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実体験としての「憲法・国家・人権」
私が憲法研究者になる上で影響を受けた本を選びました。『憲法の想像力』を書かれた奥平康弘先生は著名な憲法学者で、昨年惜しくも亡くなられましたが、社会的なニュースにもなった事柄を、憲法の視点から柔軟に考えてみるということをされています。
本書で扱われているのは、たとえば'99年にニューヨークのジュリアーニ市長がブルックリン美術館への公金支出を中止すると表明し、騒動となった事件。
マリア像の素材に象の糞を使ったケニア出身の画家の作品の取り扱いをめぐるやりとりから、表現の自由について考えていく。
奥平先生の学問的な代表作ではないですが、実社会の出来事から憲法について説き起こす姿勢には「研究者が専門分野の殻に閉じこもっていたのでは意味がない」と強く教えられました。
次の『比較不能な価値の迷路』は、私が大学2年の時、進路を決めるきっかけとなった一冊です。
私たちの社会は互いに理解しがたい価値に満ち溢れている。その中で国家という共同体を作りあげていく基本となるのが憲法だ、ということが説かれています。なかでも、次の一節の印象は鮮烈でした。
「人権が大切であることを、ポストモダン状況を生きるわれわれは、エアコンのきいた部屋でお茶を飲みながら、ボスニアの惨状を伝えるテレビや新聞を見ることで知るのだ」。
6位の『謎の独立国家ソマリランド』は、アフリカ東端の小国への潜入記です。憲法学とどのような関係があるのかと思われるかもしれませんが、「国家」というものを考える上で非常にいい素材を提供してくれています。
イギリスやフランスのように近代国家として長い歴史のある国だと、国家の成立過程は実感として掴みづらいものです。一方、ソマリランドは成立してまだ20年ほどの若い国家だけに、国の形が出来上がっていく過程がよくわかる。
著者の高野秀行さんが鋭いのは、単なる旅行記ではなく社会学的な視点で分析を積み重ねていくところ。
同じソマリ人による国家なのに、なぜ隣接する南部ソマリアが凄惨な内戦に陥ったのか。周囲が戦争状態にある中で、ソマリランドはなぜ武器を持たない平和国家となりえたのか。先入観を一変させられるルポで、軽妙さもあり面白いです。
『矢倉の急所』は、将棋の森内俊之九段による定跡書です。
「矢倉」というのは、駒の配置が櫓のように見えるところから名づけられた戦法で、将棋では基礎中の基礎。この本に影響されて、私は以前『憲法の急所』という本を書きましたが、法学と将棋は非常によく似たところがあると思います。
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