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インタビュー
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2011年8月22日

読み聞かせの幼児教育

日本大学文理学部教授 森 昭雄氏に聞く

「聞く耳を持つ」子供に育てる

 盲目で聾唖の三重苦を乗り越えたヘレン・ケラーは、「もし神様が一つだけ直してあげると言ったら、私は躊躇なく言葉が聞き取れる耳が欲しいと言う」と述べている。ヘレン・ケラーが一番欲したのは、一目で全貌を把握できる視覚でも、話せる能力でもなく、人の語る声や音楽が聞ける耳だったのだ。音が持つインパクトは、それほど大きなものがある。「聞く耳を持つ」子供に育てることを持論としている日本大学文理学部の森昭雄教授に聞いた。
(聞き手・池永達夫)


口承による頭脳訓練/映像文化のデメリットも

○――――○

 ――インドのコンピューター教育視察を終えた感想は。

 インドのコンピューター教育ではネットワークをつなげさせない。つなげる場合は先生が横にいて、一時間だけだ。基本的に講義をやり、そのノートを見ながら、自分たちでその作業をするというものだ。

 またあらゆるソフトウエアを使いこなす。その中から創造性というか、自分でこうしたらどうかといった発想が生まれてくる。その辺が根本的に日本と違うところだ。

 9歳の女の子が自分で開発したソフトを見せてくれた。左右対称の幾何学的な模様が出てくるものだ。家にパソコンがあるのと聞くと、無いという。学校で習って、自分で考えて作ったという。そうした子供の創造性を引き出すことに成功している。

 ――ネットだけつなげていると、高速ハイウエーを走っている気分ではあるけれども、高速ハイウエーを走れる車を造れるパワーにはならないということか。

 だからなかなか面白い。インドでは日本みたいに、いいパソコンを置いていない。デスクトップ型の古いものだ。そういう意味では、外的環境において日本のように恵まれていない。ただ哲学が違うだけで、こうも違ってくる。

 ――インド人特有の知的パワーではなくて、教育の問題が大きいということか。

 そうだと思う。教育の問題だ。

 戦後、独立したインドが力を入れたのは教育だった。1947年、ネルー首相はインドは何も資源がない国だとして、頭脳しかこの国が生き残る道はないという覚悟をもってスタートした。半世紀を経て、それが実ったということだ。

 ゼロを発見したインドは昔から理数系が強い国だが、とりわけ理数系でトップを行く米マサチューセッツ工科大学を模範としたことで、IT(情報技術)世界で飛翔する翼を得た。

 ――最近、どういった研究をしているのか。

 今、赤ちゃんの実験をやっている。手足を動かした時、動いたという情報は、動く前に脳が先に認知している。手が動いて、動いた手とか皮膚や筋肉からの情報が脳にフィードバックして、動いたと感じているのだけれど、そうではなくて、手足が動く前に、前脳前野の所に反応がある。それが見つかった。

 一方、赤ちゃんは脳のネットワークが出来上がる時期がある。ベーター波という波でとらえると10カ月から12カ月あたりにかけ、その電位が高くなる。それはネットワークと関係していると考えられる。10カ月というと、立ったり、言葉を言う時期と重なり、その中でネットワークが強化されていると思われる。

 ――それは幼児教育に生かせるものなのか。

 生かせる。幼児のそういう時期に、本をたくさん読んで聞かせるといい。そうすると脳の回路がどんどん組みあがってくる。さらに反復して教えていくとシナプス(神経細胞と神経細胞の接続部)が強化される。

 逆にそういう時期を逃すと、ネットワークのつながりが悪くなる。ただテレビとか映像的なものだけ見ている場合には、ネットワークがあまり働かない。お母さんが本を読み聞かせていくと、文字通り「聞く耳を持った」子供として成長していく。それがIQが高くなっていく仕組みかなと思っている。

 ――東南アジアで山岳民族の伝承文学が失われつつある。テレビが山にも入っていって、祖父母が孫に昔話を聞かせようとしても、孫の方がテレビの方が面白いと言って、そうした話を嫌がる。そうしたテレビの電波が伝承文学を駆逐している現実がある。

 歴史を見ると長年、口承による頭脳訓練がなされてきたというのが基本だ。ヒンズー教でも、口承によって一言も間違えないで経典を伝承してきた。それが何千年と続いた。

 どう覚えるかというと、一行ずつ覚えていく。明日は昨日の一行と一緒に新しい一行を覚えていく方式で、それをどんどんつないで覚えていく。

反復学習でシナプス強化/インドの幼児教育と類似

○――――○

 そうすると間違いなく脳の中に刻み込まれる。だから百人一首でも4歳、5歳で一つずつ覚えていく。そうすれば百ぐらいは覚えられる。

 それがテレビが入ることによって視覚的な面だけに頼るようになり、覚えることができなくなってきた。

 ――テレビやゲームなどの映像文化というのは、文明史的に大きな節目でもある。

 そうだ。確かに世界的な出来事が映像として映し出すインパクトは大きなものがあるし、人類がそれを共有する意味も大きい。ただ人間が学習するとか、記憶するという意味ではデメリットがあるということだ。

 視覚というのは映像が入ってくるが、言葉というのは聞いたとき、脳の中で映像化するということがある。イメージするというのがそうだし、文学というのもそういうものだ。そういう意味で、「聞く耳を持つ」人になるためには、小さい時からの教育が重要となる。

 ――森教授は、楽天からマックスブレインというテキストを売り出すそうだが、脳を最大活用しようというものなのか。

 そうだ。このマックスブレインというのは、一度、覚えたら30分後とかに、また復習できるシステムになっている。そして次の日の24時間後とか、さらに48時間後、そして1週間後、1カ月後といった形で覚えていく。繰り返し行う反復学習によって、シナプス結合を強化するというものだ。

 ――そうしたことは、インドの幼児教育と類似しているのか。

 インドの幼児教育は、見事に反復反復を繰り返す教育だ。

 そうしたインド方式を採用したのがマックスブレインのテキストだ。普通は、一回覚えるとそのままだが、このテキストでは反復して、きちっと脳に痕跡を残す。3歳から5歳ぐらいまでの幼児が覚えられるような足し算、引き算、掛け算、さらに百人一首も覚えられるようになっている。

 基本的に3歳児というのは、100まで数えられて、20まで完全に理解できる能力を持っている。

 ――20まで理解できるというのは?

 数字をただ覚えているだけではなく理解する。例えば13は、1と3と書き、10と3を合わせたもの。それから12の次で、14の前だ。不等号を使って12と13は、どちらが大きいかといったことまでやる。

 そうすると、数字というのがただカウンティングだけではなくて、その意味を理解するようになる。13にも複合的な意味がある。それを理解するだけでも、世の中が広がってくる。

メ モ
 森教授はいつも、お母さんが赤ん坊に歌ってあげる子守唄や絵本の読み聞かせの重要性を語るが、情操教育だけでなく、脳の健全な形成といった側面からも大きな意味がありそうだ。昭和22年、北海道生まれ。日本大学文理学部体育学科教授。著書に『ゲーム脳の恐怖』(日本放送出版協会)、『元気な脳のつくりかた』(少年写真新聞社)など多数。10月21日から2日間、日本大学文理学部百周年記念館(世田谷区桜上水3−25−40)で「国際幼児教育シンポジウム、インド幼児教育の現状」を主催する。同HP=http://kodomoedu.com/


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