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構造主義で作るおいしいカレー

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知の三段階

今日、人間の知は次の三段階に分けられます。

  1. 事象の収集(何があるか)
  2. 事象の理解(本質は何か)
  3. 事象間の関係化(どう位置づけるか)

人間の知に「関係」の理解という第3段階を追加したのが構造主義です。構造主義とは、事象そのものの本質よりもそれを構成する要素間の関係、つまり構造に着目する考え方です。

カレーと構造主義

ところで、カレーの本質とは何でしょうか。ルウの存在?スパイスの存在?ブイヨンにカレー粉をまぶしたもの?……カレーという概念をあらためて吟味すると、じつに「ふれ幅」の大きな概念だということがわかります。結局のところ、カレーとは、「カレー的なスパイスをつかった料理」くらいにしか説明できません。「インド料理をすべてカレーと呼ぶことは、日本料理をすべてしょうゆ料理と呼ぶようなもの」とよく言われます。「カレー」の概念的実態は、使い手によって異なる、曖昧で変動的なものと言えます。

カレーの概念が変動的だということは、それに連動して、カレーの作り方も変動的だということです。世の中に「おいしいカレーの作り方」が無数にあるのは、カレーの概念がファジーであることに起因します。そのため、おいしいカレーを作るには、「おいしいカレーとは何か?」という表面的な問いでは、カレーそのものがファジーな概念ゆえに、有効な答えを出せません。問いの立て方がまちがっています。

おいしいカレー作りに必要なのは、カレーの「飾り」を排除した根幹構造の理解、すなわち「カレーの構造とは何か?」という問いです。「隠し味」や「コツ」や「スパイスから作る方法」を知ること、ではありません。「カレー的なもの」を作るのに最低限必要な要素を抽出し、それらの関係を理解するアプローチです。この構造主義的アプローチをとることにより、いまわれわれは正統的でありつつも既存の概念にとらわれないカレー作りを可能とするのです。

カレーの構造

カレーに最低限必要なのは以下の諸要素です。

  1. とろみ要素
  2. 味付き水溶液
  3. カレー的香辛料
  4. 炭水化物

これらは、例えば次のように具体化されます。

  1. 小麦粉あるいは片栗粉、それらで炒めたネギ類
  2. ブイヨン、牛乳、水、トマトジュース
  3. ターメリック、クミン、コリアンダー、カイエンペッパー、塩
  4. 米、ナーン、チャパーティ

カレーは、以上1,2,3,4の順番で用意し、水分を飛ばして味を濃縮させながら混合すれば、最低限成立します。これがカレーの構造です。

構造主義的につくるカレー

したがって、上記の構造に沿って作れば、やや変則的な作り方をしてもカレーはカレーとして完成します。先日、筆者はここまで書いたことに着想して、やや変わったカレーを作ってみることにしました。材料は2人分です。

1.とろみ要素

  • 長ネギ 1本
  • 小麦粉 大さじ1弱
  • バター 10g
  • オリーブオイル 大さじ1強

刻んだ長ネギをバターとオリーブオイルで炒め、小麦粉を加えてさらに炒めました。小麦粉は結果的にやや多すぎました。小麦粉はこの段階で入れないとダマになります。

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ネギを焦がしてるのが分かります。よくカレーのレシピで「タマネギを焦がすな」「飴色にしろ」とありますが、感覚的には誤差です。構造にも無関係です。*1

2.味付き水溶液

  • 牛乳 200mlくらい
  • ブイヨンキューブ 1欠片の半分
  • ウスターソース 小さじ1弱
  • 人参と肉 好きなだけ

牛乳をベースに、ブイヨンキューブとウスターソースも入れました。良いウスターソースには、良いブイヨンの材料が凝縮されているので、隠し味につかうと味を一気に洋風に寄せられます。これらでブイヨン風の味付き水溶液を作ることで、カレー全体を欧風カレー側に寄せます。*2

今回は色要素として人参を入れました。構造主義的に重要なこととして、人参はカレーの構造に関係しません。よってレンジで熱だけ入れて、好きなタイミングで入れます。構造に無関係な具材は、構造に無関係ゆえに、すべて好きなタイミングで入れられます。

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このあとで鳥もも肉も入れました。

カレーと肉の関係も重要な論点です。結論を先取りすれば、肉もカレーの構造に無関係です。肉は煮込むと味が抜け、水溶液に滲出します。肉の味をカレーに強く付与したくても、単に煮込むだけでは水溶液に滲出した肉の味はスパイス等に消され、味の抜けた肉が残るだけでしょう。肉の味を強く押すならば、ブイヨンを牛骨や挽肉から本格的につくること、すなわち味付き水溶液の味を肉側に寄せる方が、構造的に正しいアプローチといえます。

カレーの構造において、肉はトッピングに過ぎません。筆者はいつも別のグリルで焼いた肉を後のせします。今回は見た目の面で混ぜ込みたかったので、グリルで焼いておいたものをこの段階で投入しました。この時点で火を止めるので、一切煮込みません。

3.カレー的香辛料

スパイスはしばしばカレーの根幹的存在として位置づけられ、どのスパイスをどれくらい入れるかが議論されます。しかしながら、構造主義的には味付き水溶液や炭水化物と同列の、一つの要素にすぎません。スパイスのこだわりは味を左右するものの、適当に入れても問題ない存在でもあります。今回は火をとめてから、色づけにターメリック、香りづけにコリアンダー、辛さづけにカイエンペッパーを入れました。*3

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ただし、ここで市販のカレールウやカレーペーストをつかうのは避ける必要があります。なぜかというと、これらはとろみ要素や味付き水溶液と重複する存在なので、このタイミングで使うと、カレーの構造を破壊するからです。ルウやペーストは、カレーの構造に沿っていません。それらをつかいたければ、パッケージの裏に書かれた手順で作るのが最善であり、その手順はカレーの構造とは異なります。*4*5

なお、今回は華やかなオレガノも入れました。インドカレーや欧風カレーにはない、華やかな香りを加えることで「変則的」感を強調できます。カレーの構造とは無関係です。

最後に塩を入れます。塩分濃度で最終的な味を決めます。なにか味が足らないと思ったら、スパイスではなく塩を追います。追いすぎたら水で薄めます。これは構造とは無関係の「コツ」です。

4.炭水化物

硬めに炊いたバターライスにしました。

完成

これです。趣味でパセリと胡椒をかけました。構造には無関係です。

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ふつう、スパイスから欧風カレーやインドカレーを作るときは、上記に玉ねぎやトマトを入れ、肉を煮込み、スパイスにクミンも入れますし、牛乳はこんなにたくさん入れません。しかし、それらのことはカレーの構造には無関係なので、無視しても、おいしくて、かつカレーらしいカレーは完成するということです。食べた人はおいしいと言ってました。筆者も食べましたが、おいしいです。

構造主義的アプローチの意義

重要なのは、上記のレシピが良い、ということではありません。カレーの構造を理解すれば、失敗を避けながらオリジナルかつ正統的なカレーを無限に構想できる、つまりおいしいカレーの幅が広がるということです。

あと最初に書いた構造主義の話はウソです。頭良さそうに見えるかなと思って書きました。つか、たかがカレー作んのにこんなクソ長い上にダルい記事誰が読むんだ???作り方のエッセンスはほぼ id:UDONCHAN さんの記事と同じだし、解説もよっぽど丁寧かつ実践的です。マジそちらを読みましょう。 本稿は時間の無駄。

tsukurioki.hatenablog.com

今後の課題など

つづく問題は当然、「カレーの脱構築 」であるわけですが、これは「脱構築」自体が概念的に定式化されていないため、当面不可能です。

あと本稿は渋谷でうたプリ広告を待ってる間に下書きしました。

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*1:タマネギを焦がさず飴色にするのは、いわゆるメイラード反応的な「香ばしい甘さ」を出すためと考えられます。これを筆者は焦がしつつの白砂糖投入でスルーできると考え実践しています。

*2:ウスターソースは味のブースト要員なので、なくてもよいです

*3:趣味として、スパイスは削る方向で考えています。コリアンダーも削りたいところです。

*4:つまりルウやペーストで作るインスタントなカレーは、カレーという概念全般の中では、構造からほぼ外れた、かなりの異端であるということです。

*5:蛇足ですが、高級なペーストならともかく、市販の固形ルウをつかうメリットは皆無です。「もうやんカレー」の店舗では、固形ルウで作ったカレーは「油丼」であるといったことが書かれていますが、これに強く同意します。固形ルウで作るカレーは、現代日本の家庭料理によく見られる、消費者を飼いならす目的で生産された「作られた伝統料理」の代表例です。