英国の民意が世界に衝撃を走らせた。冷戦が終わって以降の世界秩序の中で、最大の地殻変動となりかねない出来事だ。

 欧州連合(EU)からの離脱か残留かを問うた国民投票で、離脱が過半数を占めた。英国は統合欧州の一員であるべきではない、との結論である。

 先の大戦後、不戦の誓いを起点に脈々と前進してきた欧州統合の歩みが、初めて逆行する。域内第2の経済力と、かつての覇権国家として特異な影響力をもつ英国の離脱は、計り知れない波紋を広げるだろう。

 この英国民の選択は、冷戦後加速したグローバル化に対する抵抗の意思表示でもある。移民や貿易など様々なルールを多くの国々で共有する流れに、国民の辛抱が続かなかった。

 それは英国特有の現象ではない。米国や欧州各国でも、グローバル化に矛先が向く国民の不満に乗じて国を閉ざそうという主張が勢いを増している。

 ナショナリズムの台頭に、主要国がいっそう結束を強めて立ち向かうべきときに、英国自身が単独行動を広げる道を選ぶというのだ。これからの英国の針路は海図なき航海となろう。

 今後の離脱交渉の行方がどうなるにせよ、英国とEUは連携の関係を見失ってはならない。両者は協調し合ってこそ、互いに利益を高め、ひいては世界の安定に資することができる。

 欧州統合の流れに水を差すことなく、英国とEU双方が新たな建設的関係を築く落着点を何とか探ってほしい。

 ■分断の修復が課題

 この投票結果を、世界の市民が離反し合う不幸な歴史の起点にしてはならない。そのために、まず修復すべきは足元の英国社会だ。激戦となった国民投票は、英国民を分断した。

 論戦では、経済危機や移民の脅威をあおる言動が相次いだ。対立感情が高ぶった空気の中で、残留派の国会議員が射殺されるという痛ましい事件も起きた。英国社会には、いまも不穏な空気が漂っている。

 残留を唱えたキャメロン首相は秋までに辞任する意向を示した。確かに、今後の国の針路を描くうえで新しい指導者を選出するのは自然なことだろう。

 ただ、首相が属する保守党内も両派で割れている。EUへの帰属意識の高いスコットランドは改めて独立へ動きかねない。政治の混乱は尾を引きそうだ。

 キャメロン首相も後継者も、国内でくすぶる対立を鎮め、EUとの関係や、世界での英国の立ち位置を冷静に考える環境づくりを急がねばなるまい。

 ■国際協調の道こそ

 19世紀の世界を制した英国は20世紀後半、深刻な停滞の時期を迎えた。その苦悩から脱し、繁栄を築けたのは、積極的に国を開いてグローバル経済の波に乗り、金融を筆頭に様々な得意分野を広げたからだ。

 ただ、その恩恵が届かない市民の不満や不安は高まり、全体的に内向き志向が強まった。復古的な主権回復派だけでなく、経済の不満から離脱を選んだ国民が多かったとみられる。

 国境の垣根が低くなったことで経済が発展しながら、国民感情は国境の壁の再建を望む。そんな倒錯した状況から生まれるものとしては、米国のトランプ現象や、欧州各国での右翼の躍進もほぼ同じ脈絡にある。

 英国に続けとばかりに、他のEU加盟国でも離脱の機運が高まりかねない。もし米国の大統領選でもトランプ氏が当選したら、さらに来年のフランス大統領選で右翼ルペン氏が勝つような事態になれば、世界は不寛容な政策に満ちてしまう。

 内向き志向の潮流が、世界を覆う事態を防がねばならない。偏狭な一国中心の考え方が広がれば、地球温暖化やテロ対策、租税問題など、地球規模の問題に対処する能力を世界は鍛えることができなくなってしまう。

 どの先進国も、政治のかじ取りが難しい時代である。低成長と財政難による福祉水準の低下や格差の拡大という問題が共通し、どの国の政治家も解決策どころか有権者への効果的な説明すら見いだしあぐねている。

 だからこそ、国際協調しか道はない。国境を超える問題への対処の道は、各国の経験と知恵を結集した行動しかないことを改めて考えるべきだろう。

 自由と民主主義の価値を唱える欧州の強い存在感をこれからも失わないでほしい。

 ■市場の動揺に対処を

 今回の英国の決定による影響は、株式・為替市場の動揺となって広がっている。まずは眼前の混乱への取り組みが必要だ。

 英国とEUだけでなく、日米なども加わる主要7カ国(G7)が中心となって、市場の不安をおさえるよう緊急の協調体制を築きたい。

 日本銀行など各国の中央銀行は金融機関へのドル資金の供給で協力しあう構えだ。不測の事態や必要が生じたときには、柔軟かつ強力に危機防止で連携してほしい。