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英国EU離脱へ 混乱と分裂の連鎖防げ

 欧州統合の歩みに最大の試練である。世界が固唾(かたず)をのんで見守った英国の国民投票で、欧州連合(EU)からの離脱を求める票が僅差で過半数を占めた。

     第二次世界大戦後、6カ国で出発し28カ国まで拡大を続けてきた連合にとって、初めて経験する加盟国の離脱だ。投票日の6月23日は欧州にとって歴史的な日となった。

     英国にはEU内にとどまり、自由と多様性を重んじる連合を主導してほしかっただけに残念だ。

     欧州で未知の航海が始まることへの不安から、外国為替市場や各国の株式市場が軒並み激震に見舞われている。

    グローバル化への抵抗

     市場の動揺は当面避けられそうにないが、日本を含む主要国の当局は、不安が不安を呼ぶパニックの引き金が引かれないよう、連携して鎮静化に努めねばならない。

     ただ、本格的な影響はこの先、時間をかけて英国内外に及ぶのではないかと危惧する。

     離脱の投票結果を受け、英国はEUとの新たな関係を定める交渉に入る。残留派敗北の責任を取ってキャメロン首相が辞任を表明したことから、この困難で長期化が予想される作業は、今秋選ばれる後任の指導者に託されることになろう。

     選択肢は、ノルウェーのようにEU外にいながら単一市場に参加するといったものから、一切、特別な関係を築かないものまで幅広い。いずれを選ぶかによって輸出の約半分がEU向けである英経済が受ける打撃の大きさは変わってくる。

     相手側のEUも難しい対応を迫られそうだ。英国に譲歩し過ぎればEU内で同様に離脱を目指す動きが広がる可能性を否めない。他方、英国に厳し過ぎると英国が一段と内向きになる危険をはらむ。

     さらに、これから英国や欧州の経済がどのような打撃を受けるかによっても英国なき欧州の姿は大きく左右されそうだ。経済の混乱が最小限ですむことが日本や他の域外国にとっても望ましい。とはいえ、英国離脱による痛みがさほど感じられないとなると、EU分裂の圧力が強まるといった皮肉な結果をもたらす恐れもある。

     EUはこうした国家や人々をばらばらにしようとする遠心力の高まりにどう立ち向かうべきか。まず各国の指導者は、なぜ英国でEU離脱派がここまで支持を集めたのか、冷静に点検するところから始めなければならない。

     英国の反EU論調には、もちろん固有の背景もある。覇権国だった過去への郷愁や誇り、島国独特の国民性などだ。EUの中にいながら、常に大陸欧州とは一定の距離を置いた。国境管理や通貨といった国家主権に直結する分野では、EUに特例扱いを認めさせてきた。

     だが、英国だけでなく世界的に広がりつつある自国至上主義や排外主義と重なる面も少なくない。底流にあるのは、エリート層への不信感や官僚機構の権限拡大に対する嫌悪感、移民に職や社会保障上の恩恵を奪われるといった不安である。さらに自分はグローバル化の恩恵を受けないばかりか置き去りにされているといった不満もあろう。

    日本も冷静な対応を

     そうした不満や、先行きへの不安が、移民や外国人を敵視する主張と共鳴し合う。そして他国との結び付きに背を向け、自国さえよければ構わないといった内向きの風潮に勢いを与えている。

     欧州ではフランスやオランダなどでナショナリズムを掲げる極右勢力が支持を集め、米国でも、共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏が公然と外国人の排斥や保護主義貿易を唱えている。

     欧州諸国は統合を進める一方で、疎外されたと感じる人々の思いに十分な配慮ができなかったのではないか。欧州以外の世界の指導層に突きつけられている問いでもある。

     欧州が二度と戦火を交えないようにするにはどうしたらよいか。第二次世界大戦後、戦略物資である鉄鋼と石炭を独仏というかつての敵国同士が共同管理するところから出発した欧州の統合だった。

     しかし、いくら平和や繁栄を目指した国家間の連携でも、国民の理解や支持を十分得ようとせず強引に推し進めようとすれば抵抗にあい失敗しかねない。ナショナリズムや保護主義という内向きの力に引っ張られ、分断の過去に戻らないようにするためにも、指導層は常に国民とともに進む努力を心掛けねばならないということだ。

     EUは今後、自らが目指す統合の将来像と緊密化の速度について再考を求められそうだ。

     日本経済も英離脱の影響は避けられない。英国に進出する日本企業は拠点の移転など戦略の修正を余儀なくされる恐れがある。

     一方で国民投票後、円が急騰し、株価も大幅に下落した。市場の急激な変動は警戒が必要だ。

     ただ、政府が過剰反応し、株価対策に奔走するのは賢明ではない。EUから離脱する英国、英国なきEUとどうつき合っていくのか、地球的な視野に立った対応が求められる。

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