佐々木倫子がおくる極上コメディ『Heaven?』の魅力
『動物のお医者さん』や『おたんこナース』で有名な佐々木倫子が、フランス料理店を舞台に極上コメディ漫画を描きました。その漫画こそ『Heaven?』です!読んだ人はそのおもしろさに魅了されています。この漫画の魅力について調べてみました。
『Heaven?』とは?
『Heaven?』は、佐々木倫子が描くフランス料理店コメディ漫画。単行本は小学館ビッグコミックスより全6巻で刊行されています。その後、小学館文庫版でも全4巻で刊行されました。連載は『小学館ビッグコミックスピリッツ』で1999年~2003年までで、全6巻の単行本が発売されたのは2000年~2003年までとなっています。
『Heaven?』のストーリー
「この世の果て」という名のレストランはどの駅からも遠かった。
繁華街からも 住宅街からも 利益からも遠く
なにより理想のサービスから遠かった 果てしなく
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』1巻1話
『Heaven?』の舞台は、駅からも遠く、墓地の真ん中にあるフランス料理店「ロワンディシー」です。「ロワンディシー」は「この世の果て」という意味の名前。オーナーの黒須仮名子は、超利己的主義の性格ですが、人を巻き込む才能に秀でていて、自分の作る理想のレストランのために自分で従業員をスカウトしていました。最後にスカウトされたのが、フランス料理店に3年勤めていた伊賀観。
伊賀は、自分が接客業に向かないのではないかと悩んでいたところ、黒須にスカウトされ、黒須のいう理想のレストラン像が自分の思うところに近かったため、そのスカウトを受けます。しかし、他に集められていたサービスマンたちは全てフランス料理店未経験者。3年しか勤めていないだけの伊賀が「シェ・フ・ドラン(上級ウェイター)」となり、「ロワンディシー」のサービスの要となることになります。
他にも、一癖も二癖もあるスタッフたちは、多くの課題を抱えながらも、4日後に決められていたレストランオープンに備え、寝ずに準備を始めます。なんとか無事にオープンしても、各ストーリーごとに問題が起こり、毎回オーナーのめちゃくちゃな発想や伊賀たちスタッフの機転により解決していきます。そして、「理想のサービスとはなにか」をそれぞれのスタッフたちが考え、成長していくのです。
佐々木倫子が描く世界は綿密で面白い!
佐々木倫子とは?
作者は佐々木倫子。佐々木倫子は、北海道旭川市出身、1961年10月7日生まれの54歳。1980年に漫画家としてデビューしています。それ以来、多くの作品を生み出しましたが、中でも『動物のお医者さん』は世の中にハスキーブームを巻き起こすほどの大ヒットとなりました。他にも、『ペパミント・スパイ』『おたんこナース』『チャンネルはそのまま!』などを制作しています。
佐々木倫子の描く漫画がヒットする理由
佐々木が1988年から制作した漫画『動物のお医者さん』のヒットの要因は、作者の佐々木による綿密な取材と、登場人物たちの関わりの描き方の秀逸さでした。それは、今までの少女漫画とは一線を画していました。
『動物のお医者さん』の舞台は、北海道の札幌市にある「H大学 獣医学部」。世の中の人々が知っているようで知らなかった獣医になるまでの世界を、丹念に細かく描きました。そして、その際、獣医になるまでの情報だけを取り入れるのではなく、登場人物たちの関わりにうまく織り交ぜる形で完成させることで、世の中の感心と面白さを共存させたのです。
佐々木の描く作品は、事前に「これでもか」というほどの取材を重ねて制作されています。取材を佐々木がうまく料理することで、作品の中で輝いてくるのです。『Heaven?』でも、佐々木ならではの綿密な取材と、登場人物たちとの関わりがうまく料理され、制作されているため、ヒットしているのです。
『Heaven?』の登場人物たち
営業スマイルが苦手な伊賀観
「このような場面で笑えません。」by伊賀
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』1巻1話
営業スマイルができないフレンチレストランのサービスマン・伊賀観。融通も利かず、理不尽な客の怒りを買うこともありました。その時の毅然とした態度が「ロワンディシー」オーナーの黒須仮名子の目にとまり、「ロワンディシー」にスカウトされます。
フレンチ経験3年で、「ロワンディシー」の中で、唯一のフランス料理店サービスの経験者となります。怒ることや、感情豊かに笑ったり泣いたりすることはなく、淡々とした性格をしています。個性豊かな「ロワンディシー」の従業員たちやお客様のクッション役として常に活躍しています。
オーナーの理不尽な要求にも怒ることはなく、他のスタッフたちも伊賀が怒ったところを見たことがないため、伊賀を怒らそうと奮闘する場面も描かれています。また、伊賀がこのような性格になったのは、オーナーに負けず劣らず利己的で自分中心の母親に育てられたためでした。途中で、そんな伊賀の母親とオーナーの対決も巻き起こります。
めちゃくちゃなのに人間味あふれるオーナー・黒須仮名子
「いつものことながらわがまま言いたい放題で!
だからしっちゃかめっちゃかだったんだよ!!」byロワンディシースタッフ
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』3巻20話
「ロワンディシー」のオーナーの黒須仮名子は、ミステリー小説を書いて得たお金でフランス料理店を開業しようとます。自分の理想とする店を開くため、周りを巻き込み、用意もほぼないままで、ほとんどスタッフ任せで開業にこぎつけます。開業した後は、「ロワンディシー」で、食べたい時に食べたいものを食べる生活をおくっています。超利己的主義で、自分の欲望を満たしたいだけに一生懸命動く姿は、ある種、すがすがしくもあります。
元は牛丼屋の店長・堤計太郎
「牛丼を食べつくしてしまった。一生分」by堤
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』3巻24話
元は牛丼屋の店長で、「ロワンディシー」の店長となったのは堤計太郎。フレンチ経験のない堤は、これまでの牛丼屋だけでの経験と、めちゃくちゃなオーナーの方針もと、「ロワンディシー」の経理に四苦八苦します。牛丼屋を辞めた理由は、牛丼を食べすぎて牛丼が人生の定量に達したから。「ロワンディシー」の中では、常識人のうちの一人です。
銀行を定年退職しソムリエを目指す・山懸重臣
「伊賀くん、きみはじいさんに弱い」by山懸
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』3巻19話
元銀行員の山懸重臣は、フレンチ経験は全くないものの、念願だったソムリエの資格取得のために奔走します。山懸は現役時代は営業職もつとめていたので、接待の席での作法をよく知っていて、接待客をうまくサポートしようとしていました。人とのかかわり方が上手く、特に伊賀に対しては「じいさんに弱い」と知っていて、色々とお願いをしたりしています。オーナーの黒須とは、銀行員時代に銀行取材対応で出会ったようです。
まったく経験なしの素人・川合太一
「気にしないにもほどがあるー!!」by山懸&堤
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』2巻17話
元美容師見習いだったものの、シャンプーすることに飽きて転職を決意した川合太一。明るい性格ですが、物事を覚えるのが遅いので、なかなか戦力になりません。しかし、人に好かれる才能はあるようで、特に女性客の心を強くつかんでいるという一面も。子どものように素直で、霊感も強く幽霊が見えたり、伊賀のことが大好きな性格をしています。誰かに注意されても、怒られても、全く気にしない性格でもあります。
腕では一流なのになぜか店をつぶすシェフ・小澤
「たとえこの店がつぶれても私たちはシェフについていきますから」byシェフの料理のファン
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』1巻5話
腕は一流で美味しい料理を提供できるのに、なぜか行く先々の店をつぶすシェフの小澤。自分は悪くないのに、何店も店もつぶしたため、このシェフが来ると潰れると噂が立っているのか、ほかのオーナーは小澤を雇いたがらないでいました。そんな小澤を、黒須は「掘り出し物」だと思ってスカウト。むちゃくちゃな黒須に怒りながらも付き合い、店のシェフとして活躍しています。味と腕は一流のため、シェフが辞めて新しい店にいっても、そこでまた常連になるというシェフ付きの顧客もつかんでいます。
ありえないのにありそうな事件簿
予約時に電話番号を聞き忘れて大変な事態に
「川合くんが電話番号を聞いていればこんな苦労はしなかったのよ!」by黒須
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』1巻7話
業務に慣れない川合太一が電話で予約をとったのが3組の「山田さま」。相手の電話番号もきちんと聞けていなかったので、その山田さまの同じグループの人が間違ってそれぞれで予約を取ってしまっていたかどうかも確かめようがありませんでした。実際、山田さまは3組来店。
しかし、そのうちの1組の山田さまに傘を誤って渡してしまったことが判明します。しかも、その間違って渡した傘は、本当の持ち主のお客様の「亡くなった息子の形見の傘」という替えのきかないものだったのです。最初に川合が電話番号を聞かなかったことで、傘を持って帰ってしまった山田さまの電話番号もわからず、ロワンディシーのスタッフ総出で山田さまを探します。
この話は、レストランの予約時に聞く電話番号の大切さと、レストランスタッフたちがどの程度お客様をみながらどのような方だと推測しているのかがよく分かります。ありえない事件なのに、どこのレストランでも巻き起こってしまいそうな、そんな事件に感じるのです。
気を使いすぎるお客様に食事を楽しんでもらいたい!
「僕の責任なんですーお願いですから気にしないでください!!」by伊賀
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』2巻16話
混み合う店内で席を確保して、タダで料理を食べる自由なオーナーの黒須に対し、予約で来店した影島夫妻は気を使いすぎる性格をしていました。最初は、店の都合も考えてくれるお客様で律儀な人だと思った伊賀だったものの、途中で「お願いだから気にしないでください!!」と伊賀が心の中で叫んでしまうほどの気遣う性格をしていた夫婦。
自分たちの楽しみで料理を食べると言うよりも、店の都合に合わせて料理を選んだり、料理の間を声をかけずに待っていたり、自分たちの都合を全く押し付けないことで店との歪みが生まれてきます。楽しんで食事をしてもらえていないことに、自分の責任を感じる伊賀は、できるだけ影島夫妻に食事を楽しんでもらおうと奮闘します。しかし、その伊賀の行動も次々と裏目に出てしまうのです。
客は、緩慢になりすぎてもいけない。しかし、気を使いすぎて、本来の楽しさを見失ってもいけない。店で食事をしたり、買い物をするときに、忘れてはいけないことが話の中に含まれています。
決められた予算内での自由さと不自由さ
「5万円……!?一人で……!?料理だけで……!?
本当か……!?夢じゃないんだな……!?」by小澤
出典:佐々木倫子 漫画『Heaven?(全6巻)』5巻32話
手軽なフランス料理を提供しているロワンディシーに、ある日、1人5万円のメニューの予約が入ります。今まで高い食材を使いたい気持ちを、ずっと我慢しながら料理していたシェフの小澤は、やりたいことが次々と浮かぶものの、色々考えてみても予算に見合ったものが思いつかない状態に陥ります。予算の不自由さに慣れすぎて、予算の自由さをうまく活かせない小澤シェフが行きつく先には何があるのでしょうか……。
実際、仕事をしている中で決められたことに不自由さを感じることはいくらでもあります。しかし、実際自由になってみると、その不自由な時代もいい時代だったと思うものなのでしょうね。
『Heaven?』の考察
フランス料理店の裏側
フランス料理店と聞くと、毎日気軽に通える店ではないだけに特別な時に行く店というイメージの人も多いでしょう。そんなフランス料理店の裏側を知る人は少なく、のぞいてみたい世界でもありますよね。そこに目をつけたのがこの『Heaven?』。フランス料理店の裏側を垣間見ることができます。どんなに裏でトラブルが起こっても、お客様の前では笑顔のスタッフたちの苦労とやりがいを感じることができます。そして、どんなタイミングで料理を出すのか、客との距離感とは、店での原価率や回転数などの知識も得ることができます。
働いているのは癖のある人ばかり
登場人物紹介を見ても分かるように、「ロワンディシー」で働くのは一癖も二癖もある人々。そんな人々が集まると、不調和音になってしまうと思いきや、それぞれの特長を生かしながら、日々レストランで起こる事件や出来事に真摯に向き合う姿が見られます。「理想のレストラン」の姿を、それぞれのキャラクターがそれぞれの性格で目指していきます。
人生の道しるべ
融通の利かない伊賀は、事あるごとに自分の融通が利かなさを突き付けられる場面に出くわします。しかし、そんな伊賀の接客を、評価する人も多数存在しているのです。融通が利かない自分を、伊賀自身、徐々に受け止めていきます。まったく逆の性格で、決して懐柔することのない姿勢のオーナーには、伊賀はすがすがしささえも感じています。
自分中心で感情豊かなオーナーの黒須も、人をひっかきまわし、うまく周りにフォローされながら、レストラン運営を前に進めていきます。人に一任……悪く言えば人に丸投げしてしまう部分もあることで、レストランの従業員が一致団結する場面も多々見られます。人は、それぞれに合った責任を持たせれば、輝くことを意味しているように感じます。
2人の全く性格の違うキャラクターを中心に、癖のある従業員たちが、それぞれにうまく人間関係を築きながら、レストランという職場の中で自分のやりがいを見つけていく様は、人生に迷う人たちの道しるべにもなるような気がするのです。
『Heaven?』の感想
なにより面白い!
やはり感想で一番多いのは「面白い!」というもの。ファンは、『Heaven?』を何度も読んでしまいます。キャラクターたちが極端な性格でわかりやすく、登場人物からの面白みを感じることのできる作品です。
映画化を望む声も!
確かに、映像化したらかなり面白いであろう『Heaven?』。以前、フジテレビ系列で放送された三谷幸喜脚本・松本幸四郎主演のドラマ『王様のレストラン』に近い雰囲気になりそうな気がします。
普段を漫画を読まない人にもおすすめできる漫画『Heaven?』のまとめ
『Heaven?』は、佐々木倫子の傑作であり極上のコメディでもあります。内容もただおもしろいだけのものではありません。緻密な取材をもとに、癖のあるキャラクターたちが織り成すストーリーからは、得るものもたくさんあります。普段、漫画をあまり読まない層にも、自信をもっておすすめできる漫画です。
このまとめのキュレーター
カテゴリ一覧