(cache) ◆ 英国は EU を離脱するか 3:  nando ブログ

2016年06月24日

◆ 英国は EU を離脱するか 3

 英国の EU 離脱の国民投票は、離脱派が多数を占めた。では、今後はどうなるか? 

 ──

 「離脱派が勝利したのだから、離脱するに決まっている」
 と思うかもしれないが、さにあらず。前項・前々項でも示したように、「交渉継続」という形で、「問題を先送りする」ということも考えられる。そして、実際には、たぶんそうなるだろう、と思える。
 本項では、その理由をいくつか示そう。

 民主主義と国民投票


 「国民投票で多数になった方が優先されるべきだ」
 と思う人が多いだろうが、それは妥当ではない。それは民主主義というものを根本的に誤解している。
 民主主義とは、一般に、政権を委ねる相手を決めることを投票で実現することだ。ここでは、たとえ1票(または1議席)でも多数を占めた側が、政権を取る。負けた方は指をくわえるしかない。
 一方、個別の政策については、政権を取った側が決める。日常業務については、行政の長が決める。個別の法案については、議会の多数派が決める。いずれにしても、国民は関与できない。これが、間接民主主義というものだ。
 ここでは、直接民主主義の発想は成立しない。仮に国民投票が実現しても、国民投票で勝利した側の方針が実現されるとは限らないのだ。それが実現されるかどうかは、あくまで行政府や立法府が決める。その際に、国民投票の結果は、尊重されるだけであって、ただちに実現するわけではない。今回は、2年間の猶予期間(交渉期間)があるから、その間は何もしなくても問題ない。また、さらに長い期間を猶予期間にすることも、あまり問題がない。
 その猶予期間のうちに、ふたたび国民投票を実施して、先の方針をくつがえすことは、十分に可能だ。そして、たぶん、そうなるだろう。
 つまり、将来的には、国民投票がふたたび実現すると思う。そして、その前提は、「 EU 残留が大幅に多数派になること」である。
 そもそも、現状のように、ほぼ半々みたいに拮抗している状態で、片方の側に決めるというのは、民主主義の正しい使い方ではない。民主主義の正しい使い方をするならば、
 「国論が真っ二つに分かれているときには、結論を保留する」
 というのが正解だろう。政治的にも、倫理的にも、感情的にも、ここは「保留」とするのが妥当だ。そして、国民の意見が片方に集約されるようになった時点で、ようやく恒久的な方針を決めればいい。それまでは、「保留」つまり「実行の先延ばし」という形で、はっきりとしたことは決めない方がいいのだ。
( ※ いったん「離脱」を実行したあとで、「やっぱり残留した方がいい」という声が多数派になったら、それこそ悲惨だ。)
 

 スコットランドの独立


 英国の EU 離脱の投票結果を受けて、スコットランドの側が「英国からの離脱」を表明した。
 《 スコットランド首相、英から独立示唆 EU残留望む 》
 英紙ガーディアンによると、スコットランドのスタージョン行政府首相は24日、同地域の投票では欧州連合(EU)残留が多数を占めたことを受け、「スコットランドの人びとはEUの一部で有り続ける意思を明確に示した」と述べ、EUに残留するため英国からの独立を求める意向を示唆した。
( → 日本経済新聞 2016/6/24 13:38

 これは当然だろう。スコットランドは、スコッチや魚類の輸出などで、EU との結びつきが強い。イングランドとの交易より、EU 全体との交易の方が、比率は高いはずだ。となると、スコットランドが独立したがるのは、当然だ。
 特に、離脱後は、英国全体に高率の関税がかかるようになる。そうなったら、スコットランドからの輸出は壊滅的になるかもしれない。これを避けるためにも、EU 残留を望むだろう。そのために、英国からの独立を望むだろう。
 スコットランドの独立派は、前回の住民投票では、45% 対 55% で敗北した。
  → 2014年スコットランド独立住民投票 - Wikipedia
 しかし、今後は、欧州残留派の上乗せが 10〜 20% ぐらい望める。つまり、スコットランド独立派は 45% だったのが、55〜65% に増えるはずだ。となると、独立は達成される。

 結果的に、どうなる? 
  ・ スコットランドは、独立。(EU残留)
  ・ 北アイルランドも、独立。(EU残留)
  ・ ウェールズは、迷ったすえ、真似して独立。(EU残留)
  ・ イングランドだけは、離脱派が優勢。(離脱)

 こういう形になりそうだ。
 つまり、「英国の EU 離脱」は、実際にあるとしても、「英国が解体したあとで、イングランドだけの離脱」となるだろう。他のスコットランド、北アイルランド、ウェールズは、EU 残留となるわけだ。
 そして、そういう状況を見たら、イングランドも「じゃ、おれたちも、離脱はやーめた」というふうに方針転換をする人が、10%ぐらいになりそうだ。
 この状況で、ふたたびイングランドで国民投票(住民投票)をすると、残留派(≒ 英国解体の反対派)が増えるはずだ。
 かくて、元サヤになりそうだ。


スコットランドは残留派が圧倒的多数



 移民制限の実行


 そもそも、今回の投票は、「 EU 離脱の是非」を問う投票ではなかった。「移民の是非」を問う投票となっていた。
 国民投票に向けたキャンペーンで、離脱派は移民問題に焦点を絞り、「EUにとどまる限り移民は減らせない」と主張。
( → 朝日新聞 2016-06-24

 こういう状況があったのだ。とすれば、「離脱派が勝利したから、離脱する」ということにはなるまい。むしろ、「移民阻止派が勝利したから、移民を阻止する」というふうになるのが当然だ。
 今後2年間の交渉期間のうちに、政府はいろいろと必死に努力するだろう。特に、「移民制限」という方針を、効果的に実行するだろう。
 では、そうすると、どうなる? 「移民制限のためには、EU 離脱が必要だ」と思い込んでいた人々の、論拠が失われる。
 「なあんだ。EU に所属したままでも、移民制限ができるのか。だったら、離脱しなくてもいいや。離脱はやーめた」
 と思う人が増えるだろう。この状況で、国民投票をすれば、今度は残留派が多数になるはずだ。かくて、元サヤ。

 結論


 いずれにしても、「先延ばし」のあとで、「元サヤ」になりそうだ。それが、私の見通しである。
 つまり、「離脱派が勝利したからといって、離脱がまさしく実現されると信じて、あたふたする必要はない」ということだ。ここはじっくり腰を落として、先のことをゆっくり考えるといい。

 今後の見通しとしては、とりあえずは「スコットランド独立」の動きを見るといいだろう。流れとしては、次のようになりそうだ。
  スコットランド住民投票(結果は独立) → 英国で再度、EU 離脱の国民投票


 ──

 マスコミは「英国の EU 離脱」を既定路線として報じているが、「英国の EU 離脱」はありえない。あるとしたら、スコットランド独立後の、「イングランドの単独離脱」だけだろう。(北アイルランドとウェールズは方針不明だが、たぶんスコットランドと同様になる。)
 結局、最悪の場合でも、「イングランドの単独離脱」があるだけだ。それが起こる可能性も低い。
 つまり、「英国の EU 離脱」が決まったからといって、それが実現するとは限らないのだ。むしろ、その前に、「英国の解体」が起こる。こちらにこそ着目するべきだ。(英国全体の EU 離脱は、ありえそうにない。)

 なお、「スコットランド独立」のほか、「移民規制の強化」の動きも注目したい。これも今後の方針に影響を与える。



 【 関連サイト 】

 EU 離脱の法的手続きについては、次の解説がある。
 リスボン条約第50条には、加盟国がEU離脱の意図を欧州理事会に通知した場合に適用される規定が含まれています。その規定によれば、EUは当該加盟国と交渉し、当該加盟国と欧州連合の将来的な関係の枠組みを考慮に入れながら脱退に関する取り決めを定め、合意を締結することになります。第50条はまた次のように定めています。脱退の合意の発効日以降、又は合意に至らなかった場合は上記通知から2年後に、欧州連合の条約は当該国に適用されなくなります。ただし、この期間は、欧州理事会が当該加盟国の同意の下に全員一致で決定した場合は、2年以上の延長が可能です。
( → 英国が欧州連合の残留・離脱を問う国民投票の実施へ|EY税理士法人

 原文は、下記にある。
  → リスボン条約第50条の解説(PDF)
 
 ここで注意。
 (1) 今から2年後に離脱するのではない。通知から2年後に離脱する。したがって、政権が通知しなければ、離脱は起こらない。
 (2) 通知しても、離脱が必然的に起こるとは限らない。離脱を延期する道が残されている。

 現実には、次のケースがありそうだ。
  ・ EU離脱の意図を欧州理事会に通知する時期を延期する。
  ・ 2年以上の延長を全員一致で決定する。


 比喩的に言えば、英国が「自殺するよ」と約束したとしても、自分で銃の引き金を引く必要はないし、他の国々がそれに同意する必要もない。約束というのは、反故にしてもいいのだ。特に、伯仲の結果となった国民投票の場合には。

 「反故になんかできるわけがない」
 と思うかもしれないが、2年間のうちに、もういっぺん国民投票をすれば、残留派が多数になる可能性は十分にある。特に、「移民規制」をしたあとならば。また、「スコットランド独立」の住民投票のあとならば。



 【 追記 】( 2016-06-25 )
 スコットランド独立の動きは、待ったなしのようだ。
 「2度目の住民投票をする選択肢を俎上(そじょう)にあげなければならない」。スコットランド自治政府の首席大臣を務めるスコットランド民族党のスタージョン党首は結果を受けて会見し、2014年に次ぐ住民投票の実施へ向け、法制の準備を進める考えを示した。
 スタージョン氏は、24日に出した声明で「スコットランドの人々がEUの一部としての未来を望んでいることがはっきりした」とも指摘。スコットランドがEUにとどまれるよう、全力を挙げるとした。
( → 朝日新聞 2016-06-25

 北アイルランドも同様のようだ。同じ記事から引用しよう。
 55.8%がEU残留を支持した北アイルランドでも、住民投票を求める声があがっている。
 ロイター通信によると、カトリック系のマーティン・マクギネス自治政府副首相は 24日、「英政府はもはや、今後のEUとの交渉について北アイルランドの意見を代表する民主的権限を持たない。アイルランドとの統一をかけた投票をする義務があると確信している」と語った。

 ここで、「アイルランドとの統一をかけた投票」とは、北アイルランドの「英国からの独立」(= アイルランドとの統一)を意味する。

 ウェールズは、同じ記事によると、今回は残留派が少数(47.%)だったそうだ。とはいえ、差はわずかである。もともとの独立派に、残留派の上乗せがあれば、独立は十分にあり得る。
 そもそも、ウェールズは、ケルト民族の地域であり、その点では、スコットランドやアイルランドと同様だ。アングロサクソン民族のイングランドとは異なる。スコットランドやアイルランドが独立したならば、ウェールズも独立するのが自然である。この三つが統一することもあるかもしれない。(ケルト国家の成立。)
 スコットランド、アイルランド、ウェールズという三つの地域が、それぞれ単独で国家として成立することは難しいだろう。(あまりにも小国家となりすぎる。)しかしながら、EU という枠組みのなかでの小国家ならば、特に問題はあるまい。EU という枠組みがあれば、それが巨大国家としての役割を持つので、小国家はそのなかで庇護されるからだ。
 英国(グレートブリテン)が解体されて、そのあとでスコットランド、アイルランド、ウェールズという三つの地域が、民族性を保ってイングランドから分離するとしたら、それはそれで、一種の安定性を得ることになる。

 結局、次の二者択一だ。
  ・ この3地域の独立と EU 残留
  ・ 英国が離脱を取り消す(再度の国民投票で)

 
 一方で、「英国全体の EU 離脱」は、ありえない。マスコミは、そういう方向で論じているが、そういうことはありえないのだ。ミスリードとすら言える。
 
posted by 管理人 at 23:58 | Comment(0) | 経済 このエントリーをはてなブックマークに追加 
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