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天才のナルトと落ちこぼれのサスケ
この作品はリハです。完成次第、pixivにあげるつもりです。
「まだ三時だってのによー」
サスケはため息をついた。木の葉の下忍の一人である彼は第七班メンバーと任務を終えた。彼はいつもいつも雑用のDランク任務ばかりに飽き飽きしていた。
「Aランク任務早く回ってこねぇかな」
「馬鹿ね、そんなわけないでしょ」
第七班の紅一点のサクラは呆れながら言った。
「そうよね、ナルト」
サクラは隣のナルトに話しかける。ナルトからの答えはない。
「まずは中忍になんねぇとな」
「中忍か〜…もう一年も経つのね」
「早かったな一年」
サスケは第七班結成時の頃を思い出した。久しぶりにナルトを見たあの時今まで以上にナルトのことを強く意識するようになった。頭の中であの日から塊となってつっかえていた存在がどんどん大きくなっていった。
「よし、じゃあまず始めに自己紹介でもして貰うとするか」
青い空の下、オビトはサスケたちに言った。サクラが困り果てたように言った。
「…何言えばいいの?」
「え…そりゃ、好きなものとか嫌いなものとか将来の夢とか趣味とか…まぁいろいろだな!」
呆然とする三人をみてオビトはハッと気付く。
「まずは俺が手本をみしてやるよ。俺はうちはオビト。好きなものは……いやいやいやいやなんでもねぇ!嫌いなものは仲間を大切にしない奴だ。将来の夢は火影になること!趣味は~…昼寝かな」
(なんか変な人やって来た)
「俺はうちはサスケ!好きなものは色々あるけど嫌いなものも色々だな…あとそれから趣味は…散歩だな。で!将来の夢は兄さんを越すことだな!」
同じうちは一族であるサスケとオビトは顔見知りだった。昔から変わらない活気にオビトは感心した。
「相変わらず元気だなお前は。んじゃ、次」
「私は春野サクラ。好きなものは…」
不意にチラッとサスケを見る。バッチリ目が合ってしまった。サスケはそれに気づいて嬉しそうに自分のことを指差す。
「嫌いなものはサスケです」
サスケは突然の宣告にショックを受ける。
「えっ!?嘘だろサクラっ!」
「嘘じゃないわよこの変態」
「えーー俺のどこが変態なんだ?」
サスケは自分の身体をペタペタ触る。サクラはその姿を本当に嫌そうに見つめる。
「全体的に」
「酷っ…」
「はい、次」
「…俺はうずまきナルト。好きなものはラーメン、嫌いなものは生野菜だ。趣味は特にない。将来の夢もない」
その冷たい口調は辺りを凍らせた。サスケはその時また心が締め付けられるような苦しさを感じた。昔のナルトを思い出し、重ねても似て似つかない。もう別人だった。あの時のナルトにまた戻って欲しいと幻想しても冷酷な視線で返される。
それからナルトと同じ班になってもナルトのことを結局あまり分かることはできなかった。
「なぁナルト。お前ってまだ将来の夢決まってねぇの?」
サスケは首の後ろに手を組みながらナルトに聞く。ナルトは少しの沈黙をおく。
「将来の夢なんて決めたところでどうせ叶わない」
「でもそれって分かんねぇじゃん。努力したら叶うかも知んないし」
「じゃあ過去に戻りたいと言ったら出来るのか」
「それは…じゃあ何、お前過去に戻りたいの?」
「ちょっとサスケもナルトもさ…」
「…俺は父親を殺す。絶対だ」
「父親…って……」
サスケもナルトにとってのその人はナルトの人生をも動かす人と知っていた。
「ミナト事件…」
ナルトがわずかに反応した。サスケが口を開いた時、
「やぁみんな。任務は終わったのか?」
サスケの背後には任務帰りのサスケの兄、イタチの姿だった。十三歳で暗部(木の葉暗殺警務部隊)部隊長になったまさに天才の中の天才である。
「兄さん!?今日は任務早かったな!」
「うん、巻物届けるだけだったからな」
ナルトが動き出した。サクラが声をかけるがナルトはそのまま歩き続けた。
「ちょっとナルト!…もう、サスケがあんなこというから怒っちゃったじゃない」
「えぇぇえ、だってあいつってよく分かんねぇし…」
「それでも言っていいことと悪いことがあるでしょ!」
「弟がいつもごめんね…」
「あ、いやイタチさんはいつもいつも優しくて、ありがとうございます。絶対にあんなこと二度と言わないでよっ!」
「分かった分かった分かったって」
サスケはまた面倒なことになる前に冷や汗をかいて謝った。サクラは大きな溜め息をついた後、イタチに一礼をした。
「それじゃ、失礼します」
「気をつけてね」
サスケとイタチも歩き出した。サスケはいまだ納得していない顔だった。
「なぁ兄さん、俺ってあいつに嫌われてんのかな?」
「サクラさんかい?」
「いや、サクラはきっといつか俺のこと好きになると思うんだけど…問題はナルトなんだよな…」
「……」
「あいつってさ…頭の中やっぱお父さんのことで一杯なのかな…?」
イタチは何も言わなかった。サスケに何を言えばいいのか分からなかった。サスケは知らない、しかしいつか知ることになるそのことをサスケに伝えなければならない時が来る。そしてサスケはその重い現実を受け止めなければならない日がやってくる。その時のサスケの顔を想像するとどうしても言葉が出てこなかった。
「兄さん?」
「?あぁごめんごめん。あそうだ、今日の晩御飯は何がいい?」
「ん~何でもいいや!」
「そっか」
少し傾きかけた太陽が兄弟を照らしていた。
「ただいまー!」
久し振りに兄が早く帰ってきたのに興奮したサスケは大声で叫んだ。有り余る元気にイタチは驚く。あのな、あのな、と今日あったことを語り注目してもらおうとする姿にイタチは微笑んだ。
「サスケ、そんなに急がなくても後で話を聞いてやるぞ」
「えー、兄さんいつもいつもそうやって結局聞かねぇじゃん」
「ごめんごめん、でも今日はこの後するのは家事くらいだから」
「まじで!?よし!じゃあ俺兄さんの手伝いする!」
「うーん…じゃあサスケに洗濯物取り込んで畳んでもらおうかな」
「オッケー!」
兄の力になれる、それだけで嬉しかった。近くて遠い存在だから。勢いよく庭の方へ駆けようとするサスケは急に首元を引っ張られた。
「ぅおっ!?」
「こらサスケ、先に父さんと母さんにただいまを言わなきゃダメだろ?」
「あ、忘れてた」
サスケは照れ笑いしながら両親の部屋に入る。ふわりと色あせた匂いがする。仏壇の前で手をあわせ黙祷する。
サスケには両親が生まれながらいない。唯一残された家族の兄、そしてうちは一族の人々に愛されて育った。だから親の顔も声も知らない。この人達が親であるのは知っているが理解は出来ていない。微妙な感じだ。今日の出来事を完結に伝え、立ち上がった。何度見ても実感がわかない。この人達が自分を抱きしめたこと。名前をつけてくれたこと。死んでしまったこと。何も覚えていない、何も分からない、他人だった。
「サスケー、そろそろ入っていいか?」
「あ、ごめん。入っていいよ」
「今日は長かったな」
「ちょっとね、色々あったから」
「そうか」
イタチと入れ替わり、部屋から出る。うーん、と伸びをするとサスケは足取り軽く庭に向かった。
「いただきます!」
「いただきます」
今日はサスケの大好物のトマトを使ったトマトサラダがあった。真っ先にそのトマトを食べると口を開いた。
「今日さ、なんかナルトが変だったんだよな」
「ナルト君?」
「うん、なんか知らないけど四代目のこと言うとすっげえ機嫌悪くて」
「……まぁ、一応犯罪者だからな」
「でもさ、父さんだろ?家族なのに…」
「ミナトのことはナルト君にとってコンプレックスなんじゃないかな」
「コンプレックス?」
「犯罪者を家族に持ったら恥ずかしいと誰でも思うだろ?」
「んー確かに…」
「あまり触れない方が良いと思うぞ」
「昔は明るかったんだよ、あいつ」
「……」
イタチは箸を止める。サスケの顔は悲しげだ。
「いつも一緒に遊ぼうぜって声かけてくれたんだ」
「そっか、良かったな」
イタチは話題を変えようとした。この話はあまりいい方向に行かないのは明白だった。
「四代目はナルトに何したんだろう……ナルトの母さんってそれで死んじゃったんだよな?」
「サスケ」
イタチがサスケを叱る。サスケはまさかイタチが怒るとは思っていなかったので恐縮する。
「何度も何度もミナトについて口にするな。里の掟でタブーと定められていると知ってるだろ。それにミナトは四代目火影じゃない。彼は犯罪者だ」
「……ぅ、うん」
サスケが少し項垂れる。イタチは少し強く叱り過ぎたかと思う。
「お前が興味を持つのも分かるけどな。ミナトについてタブーにされているのは里の名誉を傷つけることを防ぎ、その惨劇をこれから生まれてくる子供達に伝えないためだ。サスケ、お前達が若い忍達を教える立場になった時にいかに彼らが胸を張って木の葉の忍であれるかどうかはお前達にかかっていると俺は思う」
「……はい」
「でもお前は優しいな」
「えっ?」
「仲間のことを気遣える、立派なことさ」
「……あ、当たり前だぜ!俺はいずれ兄さんを超える強い忍になってやるんだからな!」
イタチは笑みをこぼした。やっぱり、幸せだ。誰かといるって、笑って話し合う人がいるって、幸せだった。イタチが両親を失った時、まだ五歳だった。広く薄暗い部屋に永遠と泣き止まない置いてかれたサスケの泣き声だけが響き渡った。遊びたい心を我慢し家事とサスケの世話に押され、悲しみに蝕まれ続ける心を整理する余裕もなかった。そんな時、ミナトはうちはの冷たい視線を押しのけ妻子と共に家に訪れてきてくれた。久し振りに休めて、笑顔になった。家事を教えられて上達したお陰でサスケの世話と家事、任務がなんとか上手くいくようになった。
誰もが彼に裏切られた。彼の優しさに魅了された。
ドアが閉まる音が響く。ナルトはベッドに座り込むとゆっくりと目を閉じた。
『ミナト事件…』
ナルトは耳を塞いだ。鋭い耳鳴りがたくさんの声と共鳴する。
『あの子です、例の…』
『ついて行っちゃだめよ』
『お母さん、今日何時くらいにお父さん帰ってくるの?』
『彼を生かしておくべきでしょうか』
『兄さん』
目を開けるといつも通りの景色が広がる。暗く沈んだ空気の中に木漏れ日が混じる。馬鹿らしい、と一言残して立ち上がるとバタンと何か倒れる音がした。ナルトが目をやるとそれは第七班結成時に撮った写真だった。無表情のナルトにサクラ叩かれて頬を痛そうに擦るサスケ、ご機嫌斜めのサクラと満面の笑みでピースをするオビト。ナルトは写真の中の自分を見て拳を握り締めた。あの時から何も変わってない、自分は何もかわっていないじゃないか。このままでは仇を討つことはおろか、父親に会うこともできなくなってしまう。やはり流されてはいけない、こいつらと違って俺は絶対に成し遂げなくてはならないことがある。
「夢なんて言葉で終わらせてたまるか」
その時、ドアがノックされる音が響く。ナルトがドアを開けるとオビトの姿が。
「…何しに来た」
「やぁナルト。一緒に飯、食いに行かねぇか?」
「…野菜は食わない」
「何言ってんだ。野菜は食わないといけないってお前の母ちゃんも言ってただろ?」
「うるさい、母のことを軽く口にするな」
「悪かった悪かった。今日は一楽おごってやっから」
「…………」
ナルトは何も言わずにドアを閉めた、と思ったら驚きの速さで準備を終えやって来た。
「今日も豚骨味噌シャーシューでいいのか?」
「……説教は受けない」
「何だよ素っ気ないな~俺がお前にいつ説教なんか垂れたんだよ~」
オビトはナルトの肩に腕をかける。一楽に着くとそこにはオビトの同期、カカシの姿が。彼も暗部の一員である。
「よぉカカシ!お前今日の任務はどうしたんだ?」
「ちょっと早く終わってね。することもないからここで暇を潰してるってわけ」
「なんだったら俺が相手をしてやろうか?」
オビトは自慢げに言うとカカシは首を横に振った。
「あー後でガイの相手もしなきゃなんないから結構です」
「お前もすたれたもんだな。昔の活力はどこに行ったんだ?」
「あのね、俺はあんたたちと違って忙しいの。おじさんになるってこういうことなんだよ」
「俺も最近肩こりが取れなくてさ~…」
オビトが肩を回すと肘にどんぶりが当たった。横を見るとそこには何枚にも重なったどんぶりの姿が。
「ナっ、ナルトお前どんだけ食って」
「おかわり」
「いや待て待て待て待て待ちたまえ」
「あいよっ!」
「あーっ!ちょっ、ストップ!ストップ!!」
オビトの止めが入りなんとかオビトの財布は助かったもののすっかり薄くなってしまった。
「お前がすげぇ量食うの忘れてた…しまった…」
平べったくなった財布を見てオビトは強く後悔した。ナルトが突然口を開く。
「オビトってさ…」
「ん?」
「俺の父のことをどう思ってるんだ?」
カカシのイチャイチャパラダイスを読む手が止まった。オビトはあまりにも抽象的すぎる質問に困惑する。腕を組み、うーーんと唸る。
「お前の父さんは素晴らしい忍だったよ」
カカシが口を開いた。
「けれど、今はそれも過去の虚像さ。タブーとなってあったけど無かったものになる。そして今のちびっ子たちはその存在を知らずに育っていつしかその存在は誰も知らない偽りとなるんだよ」
淡々と言うカカシにオビトが批判する。
「カカシ、お前なんでそういう事を言うんだよ」
「俺が知りたい事はそんな事じゃねぇ」
ナルトの声がオビトとカカシを黙らせる。その目の中に宿る冷たさにカカシは何か感じた。
「お前はお前らの師であり、里の長であった奴の行動をどう受け取ったんだと聞いている」
「ナルト、お前は何をしようとしている」
カカシとナルトの視線が交じり合う。オビトはその2人を見て嫌な予感がした。
「知りたいのか?真実を」
「ダメだカカシ!いい加減にしろ!」
オビトが荒々しげに立ち上がる。
「これ以上はナルトが知ったところで良いことは起こらない。それにタブーになってるんだぞ?それを口にすることの意味が分かってるのか」
ナルトが立ち上がった。
「ぉ、おいナルトっ!」
オビトの止めは強い睨みつけとなって返ってきた。オビトはため息をついて椅子に座り込んだ。
「オビト、まだナルトに教えてなかったのか」
「…でもナルトはそれを知ってもそれをナルトがどうこうできるわけじゃないだろ」
「でもナルトは知りたがってるんだろ?一体どうするつもりなんだ」
「分からねぇ…」
「オビト、お前が黙っているのはそれを教えた時ナルトを止められる自信がないんじゃないか?」
「……じゃあどうすりゃ良いんだよ。俺はあいつに、先生が望んでいた通り1人の立派な忍に育ててやりたいんだよ。これから中忍試験もあるし」
「じゃあ中忍試験をしてから決めれば良いんじゃない?」
「どういうことだよ」
「だから、中忍試験を終えてからナルトが真実を知る器かどうか決めれば良いんじゃないって言ってんの。いわゆる、チームワークってやつ?」
オビトは少しの間考えてから呟いた。
「…試してみるか」
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