派遣のリアルは最前線にしかわからないのか
こんな記事を読みました。
大崎氏によると派遣社員は「実は安定! 実は勝ち組」で、正社員よりもワークライフバランスが手に入る「理想の働き方」なのだそうです。
もしかしてこれはトンデモ本の類なのか。もしくは派遣会社の社長というのは本当の派遣のリアルがわからないのかな。僕が見てきた派遣のリアルというものをちょっと書いてみようと思います。勝ち組?とんでもないです。
派遣で働くメリット?
大崎氏による派遣のメリットを箇条書きで書いてあるので、一つ一つちょっとコメントしてみます。
・自分が取り組みたい仕事を選べる
まぁ契約内容は事前にある程度決められるから、取り組みたい仕事を選べるというのはあってるかも。
・わずらわしい人間関係に巻き込まれない
派遣さんの昼食はここ、社員様の食堂はこちらと振り分けてあるような会社があるくらいだから煩わしい人間関係には巻き込まれにくいかも。というのはうそで「社員」「派遣」という社内に圧倒的な区別社会が形成されてますから。「おいそこの派遣」と呼ばれる覚悟はしておいたほうがいいですよ。
・職場のトラブルには派遣会社が対応してくれる
いや、しますよ。しますけどどこまでやるかは営業担当次第。派遣会社の営業担当も派びっくりするほど離職率が高いので問題解決できる担当は正直少ない。労働法の知識とか一般教養、営業スキルなど必須のものを持っていなかったら解決なんてできない。「対応してくれるけど何の役にも立たない」というケースが多いと思うよ。それくらいなら変にチャチャ入れられるくらいなら自分でやったほうがマシ。
・残業した場合はすべて時給換算
そうかな。「次の契約も更新してほしいから無償で残業してます」という人もいる。タイムシート(時間計算用)にサインをしながら「あとコレとコレやったら帰っていいよ」という指揮命令者もいる。本当のリアルはそこにあるのかな?
・介護や育児をしながらできる仕事を選べる
仕事を決める前に「介護しています」「介護しています」と言っても都合の付く仕事があればもちろんその通り。でも仕事をしていて急に「介護しなくてはならなくなった」「育児しながらやっぱり働きたいし週に3回は午前中だけにしたい」とか言い出すと間違いなく何が起こるかはわかりますよね。
・正社員を目指す人には「紹介予定派遣」制度がある
ありますよ。仕事の案内の時点で「紹介予定派遣です」というもの。その場合は最長で6ヶ月という派遣期間、その6ヶ月後に「社員採用されるかされないかの採用試験、面接などのジャッジ、採用可否の決定」があってから社員採用だけど。企業にとって「面接、書類選考だけで採用するよりミスマッチが少ない」という反面、派遣スタッフとして契約期間があるだけで正社員より一歩低いランクとして扱われる可能性が高い。もちろんその人の適正やスキル、人柄などにもよるんだけど。紹介予定派遣で正社員になったあとそういう人間的な苦労で辞める人は少なくない。
・起業や独立を目指し経験が積める
業務が特殊な場合、経験はつめることがある。貿易関係の事務とか。派遣期間中に身につけたスキルはもちろんその人の武器になる。でも派遣期間中に知ってしまった情報については派遣期間終了時に「守秘義務契約」できつく縛りが出るので要注意。
これ、本当にメリットといえるのかな。文言通り受け取ればメリットだとは思うけど、働き続ける人にとってそれらをメリットと言えるかは疑問。人間って歳を重ねるに従って環境が変わるんですよ。結婚したり子供ができたり介護したり病気になったり。そのたびに仕事を選ぶのって実は結構たいへんなんです。それよりも正社員として働いて社内規定の中で介護したり育児したりするほうが賢い、とは思うんですよ。
派遣スタッフの苦悩
昔、ある女性の派遣スタッフブロガーの読者をしていました。指揮命令者の無茶な命令に我慢して仕事をしたり、正社員のお局様のいじめに耐えたり、他の社員の失敗した責任を押し付けられたりしている様子を毎日のように記事にしていました。
でも、3ヶ月に一度くる契約更新の時はかならず「次回の更新もありますように」って記事に書かれるんですよ。こんなに苦労したり嫌な目にあっててもなんでこの仕事を続けたいか聞くと「時給高いし派遣スタッフに我慢なんて当たり前のようなものだから」って返ってきて、まさに派遣のリアルってこんな部分にあるのかなと思いました。
そして契約満了の1ヶ月前、「次の契約延長が決まりました!」って記事がアップされると読者の人からコメント欄にアップされるんです。「よかったですね!」とか「おめでとう!」とか「次探さずに済みましたね!」とか。
でも逆に、「良かったですね。私は次の更新が無いと言われました」とか「次の仕事が決まりません」とかいうコメントも山のように。人材派遣というシステムはこうやって一見華やかで「新しい労働スタイル」のように見えて実は闇の深いなものだと思うんです。
問題の本質はどこにあるか
人材派遣というシステムは「派遣会社、スタッフ、派遣先企業」の3つで成り立っていますが、現在の派遣法上優遇されている順位としては派遣先企業>派遣会社>スタッフです。
同一業務同一賃金はいつ実現するんでしょうね。派遣期間が不安定なため安定しないスタッフがなぜ一般社員より給料が低いんでしょう。逆に言えば不安定な分一般社員より金額が高くても当然だと思うんですけど。昔は派遣スタッフの時給ってもっと高かったんですよ。派遣会社の乱立で一気に時給が下がった感があります。結局派遣会社が安く契約をとることでスタッフ時給が抑えられてしまう現実があります。
そして、「欲しい時に欲しいだけ、要らなくなったら派遣期間満了でいつでも捨てられる」というメリットばかり享受できる派遣先企業の法律上の優遇をさっさと変更しないとダメでしょうね。
経済は企業が支えてるんじゃなくて人が支えているんだから。
最後に
派遣会社の営業担当として、支社長として任された経験からつらつらと書いてみました。もしかすると「社長になったらそんな細かいことはどうでもいいんだ」とか「社員を養うのにいちいち小さなことは目をつむらなくてはいけないんだ」とか言うことが社長になると起こってしまうのかもしれません。もしくはこの社長さんが出した本を売りたいがためのリップサービスとして「派遣のメリット」を広告代わりに載せたのかもしれません。
でも、現場には現場の声がありますからね。現場には神がやどるんですよ。現場の声を無視していくら綺麗な世界をうたったところでそれは幻に過ぎませんから。
僕の意見とは合わないのでこの社長さんの本は紹介しません(笑)読みたい方はリンク先の記事から探してみてください(^_-)