個人差はあれど、体力や気力は加齢とともに落ちていくもの。しかし、元気だった両親や祖父母に、「物忘れが頻繁になった」「無気力になった」などの様子が見られたら、要注意。認知症のサインかも知れません。
今回はそんな認知症の兆候について、看護師として介護施設や精神科での勤務経験があり、現在はライターとして活躍する鈴木優子さんのコメントを交えながらご紹介。具体的な認知症の初期症状と、それを見逃さないために家族ができることをお伝えします。
鈴木優子(すずきゆうこ)
看護師資格を持つライター。精神科、介護施設をはじめ、循環器病棟、混合病棟など、数々の医療現場を経験。約20年の看護キャリアを持つ。現在は「ナースときどき女子」http://kango-oshigoto.jp/media/を中心に、看護師向け情報サイトで執筆活動を行う。
4人に1人が認知症または予備軍。もはや他人事ではない
今や国民病とも言われる「認知症」。厚生労働省の発表(※1)によると、全国の65歳以上の高齢者のうち約462万人、約7人に1人(※2)が認知症だとされ、正常と認知症との中間状態、軽度認知障害(MCI)の約400万人を合わせると、約4人に1人が認知症またはその予備群だと言われています。
認知症は、もはや誰にとっても他人事ではない時代。例えば働き盛りの世代がある日突然、認知症になった両親を自宅で介護したり、施設に預けたりする立場になる可能性もあるのです。
※1… 「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html
※2… 2012(平成24)年現在
知っているようで知らない?「認知症とは?」
認知症とは、何らかの原因で脳の神経細胞が壊れることによって記憶力や判断力が低下し、生活や対人関係に支障を来している状態。
認知症を引き起こす病気には、脳の神経細胞がゆっくり減少する「変性疾患」や、脳血管の病気が原因とされる「脳血管性認知症」などがあり、うち「変性疾患」には、認知症の約半数を占めるアルツハイマー型やレビー小体型が該当します。
2つに分けられる認知症の症状
認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状」2つに分けられます。「中核症状」は、脳の細胞が壊れることにより直接引き起こされるもの。「記憶障害」や時間・場所などが分からなくなる「見当識障害」、2つ以上のことを同時に処理できない「理解・判断力の障害」、計画を立てて実行することが難しくなる「実行機能障害」などの症状が見られます。
一方の「行動・心理症状」は、中核症状によって上手く生活できない場合に、性格、環境、人間関係などが絡み合って起きる症状のこと。周辺症状とも呼ばれます。
見つけたら要注意!『認知症のおもな兆候11』
そんな認知症の兆候として、看護師として約20年間働いたキャリアを持ち、現在はライターとして活躍する鈴木さんは、経験から次のような例を挙げてくれました。
見つけたら要注意!『認知症11のサイン』
1. 身なりを気にしなくなった
2. 怒りっぽくなった
3. 趣味への興味を失った
4. 言い訳したり、ウソをつくようになった
5. 疑り深くなった
6. 食べ過ぎ・食べ忘れをしてしまう
7. 薬など、管理を要することが苦手になった
8. 物をおいた場所を忘れ、探し物が多くなった
9. いろいろなことを失敗するようになった
10. 他人の意見を聞かなくなった
11. 1つのことしかできなくなった
1. 身なりを気にしなくなった
「例えば、まめに美容室へ通っていた方が、行くのを嫌がって白髪を染めなくなったり。お風呂好きの方が入浴しなくなったり。女性で分かりやすいのは、スッピンを嫌っていた方が急にお化粧しなくなることです。あとは、鏡を見なくなる方も多いですね」(鈴木さん)
また、服装も必ずチェックしてほしい、と鈴木さん。
「前は何でもアイロンをかけていた方がヨレヨレの服を身に着けるようになった場合や、お洒落で洋服持ちの方が同じ服を着続けている場合、他にも夏に冬用セーターなど、季節感のない服装をしている場合も同じです」(鈴木さん)
2. 怒りっぽくなった
さらに、感情の抑制が効かなくなり、急に怒ったり泣いたりする場合にも、用心が必要なのだとか。
「“お父さんが急にキレるようになった”とか、“おばあちゃんがやけにガミガミ言うようになった”という場合には、怒ったり叱ったりしていることをご本人が上手くできているかを確認してください。認知症になると、ご自分でも上手くできていないのに自覚がなく、それができないご家族を叱ったりされることもよくあります」(鈴木さん)
3. 趣味への興味を失った
「例えば、写真を撮ることが好きだった方がカメラを手にしなくなったり、庭いじりを好きだった方が庭に足を踏み入れなくなったり。特に後者は経験上、配偶者に先立たれた男性によく見られるケースで、庭が荒れがちです。認知症になると集中することが難しくなるので、趣味も上手くいかなくなってやる気をなくし、次第に趣味自体を忘れてしまうことが多いようです」(鈴木さん)
周囲が変化に気付いて声をかけても、次のような反応が返ってくるそう。
「“後でやるよ”とか“それはもういいの”などと返事をされるため、ご家族は気のせいだと思ってしまうようです」(鈴木さん)
4. いろいろな失敗をするようになった
前は難なくこなしていたことを失敗するようになった場合も、認知症を疑ったほうがいい、と鈴木さん。
「よくあるのが、一見似たものを取り違えるパターン。料理で塩と砂糖を間違えることや、日曜大工でドライバーのプラスとマイナスがどちらか分からなくなることも。ちょっとしたミスが重なります。“あれ?またやっちまった”なんていうお父さんの台詞は、定番です」(鈴木さん)
人によっては、そうした間違いを気にせずに病状が進んでしまう場合や、逆に思い詰めてうつ状態になる場合もあると言います。
5. 言い訳したり、ウソをつくようになった
認知症になると、失敗を隠すために言い訳をしたり、ウソをつくようになると、鈴木さんは続けます。
「小ボケ状態なので、失敗した自覚があることも多いんです。だから“これは○○したから☓☓になっちゃったの…”などと言い訳をしてごまかしたり、ウソをついたりされるんですよね。初期なのでご自分が認知症だと認めたくなくて、そうしてご自身にも言い訳している方もいらっしゃるはずです」(鈴木さん)
6. 疑り深くなった
周囲に根拠のない疑いをかけるようになるのも、代表的な兆候なのだとか。なかでも『もの盗られ妄想』は、家族や介護士など身近な人に対して抱きやすいと言います。
「“私の通帳を知らない?”とか“印鑑は?あなたが持って行ったの?”などと軽く尋ねることもあれば、“私のお金を盗ったでしょ!”と詰問することも。後者の場合、病気が進行している場合もあります。
原因の1つとして考えられるのは、記憶力と判断力が衰え、その人を信じていいか分からなくなること。決して自分で失くしたとは思わず、大抵の場合探そうとしないことも特徴的です」(鈴木さん)
7. 食べ過ぎ・食べ忘れをしてしまう
過食と、反対に食べ忘れることも重要なサインとして挙げた鈴木さん。記憶障害に加え満腹中枢に損傷を受けることが、主な原因とされています。
「冷蔵庫の食材を手当たり次第平らげたり、同じ食品をひたすら食べ続けるという方も。その場合やはり太っていく方が多く、同じ食品の包装ばかり何枚もゴミ箱にあるのを見て、ご家族が異変に気づくこともあるようです。
逆に食事をとり忘れて、痩せていく方もいます。独居の場合、ヘルパーが前回作って置いていった食事に手がつけられていないことに気づき、発覚するケースもあります」(鈴木さん)
8. 薬など、管理を要することが苦手になった
時間などが分からなくなる見当識障害の影響で、さまざまな管理を上手くできなくなることもあるそう。
「典型的なのが薬です。飲むべき時間や量、種類は決まっていますが、認知症を患うと時間感覚が鈍るので、ルールに従うのが難しくなります。飲み忘れたり飲み過ぎたりすることで、危険な状態になることも。
介護施設に勤務していた頃、デイサービスに来所された利用者さんの血圧が非常に高かったので確認したところ、薬の飲み忘れが原因だと分かりました。後で介護士がご自宅に伺うと、飲まなかった薬が山ほど出てきました」(鈴木さん)
9. 物を置いた場所を忘れ、探し物が多くなった
また、よく見られるのが、物を置いた場所を忘れて探す行動。
「“鍵がない”“財布がない”と、外出前に何かを探す方が多いですね。同じ行動は健康な方にも見られますが、認知症の場合に異なるのが、物をしまっておく場所があったことや、物をしまった体験自体を忘れてしまうこと。
さらに探す頻度も高く、外出の度に“鍵がない”という方もいるぐらいです。それで“あなた、私の鍵をどこに持っていったの?”などと身近な人を怪しむことがあれば、認知症の疑いが強まります」(鈴木さん)
10. 他人の意見を聞かなくなった
誰かが意見を言っても聞く耳を持たなかったり、会話を遮って違う話を始めるといったことが続いた場合にも、認知症の可能性があると鈴木さんは指摘。
「認知症になると意欲や理解力も低下するので、人の話や意見を聞いて新しい情報を吸収したがらない方も多いですし、情報自体が頭に入ってこないという方もいます。あるいは、認知症になると失敗が増えるため、例えばご家族に話しかけられても“責められるのでは?”などと不安になり、聞こえないふりをする方もいるでしょう。そして、徐々に会話が成り立たなくなっていくんです」(鈴木さん)
11. 1つのことしかできなくなった
2つ以上のことを並行して進められなくなった場合も、認知症の中核症状の1つ、実行機能障害の影響が考えられると言います。
「昔は料理の手際が良かったお母さんも、認知症の影響で例えば煮物をしながら炒めものの準備をする、といった並行作業ができなくなり、料理にすごく時間がかかるようになったという例もあります。
あとは、食事のマナーに厳しかったお父さんが三角食べをできなくなり、一品を集中して食べるようになったというケースもあります」(鈴木さん)
「早期発見」のために、家族ができること
鈴木さんは、認知症のサインを見逃さないために家族ができることとして、次のようなものを挙げてくれました。
もとの性格、行動を覚えておく
「もともとのご本人の性格と行動を覚えておいてください。そこから大きく外れることがあれば、認知症を疑ったほうがいいでしょう。ご本人がいきなり怒りだしたとしてもつられず、冷静に対応してください」(鈴木さん)
まめにコミュニケーションを。頻度も大切
さらに、コミュニケーションをまめに取ることも大切だと、鈴木さんは明言します。
「離れて住んでいる場合でも、最近はスマートフォンを使ってテレビ電話ができるので、映像でご本人の表情を確認できます。認知症になると表情が乏しくなりがちなので、兆候がないかチェックしてください」(鈴木さん)
また、鈴木さん曰く、連絡の頻度もポイントだそう。
「以前は頻繁に連絡していたのに、突然連絡が来なくなったとか、反対にやたらと連絡が来るようになったという場合も、注意してください。後者の場合も、実は認知症になって不安で何度もかけてきていたり、記憶障害で電話したことを忘れて何度もかけてきている、ということが考えられます」(鈴木さん)
家の中が片付いているか確認する
続いて鈴木さんは、家の中の様子もときどきチェックしてほしいと述べました。
「認知症になると片付けができなくなり、家の中が散らかりやすくなります。物が部屋から溢れたり、ゴミが放置されている場合も。あとは動く気力が失われて行動範囲が1部屋だけになり、そこが汚れることもあります。
直接お宅を訪れていただくのが一番ですが、テレビ電話の時、さりげなく背景に写る部屋が片付いているかを確認していただくのも手です」(鈴木さん)
行事がちゃんと行われているかチェックする
高齢者は仏事などの行事を重んじる傾向が強いため、そうしたイベントが例年通り行われているかを確認するのも、できることの1つだと鈴木さんは話します。
「例えばお盆やお彼岸、できるだけ様子を見にいったり準備を手伝ったりして、おかしいと思ったら専門医に連れて行ってください」(鈴木さん)
進行を遅らせられる?早期発見のメリット
認知症を早期発見するメリットについて、鈴木さんは次のように語りました。
「認知症のなかには早期に治療すれば治る種類もありますし、早くから症状に合わせて適切なケアを行うことで、進行を遅らせることも可能です。今は複数の薬が認可され、脳を活性化するリハビリもあります。
また、早期発見することで、その後ご本人がどんなケアを望むのかを確認する時間が取れますし、ご家族も心と介護体制の準備ができます」(鈴木さん)
さらに、専門医を受診するまでの間、できれば本人の様子を記録しておいてほしい、と鈴木さん。
「行動をメモしたり、部屋を写真に撮るのもいいでしょう。それらの材料をもとにご本人の様子をなるべく正確に専門医へ伝えることで、適切な処置が受けられます。」(鈴木さん)
歳のせいにしない、“うちの親に限って”はない
最後に鈴木さんは、“何でも歳のせいにしないことが大切だ”と結びました。
「“歳だから頑固になったんじゃない?”“歳だから体力が落ちたんじゃない?”と、何かと年齢のせいにされるご家族がいます。そしてそんなご家族に限って、ご本人に認知症の兆候が出ていたとしても、認めたがらない場合が多い。でも、認知症に“うちの親に限って”はありません。誰にでも起こりえるんです。
若い世代は、どうしても自分たちの暮らしでいっぱいになって、ご両親やおじいちゃん、おばあちゃんの様子に無関心になりがち。ですから、できるだけまめにコミュニケーションを取り、日頃からご本人に目を向けてください。
そうすることで小さな変化にも気付き、認知症の早期発見、引いては予防にもつながるはずです」(鈴木さん)