回復】追加。

 何やら特殊スキルの効果によって、俺は様々な一般スキルも得たようで、その恩恵は今となっては計り知れないものがある。

一般スキル

【鍛冶】
……鍛冶の適性を持つ。

【錬金】
……錬金の適性を持つ。

【調合】
……調合の適性を持つ。

【建築】
……建築の適性を持つ。

【王級工房】
……目の前に工房を出現させる。全ての既知レシピと鍛冶、錬金、調合、建築に必要な道具が揃っている。

【鑑定】
……武器防具装飾品の能力値を読み取ることができる。また人や亜人、魔物の情報を読み取ることができるが、読み取れる情報には限界がある。離れた対象にも使用できる。使用者の実力と鑑定による情報は比例するが、信頼し合った対象は例外である。

【調教】
……魔物を調教し、隷属状態下に置くことができる。但し、隷属状態下に置くことができる数はスキルレベルと同値である。また、隷属状態下に置くためには、自らの優位性を示す必要がある。

【指揮】
……パッシブスキル。指揮力が上がる。パーティー内の連携力、統率力が上がる。

【暗黒魔法】【混沌魔法】【煉獄魔法】
……【闇魔法】のユニーク上位スキル。

【甘いマスク】
……パッシブスキル。恋愛感情を抱かれやすい。

【精力回復】
……夜の営みの際、精力が尽きる事がない。

 そんなこんなで、俺は異世界生活を満喫していたのだ。

 とはいえ、兄様のアルフォンソには嫌われていたようだけど。
 黒髪黒目であるアルフォンソは両親に似ておらず、俺や弟のミケーレと違って武術に秀でていなかったから、そりゃあ多少はグレてしまうものだ。
 上から目線ではあるが、茶髪碧眼で美形であるミケーレと、金髪碧眼の俺に嫉妬の感情を抱くのも致し方ない。

 母様に、俺は冒険者になりたいんだ、という願望を見抜かれ、どういうわけかスライムの出没する森に行き来できる許可を貰った。
 当時の俺は七歳児だったのに、よくもまあ決断したもんだよ。

 とりあえず、そんなわけで俺は森に行くことになったんだ。
 外から敵が攻めてきたときなど非常時に用いる井戸の底には森に繋がる隠れ道があって、母様から教えられた俺はその道を使って森に行った。
 出てくるのは母様が言っていた通り、スライムばかりで俺は魔法を試しながらレベルアップに勤しんでいたんだ。


◆◆◆


 チリンチリン、と快い鐘の音がする。
 誰かがこの喫茶店『レゾナンス』に入店したようだ。

 その軽やかで優雅な足音は真っ直線に俺の方へ向かってくる。
 それを感じ、俺は瞑っていた目を開けた。

「レン! お待たせっ!」

 明るい溌溂した少女の声が俺の耳朶を打つ。
 俺が七歳児、つまり六年前から毎日聞いてきた可愛い声。

 声のした方を向けば、俺の方へ駆けてくる一人の少女。

 空色の瞳に空色の髪。
 彼女はポニーテールに髪を纏め、足を踏み出す度に結ばれたロングヘアーの束先が左右に揺れる。

 それと対比的に彼女の白い陶器のような肌が、彼女をより印象的にしていた。

 頭に美を何度付けても足りないくらい、この世に並ぶものがないほどの美を持っている。
 まな板のような胸であるが、それは彼女の年齢を如実に現しており、まだ成人していない十三歳なのだから当然。
 だが、そんな貧相さすら、完成された美としてあり続けるのだ。

 彼女の周囲だけ煌めいている。
 否、実際には彼女の周りは輝いていない。
 だが、誰もが認める真なる美は、それを眺める人々に畏怖ともわからないオーラを顕すのだ。

 様々なテーブルの間を抜け、一人の少女が手を振りながらやってきた。
 途中のテーブルに座していた客たちは皆歓談をやめ、まるで神々しいものを見つめるように彼女を見つめている。

 俺はそんな彼女に、とびきりの笑顔で返事をするのだ。

「──おはよう、ヴェル」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ