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持論時論
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2008年1月12日

現代文明のシロアリ「ゲーム脳」

日本大学教授 森 昭雄氏に聞く

ゲーム漬けで前頭前野の発育阻害

 「キレる」とか「むかつく」という言葉に象徴されるように、最近の子供の自己抑制力やコミュニケーション能力の低下傾向が著しくなっている。テレビゲームが、視力低下という目に見えるものだけでなく、脳そのものに影響を与えている可能性があるとして、「ゲーム脳」研究の最前線に立つ日本大学の森昭雄教授に聞いた。
(聞き手・池永達夫)


キレやすく反省もせず/1日15分程度に時間抑制を

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 もり・あきお 昭和22(1947)年、北海道生まれ。日本大学文理学部体育学科卒業、同大学大学院文学研究科修士課程修了(文学修士)。日本大学文理学部体育学科教授。著書に『「脳力」低下社会、ITとゲームは子どもに何をもたらすか』(PHP研究所)、『ゲーム脳の恐怖」(日本放送出版協会)、『元気な脳のつくりかた』(少年写真新聞社)、『ITに殺される子どもたち、蔓延するゲーム脳』(講談社)など多数。「ゲーム脳」問題をテーマに毎年70回程度の講演をこなす。

 ――「ゲーム脳」の問題に行き着いた経緯はどういうものだったのか。

 最初は脳の神経回路を調べるといった動物実験をやっていた。現在の日本大学に赴任してきたら、動物実験をする施設がなかった。やむなく人間を対象とした研究に切り替えた。動物実験をやっても、人間にフィードバックされなければ意味がないわけだから、それはそれで意義があった。

 そこで人間の認知症の研究に入った。脳波を数値化しデジタル化された脳波形を使って、認知症の進行状態を脳波でとらえる研究だ。

 認知症のデータを取り始めたら、ベータ波の減少がその特徴として浮上してきた。

 人間の脳では、最高の司令塔に当たる前頭前野の機能が非常に大切だ。医学的にも認知症には、おでこの部分にある前頭前野の機能低下を伴っているということは分かっていた。それを脳波で実証することになった。

 そこでたまたま大学生の脳波を取った。そうしたら驚いたことに、認知症と同じ前頭前野の機能低下が見られる人がたくさんいた。そこで学生に聞き取り調査をしたら、かなりゲームをやってきたという返事が返ってきた。

 そういう学生ほど、ベータ波が低い。本来、ゲームのことを追及するつもりはなかったが、これを契機に調べるようになった。

 「ゲーム脳」になると、昼間に居眠りをしたり、やる気が起こらない。しゃべらないし、笑わない。表情が欠落したままで無表情、忘れ物も激しい。ゲームだけは集中できるが、それ以外には集中力がない。ひどいのは、キレやすいといった問題もある。

 不登校の問題でも小さい時、ゲームをやって学校に行かなくなったというケースが目立つ。小さい時からゲームやテレビ漬けで、前頭前野の発育発達阻害が起こってベータ波が低下しているのだ。

 こうした細胞が復活すればいいのだが、大脳皮質の細胞というのは一生もので復活はしない。海馬などは一カ月に一回ぐらい細胞が復活するが、前頭前野というのは一生ものだから駄目になると一生、復活しない。

 だから最近の子供たちは事件を起こしても、反省がない。それは、そもそも悪いという判断が起こらないからだ。悪い言い方をすれば、ライオンが犬をかみ殺しても、悪いとは思わないというのと同じだ。人間として最も大事な前頭前野が壊れて、悪いという思いがわいてこないようになってしまったのだ。

 ――昔にも凶悪犯罪はあったが、最近では無表情のまま殺人を犯したり、さらに肉親までも手にかけるといった終末的な現象が起こっている。

 昔は人を殺して逃げ回っても、時効になって、私がやりましたと自首するケースがあった。ずっと悩んでいたからだ。人間というのは悩むものだが、それが最近はない。長崎の事件にしても、ゲームセンターで三歳ぐらいの子供を連れ出して体に傷つけて、屋上から放り投げて、次の日、普通に勉強していた。

 悩みも何もなく、ゲーム感覚だ。だから、そういうところから子供を守るため力を尽くしていかない限り、この国は駄目になる。

 ――「ゲーム脳」にならないためには、どの程度のゲーム時間ならいいのか。

 一人娘がゲームにはまったビル・ゲイツ氏は驚いて、ゲーム機で遊ぶには一日四十五分と規制した。一時間超えないという意味ではこれは評価できるが、やめるという方向であれば、一日十五分程度に抑えるべきだ。それも十五分やったらその三倍、本を読んで感想を手書きで書く。そうすれば絶対、ゲーム脳にはならない。多くてもせいぜい三十分程度だろう。

 ――ゲームにはまる人は、一日何時間程度なのか。

 二十四時間だ。韓国では、死亡したケースもある。普通だと体に悪いとか、自己コントロールが利くが、頭がやられていてブレーキが利かず、結局、死ぬまでやるケースもある。韓国では四、五人が死亡。中国や香港でも死人が出ている。

 ――日本では。

 日本では死人こそ出ていないが、殺人事件が起きている。そういう意味では社会問題だ。気分転換にやるゲームというのはそれほど問題にはならないと思うが、やはり殺したり血が噴き出たりといったゲームは、小さい子供にさせるべきではない。

 一種の学習だから、ちょっと血を見たいとかということになりかねない。実際、米国内ではボーイング旅客機を乗っ取って橋の下をくぐったりという事件があった。それから十代の少年がカーレースで激突して、大事故を起こした事件もあった。

人との触れ合い大切に/旗揚げやお手玉で脳活性化

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 ――ゲームの影響は、昔と変わってはきているのか。

 かなり違ってきている。それは「ゲーム脳」という言葉が出てきたことなどで、「脳を鍛える大人のDSトレーニング」といった脳活性化ソフトとか、体を動かすゲームソフトを開発し、家族で運動するといった新しい遊びの形態のものが出てきた。

 ――頭を使ったり運動とリンクすることで、ゲーム脳の弊害は軽減されていくものなのか。

 詳細なデータはないものの、ダンスゲームなどで前頭前野はよく働く。画面に映像が出て、右とか左とか、体を使うゲームは、脳のホルモンであるソルセロトニンという物質も出てくる。その意味では、指だけのゲームよりはましだと言える。

 ――これからのゲームの在り方についてはどうか。

 ゲーム機を撲滅できないのなら、前頭前野を活性化させるゲームソフトの開発が必要だ。例えば言語を人工的に左右の耳に振り分けて、「昔、昔」などといった言語を右、左に振り分ける。そうすると言語中枢は左にあるから、左から入った音声は理解できないものがある。〇・三秒ずつ同時に左右から信号が入ってくるから、それを前頭前野で統合する。これは集中力がないとできない。そうした形で情報を聞き取り、次の動作につなげるようにすれば、前頭前野が働くゲームになる。そういうものを開発する余地はあると思う。

 ――体を動かすゲームは既にあるが、脳を動かすゲーム機というのは面白いと思う。脳の活性化に向けたゲームのありようは何か。

 ゲームで遊ぶと、時間が早くたつというのは、反射機能ばかり使って、思考が起こらないからだ。むしろ思考が入って、ある程度時間が必要だというのは、前頭前野の活性化につながり、こういった要素を取り入れることが大事だと思う。

 女性柔道家の谷亮子さんが、どうして強いかというと、階段を上るときもランニングでも、足し算、引き算をして走っている。

 つまり前頭前野を使ってトレーニングしている。運動しながら前頭前野を活性化させている。

 ――子供の遊びが変わってきた。男の子は缶けりや鬼ごっこ、女の子は縄飛びにおはじきといった昔ながらの遊びが、いつの間にか途絶えてきた。仲間が集まってもゲームを囲むといった、遊びの世界が矮小(わいしょう)化している問題があるが。

 それを幼稚園児を使って調べたことがある。例えば、「赤揚げて白揚げないで……」といった旗揚げ体操は、脳の活性化には抜群の効果が確認された。前頭前野で右を揚げるか左を揚げるか意思決定していくので、すごく働くのだ。片足だけで立つバランスゲームもいい。

 お手玉を三個以上で連続的に集中して行うのも、前頭前野を含めた前頭葉の広領域が右手、左手と意思決定をしているので活性化されていい。特に幼児や小学生は、両親や友達と緑の自然の中で五感を刺激するような遊びを多く経験させるべきだ。

 これらのことが豊かな人間形成や創造性をはぐくむことに役立つと考えられる。

 テレビゲームに熱中し過ぎる子供は、キレやすく、注意散漫で、創造性を養えないまま大人になってしまう懸念がある。「キレる」とか「むかつく」という言葉に象徴されるように、子供の自己抑制力やコミュニケーション能力の欠如が、改めて浮き彫りになっている。

 私たちは未来ある子供たちが、虚像の世界に生きるよりも、自然の世界を大切にし、五感を働かせて伸び伸びと野山を走り回り、親子や友達との触れ合いを大切にするような教育について、考え直す必要がある。ゲームのボタンを通じた機械との対話でなく、直接人間同士が触れ合い、語り合うことが大事だ。


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